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【完結済】神風勇太はたった一人の勇者となる  作者: みおゆ
第三章・ヨシワラトウゲンキョウ
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第18話・こんな女装癖のある、とんでもない男が勇者なんて……

 遊郭へ侵入した俺らは、ここからさらに分かれて行動することにした。


 ムギちゃんとソラちゃんはともに行動、マキと俺はさらに分かれての行動となる。


 俺は十〜十二階を担当することになっている。ひとまず十階を目指して階段を駆け上がっていく。


 エレベーターの手もあったが、なるべくすれ違う人は最低限にしたほうがリスクも少ない。体力的にはキツいが、それでも現実世界にいる時よりも疲れることはなく、身体を動かせる。ここは階段を使うことにした。


 十階まで来て、ひとつひとつ部屋を見ていく。


 ちょうど遊女が部屋から出てくるのが見え、俺はその人に向かって、


「〈断絶呪詛(ブルッフ・フルーウ)〉!」


 と、呪文を唱えた。


 遊女は一瞬身体を硬直させ、一本の黒紫色の糸が、胸から抜けて消えていくのが見えた。

 力の抜けた遊女は、ゆっくりと胸に手を当てた。


「……嘘。こんなこと……!」


 俺が前を通り過ぎようとすると、「待って!」と遊女に呼び止められる。


「何をしたの? あなた、呪いが解けるの?」


 俺は遊女を向いて頷いた。


「あなた、見ない顔だけど……。でも、今は特に追及するのはやめましょう。お礼を言うわ。呪いが解けるというのなら、ひとつお願いを聞いてほしいの」


 遊女は俺の両手を包み込むように握りながら、言う。


「鷹尾太夫(たかおだゆう)の呪いを解いて!  じゃないと、あの人が死んでしまう……!  やはり……〈勇者〉を殺すなんて、到底許されるべきではないから」


 俺は「もちろん、ここにいる全員の呪いを解いて助ける!」と答え、足早に次の遊女を探しに急いだ。

 遊女の「ありがとう」という声を背に受けながら、俺は足を動かしつづけた。


 ――それにしても、呪いを実際に解いたからだろうか。部外者であるはずの俺を、結構あっさり見逃してくれたような……?


 おそらくだが、これこそが魔王の想定するレールの上に違いない。


 クリアできないゲームは作らないと、かつて魔王は言っていた。ならば今回のルートも、このまま間違いなくイベントを進めれば、ハンドレディの元まで辿りつけるはず。


 今、ハンドレディはどこに潜んでるかわからねぇが、とにかく遊女たちの呪いを解くのが最優先だ。


 階数が上がるほど位の高い遊女がいるとあって、その数は下層と比べて少なかった。俺は、次々と遊女の解呪をしていく。


 幸い、紫(むらさき)さんと遭遇することもなく、順調に十階、十一階とすべての遊女の解呪は完了した。


 残すは十二階――最上階にいる鷹尾太夫のみ。


 このままこの〈SKILL〉で鷹尾太夫の呪いも解ければ一番いいのだが……。


 最上階へ辿りつき、鷹尾太夫の部屋の扉の前まで来た時、何やら話し声が聞こえた。

 俺は気づかれないように、そっと襖に耳を当て会話を聞く。


「……だから、この呪いは解けることはないなんし。万が一そうなった時は、容赦なく頼むなんし。子供たちを守ってほしい」

「そんな! どうして早く言ってくれなかったんだ!? 言ってくれればわたしだって……!」

「どんな呪術を用いても、この呪いは解けない。番人である紫が知ったところで、どうにもできなかった」


 どうやら鷹尾太夫と紫さんが話しているようだ。緊迫した空気が襖越しに伝わってくる。


「わっちは、子供たちが魔女の子から解放されて、幸せに生きていけるならそれでいい。もちろん、それは紫も同じ」

「わたしは嫌だ、鷹尾太夫がいなくなるなんて……! ただ、あなたが死んでいくところを見たくない!」

「……わっちは愚かだったでありんす。こうも易々と魔女の子に踏み入られ、呪いをかけられてしまうなんて……」

「違う、番人であるわたしが気づけなかったから……守れなかったから……」

「紫、自分を責めないで。あなたはよく働いてくれているわ。…………あら」


 最後、鷹尾太夫の声音が一瞬変わった。


「不届き者が、部屋の向こうにいるなんしなぁ」


 ――ヤバい、気づかれた! この匂いか!?


 直後、襖が勢い良く開かれた。

 紫さんが、俺を見下ろすように睨みつけている。


「――遊女の格好をしているが、貴様見ない顔だな」

「えっとぉ……今日からお世話になりま〜す、なんちっ……おわっ!?」


 紫さんは俺を押し倒し、顔の横に十手を突き刺した。


「まっ、待て! 俺は魔女の子じゃない!」

「貴様! こんなに濃い匂いをさせておいて、ふざけたことを言うなっ!!」


 紫さんの十手を持つ手に力が入る。

 これはマズイ、殺される前に弁解しねぇと!


「見ろ! 俺は遊女でもない! 魔女の子でもない! 俺はテオドロス王女に任命された正真正銘の〈勇者〉だ!」


 俺は鬘を取り、必死に説明した。


「なっ! 女装をする〈勇者〉がどこにいるか!」

「ホントなんだって! この格好にも理由があって……!」

「何を馬鹿なことをっ……!」

「――紫、一度下がりなさい」


 鷹尾太夫に言われ、紫さんは十手を引き抜き渋々身を引いた。


「主さん、名を何と申す?」


 鷹尾太夫に問われた俺は、身体を起こしてから答える。


「ユータ……神風勇太《かみかぜ ゆうた》だ!」


 鷹尾太夫は着物の裾で口元を隠して、しばらく思案していた。


「――テオドロス王女から聞いた勇者の名と同じなんし。すると、主さんがこの世界を救う〈勇者〉ということざんすか」


 鷹尾太夫は少しばかり嫌悪感を示した。


「こんな女装癖のある、とんでもない男が勇者なんて……。それに、この匂い」


 鷹尾太夫は今度は着物の裾で鼻を抑えた。そして、一度は見たあの顰め面を浮かべて言うのだ。


「魔女どころか……魔王と言っていいくらいに、臭うでありんす」


 ――と。

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