第11話・これが最後のゲームじゃ、勇者よ
「お主ら! 妾は金目当て以外でなら来るのを許すと、最後に言ったはずじゃぞ!!」
開口一番のお説教。「おこづかいをください」と言ったらこのありさまである。うむ、当然である。
テオドロス王女は玉座の上に立ちながら、プンスカと怒っている。
逆にこの程度で済んでよかった。本気で怒らせて、打首なんて目に合っては死んでも死にきれない。ま、どっちにしろ俺はこの〈SKILL〉のせいで死にきれないんだが。
そんな冗談はさて置いて、俺は鷹尾太夫に会うために多額のゴールド必要だと、誠心誠意、事情を話した。
「むむ。いきなり金が欲しいと言うから、相変わらず失礼な奴らじゃと思ったが……そんな理由があったのか。だったら先に言わんか、愚か者」
説明をする前に説教を始めたのはテオドロス王女のほうだったが言うまい。失礼な理由で来たのには変わりないのだから。
「ならば、金なんて必要ない。妾から鷹尾太夫に、この貧乏人どもと会ってやれと、ひと声かければよいだけだからな」
「テオドロス王女って、鷹尾太夫と知り合いなンスか? ……ってか、テオドロス王女、まだ子供ッスよね!? まだ早いですよ、ヨシワラなんて!」
「違うわ! 鷹尾太夫は、正真正銘東の国の姫じゃ! 国交の繋がりがあるんじゃ!!」
いいか、妾はこの世界の王女じゃぞ! 本当にわかっておるのだろうな!? と王女はその小さな身体で大きな声を上げていた。王女なのだろうが、やっぱりあんまり王女っぽくはない。子供っぽいかわいらしさしか感じないのであった。
リアムも俺と同じ気持ちか、「Kwaii!!」と叫んでいた。さっきからずっとこんな調子である。
――しかし、そうだったのか。鷹尾太夫は、〈ユウカクガイ〉一番の花魁とだけ思っていたが、まさか国を代表する姫だったとはな。……国の代表があんな別嬪さんなんていいよなぁ。俺も東の国に移住したいもんだぜ。
そんなことを考えていたら、右隣のマキから冷たい目線を向けられていた。ちょっと怒っているようにも見えた。
ふざけるのも大概にしないと、そろそろマキの杖で叩かれそうである
「お主らの事情はわかった。このあと、妾から鷹尾太夫に一報入れておくとしよう。にしても、お前さんも勇者じゃろう? 事情を話して、中に入れてもらえんかったのか」
「いや〜それが全然」
「……ま、考えられるとするなら、遊女と遊びたいという下心が見えたんじゃろうな。まったく、勇者を見誤ったかの……」
テオドロス王女はブツブツと言いながら玉座に座り込んだ。
「む。そういえば、前来たときより仲間がひとり増えておるな。……あの、犬っころか。匂いもせんし、魔王からは見放されたらしいの。もうお主は、そのへんの犬と変わらんわい」
テオドロス王女は「かかっ」と笑った。
……って、ちょっと待て。
「テオドロス王女。その、匂いって……」
「ん? そりゃあ、魔女の匂いじゃよ。妾だって、この世界の王女。それくらい見分ける力は持っておるわ」
テオドロス王女は言った。でも、そうだったら、より疑問が強まる。
「――それなら、どうして俺と初めて顔を合わせた時、俺が魔女の子と同じ匂いがしていることを責めなかったんだ?」
そう問うと、テオドロス王女はしまったとばかりに目を見開いた。
俺は一歩前に出て、背中の剣を抜き、テオドロス王女へ見せるように突き出した。
「この言い伝えの剣……これも、元々この世界に……いえ、このゲームの設定上なかったものです。ですが王女は、昔からの言い伝えの剣だと、これを授けてくれました。王女は、この世界のことを知っていて、これを授けてくれた……そういうことじゃないッスか?」
テオドロス王女は、ギリっ…と奥歯を噛み鳴らした。
「テオドロス王女、あなたは、一体……」
テオドロス王女は扇子を開き、その表情を隠しながら、玉座から立ち上がった。
「繰り返す時の中で妾も、ちと油断したな」
テオドロス王女は、扇子を口元にズラす。そこから見えた瞳は、赤く赤く染まっていた。
「お前はっ……!」
そのとき何か異変を感じ、周りを見れば三人の動きが止まっていた。
また、俺以外の時間の流れが止まっているんだ。
あのとき、ムギちゃんの身体を借りた魔王と対峙した時と、同じように。
まさか、今目の前にいるのはテオドロス王女なんかじゃなく……。
「妾は妾自身じゃ。魔王とは、また別の存在じゃよ」
テオドロス王女は俺の思考を察したか、そう答えた。パンと扇子を閉じると、俺を睨みつける。
「……その剣は、勇者にエンディングを決めてもらいたくて妾が作り出し授けたのじゃ。もう、今回が最後じゃろうと思ってな」
テオドロス王女は、この世界が最後の世界だと知っている。
剣を作り出した……と言っているということは、テオドロス王女もある程度はプログラムに干渉できるのか。今も時間を止めているようだし……。
魔王の言っていた、『片割れ』。その正体はテオドロス王女だった……そういうことか。
テオドロス王女はメアナさんと同じように実はプログラムの干渉者だった。でも、なぜテオドロス王女まで……。テオドロス王女は、この世界の王女だからなのか?
「難しい顔をするな。お主がそう考え込んで混乱しそうだから、妾は知らぬフリをしていたのじゃ」
テオドロス王女はため息をついた。
「いいか、よく聞け。これが最後のゲームじゃ、勇者よ。いよいよ、エンディングと向かい合う時なのじゃ」
――エンディングと、向かい合う時……。
「――エンディングを決めろ、勇者よ。ひとりを犠牲にし、みなを救うのじゃ」
――ひとりを、犠牲にして。
「アイツは悪いことをした。間違ったことをした。どんな理由があろうと、倒さねばならんのじゃよ」
テオドロス王女は懇願の目で見つめた。
「所詮、AIなんて作り物じゃ。この妾も含めてな。本当に生きているのは〈プレイヤー〉だけなのじゃよ」
――エンディングを選べ、勇者よ。
また、魔王の言葉が頭の中で響いた。
俺は、ずっと魔王を倒すために冒険してきた。
その気持ちは今も変わらない。みんなで、現実世界に戻ると決めたんだ。
「魔王を倒せ、勇者。剣を握り、剣を振るうのじゃ」
ああ、そんなのわかっている。
「……なんで、魔王はこんなことをしたんだ。みんなを、閉じ込めたんだ」
俺は、テオドロス王女にそう聞いた。
テオドロス王女は、視線を落として答える。
「そんなの、いずれわかることじゃ。否、お主はもうわかっているのじゃろう?」
――俺は。
「すべては魔王を倒すのみ。せっかく、苦労してその剣を作り上げたんじゃ。妾の気持ちに応えてくれ、勇者よ」
テオドロス王女は話を終えると、パチン、と指を鳴らした。
重苦しかった空気がなくなった感覚があった。直後、ほかのみんなは動き出し、時間が再び流れ出したのがわかった。
「……んぁ? I blacked out…?」
「前にも、似たようなことがあったような……?」
「えっと、わたしたち、結局おこづかいをもらえたのですっけ……?」
全員の意識が目覚めたところで、テオドロス王女は、「かかっ」と、高らかに笑った。
「お主ら、本当に失礼な奴らじゃのぉ。妾の話があまりにも長いから、眠りこけておったか」
テオドロス王女は玉座の肘置きに肘をかけ、頬杖をついた。その瞳は、もう赤くなってなどいなかった。
「さ、こづかいとやらはなしじゃ。その代わり、東の国へ戻れば鷹尾太夫に会えるようにしておいてやる。さっさと冒険を再開しろ、勇者たちよ」
三人は、どうにも腑に落ちない顔をしていたが、すぐに気にしなくなったのか、いつもの調子に戻り、王室を出ていこうと移動しはじめた。
最後に、俺は王室を出る前に、一度振り返ってテオドロス王女を見た。
テオドロス王女は何も言わず、ただその青い瞳を向けていた。
俺は再び前を向き、王室をあとにした。




