第12話・魔女どころか……魔王といっていいくらいに、におうでありんす
〈ニードル王宮〉から〈ユウカクガイ〉まで、また例の絶叫フライトを使い、俺たちは命からがら甪海豚楼まで辿りついた。
もうこれで三度目となる再来だ。
「まだフラフラするのです……」
マキの表情にはまだ疲れが残っていた。目をグルグルに回している。
本当にあれは勘弁してほしいものである。この冒険が終わり、無事元の世界へ戻れたら、俺は真っ先に運営に改善案を提出しようと思う。
入口の門前には、相変わらず男が座ってそこにいた。
男は俺らを見かけるなり、立ち上がってズカズカとこちらへ近づいてきた。
「なんでい、また冷やかしに来たのか!?」
さっきの件のせいで、機嫌も悪いようだ。男は俺らを睨みつける。
「いいか、金がねぇ奴が――」
「――よしなんし。彼らは、わっちのお客様でありんす」
凛とした声が間に入るや、男は背筋をピンと伸ばし、ゆっくりと後ろを振り向いた。
開いた門の前に立っていたのは、花魁道中で一度見かけた、あの美しい女性だった。
――花魁、鷹尾太夫。
「さあさ、おいでなんし。わっちも、主さんらとはゆっくりと話したいことがありんす」
鷹尾太夫はそう言って、静かに俺を睨みつけた。
◇
門を潜ると、松の木や鯉の泳ぐ池など和風の庭園が広がっていて、そこを抜けると遊郭の入口がある。
中へ入るとメインロビーが広がっており、さすがここは現代のゲームの世界と言うべきか、遊郭内には大きなエレベーターがあった。鷹尾太夫に案内されるまま、俺らはそれに乗り込む。
エレベーターの一面はガラス張りになっており、そこから外の景色を眺められる仕様になっていた。
どんどん人が小さくなっていく光景を、マキとリアムは楽しそうに見ていた。
「高い位置にある部屋ほど、位の高い花魁がいるでありんすよ。その分、値段もどんどん高くなっていくでありんすが」
そんな二人の様子を横目で見ながら、鷹尾太夫はそう話した。
やがて、最上階の十二階へと到着した。
エレベーターを出ると、目の前には大きく、ほかとは違う特別な装飾があしらわれた襖があった。
「最上階へ来るお客様は、主さんらが初めてでありんすなぁ」
鷹尾太夫は襖を開ける。開けた先には広い部屋がひとつあるのみだった。
「ここがわっちの部屋でありんす。ささ、おいでなんし」
鷹尾太夫はそう言って、先に部屋へと入っていく。俺らも誘われるまま、まずは俺から部屋に入ろうとしたそのときだった。
「…………っ!」
首元に、ヒンヤリとした恐ろしい感触が。
恐る恐る視線だけを左へ向けた。そこには、あの狐の女が俺の首に十手を突きつけていた。
「何を易々と入ろうとしている。このクズが」
狐の女は俺から視線を外すことなく言う。
「……鷹尾太夫。コイツから魔女の匂いがする。招いてよい客ではない。始末するべきだ」
鷹尾太夫は部屋から顔を出し、そっと狐の女を見やった。
「紫。十手を下ろしなんし。この方々は、わっち自らが誘った客でありんす。それに、わっちにだって魔女の匂いくらいはわかるでありんす」
紫という名であるらしい狐の女は、それでも十手を下ろさなかった。
鷹尾太夫はその様子を見て、
「――離しなさい」
と、さっきよりも低い声で言った。
「魔女の匂いをさせていても、この男は特別でありんす。テオドロス王女から話は聞いたでありんしょう。この男が、この世界を救う〈勇者〉でありんす」
「でも、コイツから魔女の匂いがするのには変わりな――」
「紫。わっちがよいと言っているざんしょ」
紫さんは、ようやく十手を懐へとしまった。
「安心しなんし。男の本性を見抜けないような女になった覚えはないでありんす。この男は、悪う男じゃないのは目を見てわかる……まったく、どうしてこんな匂いをさせているかは皆目見当もつかないでありんすが」
鷹尾太夫は俺らのほうを向き、頭を下げた。
「ウチの者が失礼をしたでありんす。どうか許しておくんなんし」
鷹尾太夫はそう謝罪し、再び顔を上げると、じっと俺を見つめた。
「……しかしまあ、テオドロス王女も、とんでもない〈勇者〉を見つけたでありんす」
鷹尾太夫は、その美しい顔を少しだけ歪ませた。
「魔女どころか……魔王といっていいくらいに、におうでありんす」
鷹尾太夫は着物の裾で、そっと鼻を隠した。




