第17話・HA-HA-HA!! You look great in it!!
「HA-HA-HA!! You look great in it!!」
〈ユウカクガイ〉の一角にある着物屋に、そんなリアムの笑い声が響いた。
その横でムギちゃんも俺の姿を見て腹を抱えて笑っている。
ソラちゃんに至っては鼻で笑い、マキは純粋に「素敵なのですよ」と微笑んでくれていた。普段はクールぶっているケンだが、今回ばかりは顔を逸らし、肩を震わせて笑いを堪えていた。
なぜ、今こうしてみんな揃いも揃って俺を笑い者にしているのか、それは俺の姿を見ればわかることだ。
――そう、俺は今、女装をしているのだ。
ゲームの世界から抜け出せず血迷ったのではない。俺は、目の前の猫姉妹により女装させられている。
きれいな赤い着物を着飾り、腰まである長い黒髪の鬘を装着し、顔には化粧を施した。ひと目見ただけでは、誰も俺が男だなんて思わないはずだ。自分で自分自身の姿を見て、そう思う。
俺は今や、見た目だけは立派な遊女だ。
「つーか、なんで俺が女装しなきゃなんだよ!」
俺が声を上げると、ムギちゃんは笑いながら答える。
「しょうがないのニャ。遊郭内には四人必要だし、女子全員だけじゃ足りないから、ユータにやってもらうしかニャいのニャ」
「だからって……!」
「勇者様、仕方がないのです。ケンちゃんのMPを考えると、遊郭の外を担当してもらうほうがちょうどいいですし、リアムさんは……」
マキはチラリとリアムを見た。
あとは言わずもがな、だな。
リアムのガタイのよすぎる体格で遊女なんてやれば、客も遊女もビビり出して逃げてしまうだろう。
俺は腹を括るしかない、と諦め混じりのため息を吐いた。
そう、この格好をしているのは、これから決行する作戦のための準備だ。
俺だけではなく、マキとムギちゃんも絢爛な着物を着飾り、遊女の格好をしている。ソラちゃんだけは、俺らとは少し見劣る、質素な着物に身を包んでいた。
ついでに、特に必要のないリアムとケンも和装をしている。ムギちゃんが「ここは雰囲気を統一するニャ!」と言うので、ふたりも今や侍の風貌だ。リアムは「SAMURAI!!」と、とても喜んでいた。
「ハー…。ユータ、似合い過ぎててウケるってやつだ〜」
ひととおり笑ったか、リアムはやっと笑い声を引っ込めた。
「……ったく、揃いも揃って人のかわいい姿を笑いやがって」
「その姿を笑うなと言うほう無理があるわよ。……さて、作戦の最終確認でもするかしらね」
ソラちゃんの言葉に、一同は頷いた。
「今から、遊女たちの解呪を開始するわ。解呪は二手に分かれて行動よ。まず、遊郭の外にいる遊女たちの解呪はリアムとケン。所持MP内で、外にいる全員を解呪できるはずだから、取りこぼしのないように努めなさい」
「Roger!!」
「了解した」
次に、ソラちゃんは俺含む残り三人に視線を移し、説明を続ける。
「そして、お姉ちゃんたちは遊女に扮し、遊郭内の遊女全員の解呪をするわ。徹底的に遊女のフリをするのよ。特にユータ、わかってるわね?」
「はいよー」
俺がそう返ことすると、ソラちゃんは「違うでしょ! もっと女らしく!」と注意してきたので、
「わ、わかりましたわ」
と、改めて声を高めにして返事をした。
ソラちゃんは「ま、及第点ね」と納得してくれたようだ。
「わたしは、残念ながら遊女として侵入するには不自然過ぎるくらい幼い。そのあたりは自覚しているわ。だからわたしは、禿として遊郭へ入ることにする。そうすれば違和感もないでしょう」
なるほど、ソラちゃんだけ着物が質素だったのは、禿になりきるためだったのか。
それにしても、ソラちゃんって小さい割に博識だよなぁ……。ゲームスキルも高いというが、それ以外の点に置いても大人びている。
「お姉ちゃんたちが解呪しきれなかった分は、わたしがすべて請け負うから、MPの限り解呪を頼むわ。……って、ユータ! 変な顔してるけど聞いてる!?」
「ん。あー聞いてる聞いてる。バッチリだぜ」
――だけど、時折こうした声をかけてくるのは、年相応な感じがしてかわいい。口に出したら怒られそうだけど。
「……ふん。まあいいわ。解呪が終わったら、遊郭前に集合よ。さ、今から二手で手分けして遊女たちの解呪に取りかかるわよ、いいわね?」
俺らは「ラジャー!」と全員声を揃えて答えた。
着物屋を出て、俺らは四人と二人で分かれる。
ソラちゃん率いる扮装組は、真っ直ぐに甪海豚楼へと目指した。
――遊郭内に着いたら、俺はなるべく紫さんに見つからないように行動しねぇと。
向かう中で、俺はそんなことを思っていた。
紫さんと鷹尾太夫だけは魔女の匂いがわかる。鷹尾太夫は最上階にいるとすれば、そこを避ければいいだけだし、仮に見つかっても、〈勇者〉であることを話せば理解してもらえるだろう。ただ、番人である紫さんは別だ。もれなく俺を見つけたら、俺を魔女の子と認定し、攻撃をしてくるに違いない。
くれぐれも、遊郭内を巡回しているであろう紫さんには注意しなくては。
俺らが紅の橋を渡り切ると、門の前に居座る男が俺らを見て立ち上がった。
俺らはそんな男無視して、そろりそろりと遊郭の中へ入ろうとする。
「おい、ちょっと待て!」
引き止められてしまった俺らは、しかたなく立ち止まり、男を見た。
男は下から覗き込むようにじーっと俺らを見つめながら、こう聞く。
「お前さんら、見ねぇ顔だがここの者か?」
マズい。さすがに男だって、甪海豚楼のメンバーくらいは把握してるか。
――ここは適当にごまかすしかない。上手くいくかは運次第だ。
「わ、わたしたちぃ、ここで働くようになってぇ、今日がぁ、初日なんですよぉ」
俺はなるべく女声に近づくように心がけながら、そう答えた。なんとなくギャル口調になってしまっているのは、目を瞑ってほしい。
男はしばらくじーっと俺らをひとりひとり眺めていたが、やがて納得したのか、
「そうか! そりゃあ頑張ってくれや!」
と、笑顔で送り出してくれた。
「にしても、真ん中のお嬢ちゃん、別嬪さんだなぁ。今度俺ともひと晩――」
「ごめんあそばせっ!! 出勤時間が迫ってるのぉ〜!!」
寄りにもよって俺に言いよってきた男から逃げるように、急いで遊郭の中へと入った。
こうして、遊郭内の侵入には成功した。
あとは、遊女たち全員の呪いを解かなければ。
「解呪が終わったら、一回くらいあの男と遊んであげたら?」
からかい口調でそう言うソラちゃんに、俺は「そりゃあ絶対に勘弁だぜ……」と返した。




