第15話・ひとりで、思い詰めないでほしいのです
ガタッ。
意識の覚醒した俺は、その場で勢いよく立ち上がっていた。
パフェを口に運ぼうとしていたマキと二人で談笑していたであろうリアムとケンは、目を丸くして俺を見つめている。
――戻ってきた。
「Hey……ユータ、どうした?」
――今は茶屋……ってことは、このあと店の外に出たら、ひとりの遊女が俺らを殺すために、遊郭へ誘うだろう。
「ユータ、その様子だと戻ってきたのか?」
――テオドロス王女とは会う前だ。遊女の誘いに乗って、そのまま遊郭へ侵入して……。いや、その前に遊女たちの呪いを解くための策を……。
「勇者様!!」
マキの呼びかけで、俺の意識はようやく外へ向いた。刹那、俺の口に何かひんやりした物が突っ込まれる。
「はむっ!?」
「ひとりで、思い詰めないでほしいのです」
マキは俺の口からそっとスプーンを抜き取った。
思考を中断されたことで、ようやく口の中いっぱいに広がる甘さにきづくことができた。
「勇者様、なんだか疲れきっているのです。そんなときは、甘い物を食べてリラックスなのですよ」
マキに言われてきづく。
――そうだ。焦っているだけじゃ空回りだけして終わりだ。
気持ちが落ち着いたところで、俺は再び席についた。
「……何があったのか、ゆっくりでもいいので話してほしいのです」
マキに促され、俺はひとつひとつ順を追いながら、今までのことを話しはじめた――この東の国で起こったことだけに関して。
メアナさんとテオドロス王女とのやり取りに関しては省略した。それを話しだしたら時間もかかってしまう上、今回魔女の子を倒すために絶対に必要な情報でもないと思ったからだ。……ま、元々、テオドロス王女とのやり取りは話そうとしても話せないみたいだしな。それは、魔王の会話と同じ扱いらしい。
なぜ、頑なにこの世界に関することを言わせないのか意図が見えないが、まあいい。今は目の前のことを解決しなければならない。
すべてを話し終えると、みんなは重苦しい表情を浮かべていた。
「……最悪な女だとは思っていたが、ここまでとはな」
初めに、ケンがそう言葉を洩らした。
「オラ、てっきりモンスターだけをmanipulateしてるかと思ったけど、違うんだな……」
温厚で明るいリアムも、さすがにその事実には嫌気が差している様子だった。
「まずは遊女さんたちを呪いから解放して救わないとなのです」
マキの言うとおりだ。まずはハンドレディによる呪いをどうにかしなくちゃならねぇ。
そのためにはどうすれば……。
「――ハンドレディは、基本的に自分より弱いモンスターなら自由に飼い慣らすことができるが、人相手だと違うはずだ」
ケンは言い、俺を見た。
「何か条件を成立させて、契約を結ばないと相手の主導権を握れなかったはずだ。そうでもなかったら、今頃はこの世界の全員が彼女の操り人形のはずだからな」
ケンに言われて思い出す。確かに、『条件』の話は鷹尾太夫の口から出ていた。
「ハンドレディは、〈勇者〉を殺したら、鷹尾太夫の呪いが解けると条件を出して、遊女たちに飲ませたらしい……だけど、鷹尾太夫が言うには、それは嘘だと言っていた。どうせ呪いなんて解けないと……」
俺はそう話すと、ケンは「なら、こちらに利がある」と言った。
「嘘で結んだ呪いは脆い。ハンドレディ相手とはいえ、遊女たちの呪いを解呪するのは、容易いだろう」
――容易い……と言っても、そもそも『解呪』のやり方なんて俺らは知らない。
「ケン。カイジュっていうのは、オラたちでもできるのか? オラの〈SKILL〉の中に、それっぽいのはないぞ?」
リアムは言った。
「わたしもなのです。というか、解呪というくらいなのです、わたしたちの〈JOB〉ではそもそも不可能なのではないですか?」
そのとおりだ。俺らのパーティは、〈勇者〉・〈見習い魔法使い〉・〈格闘家〉・〈拳銃使い〉しかいない。呪いに関係しているメンバーなんて誰ひとりいない。
「解呪を使える者はこの場にはいないが、ちゃんと僕らの仲間にはいるだろう――『呪い』を武器とする、〈呪術師〉が」
ケンは希望を込めて言う。
「〈呪術師〉である彼女なら――きっと、解呪の〈SKILL〉も持ち合わせているはずだろう」
そこまで言われて、俺ら三人は、「あっ!」と思い当たり、同じ顔をする。
「「「ソラちゃんだ!!!」」」




