第13話・どうか頼むでありんす
ゲームの世界に来てからというもの、ソラちゃんにも鷹尾太夫にも臭がられて、少し悲しい。
今思えば、魔女の匂いってどんな匂いなのだろう。加齢臭みたいな感じだったら非常にショックである。
まあ、そこは気を取り直して。
俺らと鷹尾太夫は向かい合って座り、紫さんは鷹尾太夫の横について立っている。紫さんは俺らを監視しているが如く、さっきから鋭い視線を向けつづけている。
「さて。まずは名乗らせていただくでござりんす。わっちは……もう知っているでありんすね。そして、こちらが〈ユウカクガイ〉の番人、紫でありんす」
紫さんは軽く頭を下げた。
「――勇者御一行様、わっちの国へようこそおいでなんした。本当なら、まずは主さんらを盛大におもてなししたいところでありんすが、現状はそうもいかない事態になっているでありんすよ」
鷹尾太夫は長く息を吐き、憂いた。
「――魔女の子。彼奴が此処へ来てから、一瞬のことでありんした。この国は、呪いに包まれた。今や、この国は彼奴の支配下でありんす」
隣の紫さんも、悔しそうに眉を顰めた。
「テオドロス王女から聞いたでありんす。主さんなら、必ずや魔王を倒してれると、魔女の子も、倒してくれると」
鷹尾太夫は床に手を付き、深く頭を下げた。
「どうか頼むでありんす。この国の呪いを解いて欲しい」
俺は鷹尾太夫に顔を上げてください、と伝え、
「その、さっきから言う呪いというのは……」
と聞いた。
鷹尾太夫は顔を上げてから、視線を落とした。
「……それは」
言いかけた、そのときだった。
ガラリと背後の襖が開いた。そこには、多くの遊女たちが立ち並んでいた。
みんな一様に、萎縮した表情をしながらも、俺を……俺らを見据えていた。
その手には、クナイだったり、包丁だったり、それぞれの武器を握り締めていた。
「なっ……、何をしている?」
「…………」
紫さんはこの事態に目を丸くしていた。一方で、鷹尾太夫は悔しげに眉をひそめていた。
そういえば、前回もそうだった。遊女らは俺らの命を奪おうとした時があった。あのときは三人だったが、今は十人……いや、二十人以上はいる。
この状況はマズイ。
「鷹尾太夫、どうか許してください。わたしたちは、この〈勇者〉を信じるよりも、何よりも貴方を助けたいのです」
ひとりの遊女はそう言い、続いて、隣の遊女もひと筋の涙を流して、言う。
「それに……もう、わたしたちでは止められない!」
直後、遊女らは一斉に俺らに向かって動き出した。
「〈ライデンマ〉!」
同時に、マキが呪文を叫ぶ。あたり一面が真っ白な光に包まれた。
視界が開けてきたとき、誰かに手を掴まれた。
「勇者様! 早くここから逃げるのです! ほかのみんなも!」
俺らは逃げるようにして部屋から出た。紫さんと鷹尾太夫も俺らの後ろについてきている。
エレベーターに乗り込み、最後鷹尾太夫が乗り込んだのを確認して、急いで扉を閉めた。
「マキ! あの人たちは……っ?!」
下降中に、俺は残された遊女たちのことを聞いた。
「大丈夫なのです。ちょっと痛かったかもしれないのですが、倒してはいないのです。今は一時的に麻痺しているだけなのです」
そう言って、マキは鷹尾太夫を見た。
「ごめんなさいなのです。あの場にいたら、わたしたち……。だから、とっさに……」
鷹尾太夫は首を横に振り、「謝ることはないざんすよ」と答えた。
「むしろ、主さんらには迷惑をかけたなんし」
鷹尾太夫は申し訳なさそうに、唇を噛み締めた。
「……鷹尾太夫。遊女らはどうしてしまったんだ? なぜ、あのようなこと……」
紫さんはそう問うた。
紫さんは、どうやら本当に何も知らされていないらしい。
俺らもそこは気になるところだ。どうして、俺らを狙ったんだ?
「……この国は呪われた。魔女の子の手によって。それ故に、国の長であるわっち自身も呪われているでありんすよ」
紫さんは目を見開いた。
「ノロイって……どんなノロイだ?」
リアムは聞いた。
「死の呪いでありんす。わっちは、ジワジワと今も死に近づいている」
こんな呪いをかけるなら、いっそすぐ殺してほしいもんでありんすが、と鷹尾太夫は自暴自棄に呟いて、続ける。
「遊女らは、そんなわっちを救おうと、魔女の子に提示されたある条件を飲んでしまった。それは、〈勇者〉を殺すこと。〈勇者〉を殺せば、わっちの呪いは解けるらしい……けれど、そんなの嘘でありんす」
――それは、どういうことだろうか。
ふとケンを見ると、ケンは何か思い至ったのか、瞳に怒りを滲ませていた。
「魔女の子は、わっちを道具にして遊女らに嘘を言い、条件を飲ませ呪いを成立させた。おかげで遊女らは、すっかり魔女の子の操り人形になってしまったのでありんす」
鷹尾太夫はそこまで話したとき、エレベーターは一階についた。
扉が開く。まだ遊女たちはいなかった。
「とりあえず外に出るぞ。鷹尾太夫だけでも、安全な場ところに!」
紫さんは言い、俺らは遊郭の外へと出た。




