第10話・王女がそんな簡単にお金をくれるものなのか……?
――おこづかいをもらう……? はっ、そうか!
「「テオドロス王女か!!」」
俺とリアムは同時に声を上げた。
ケンだけはピンと来ない顔をしていた。……そうか、あの頃は、まだケンはまだ俺らと行動していなかったもんな。
「テオドロス王女……なら、僕も知っているが、王女がそんな簡単にお金をくれるものなのか……?」
ケンは心配しながら聞いた。
「大丈夫なのです! 前回も怒られはしましたが、最終的におこづかいはくれたのです! 今回も必要とあれば助けてくれるはずなのです!」
マキは胸を張って答えた。
「オラは大賛成だ! テオドロス王女に会えるなら〜!!」
リアムはすっかりテオドロスラブモードに入ってしまった。
しかし、ここでひとつの問題が。
「ここからまた〈ニードル王国〉へ行くのはちょっと時間がかかりそうな……」
俺は呟き、唸った。
この世界のフィールドは広大だ。
国の行き来だけで、結構時間がかかる。
この世界の地図で言うと、〈ニードル王国〉は各エリアの中心地。……しかし、今いる東の国、もとい東エリアからそのまま真っ直ぐに行けないのだ。
〈ニードル王国〉へ真っ直ぐ道が続いているのは西エリアだけ。
そのため、一度西エリアを目指し、そこから〈ニードル王国〉へ行くしか方法はない。
そう考えると、ものすごくめんどうだ。
「No problem! マキ! ワープマホウだ! それを使おう!」
名案とばかりに、リアムはそう言った。マキは申し訳ないとばかりの表情を浮かべる。
「リアムさん。ごめんなのです。わたし、ワープ魔法なんて持ってないのです……」
リアムは相当ショックだったのか、地面に膝をつき、肩を落とした。
「テオドロス王女……」
リアムがここまで落ち込んでしまうと、おこづかいをもらう云々の前に、単純にテオドロス王女に会わせてあげたい気持ちが芽生えてくる。
「ん、あれはなんだ?」
困り果てたそのとき、ケンは何か見つけたのかそう言った。
俺らはケンの視線の先を見ると、巨大な鳥を連れた男性がひとり歩いていた。
五十代くらいの見た目の男性に連れられ歩くその鳥は、男性の背丈をゆうに越し、十メートル以上はあるように思えた。
三つに分かれたその尾は、月夜に照らされ輝いている。この街に立ち並ぶ絢爛豪華な建物に負けず、あの鳥も目立っていた。
「ほぇ〜鶴さんみたいな鳥さんなのです。鶴さんにしては大っきいし、ちょっとフォルムが違うのですけれど……。でも、この和風っぽいこの街に似合ってるのです!」
マキは鳥に興味が向いたのか、夢中になって眺めていた。
そんな俺らの視線にきづいたか、男性がこちらを向き、手を振った。
「なんだい、乗るかい? 好きなところに連れてってあげるよ」
男性は鳥を撫でながらそう声をかけてくれた。
鳥も任せなと言わんばかりに、視線を送っている。
……って、今この人、好きなところに連れてってあげるって言ってたよな? もしかして、これに乗ったら〈ニードル王国〉までひとっ飛びじゃないのか?
ゲームではよくあるよな。乗り物に乗って移動時間短縮、みたいな。
「はい! ぜひ乗らせて下さ……」
と、言いかけて、俺は男性の近くへ行き、コソコソと詰め寄るように問う。
「……あ、あの。ちなみにいくらかかりますかね……?」
この世界は金に関しちゃシビアだ。ましてやこの街にある移動手段。乗ったあとでとんでもない額を請求されたらたまったもんじゃない。
男性は大声を上げ笑うと、答える。
「ウチはタダだよ。お金なんて取らないさ。趣味でやってるから」
――無料だって!? そりゃあ助かるぜ!
にしても、すごい趣味を持ってるもんだ。ま、ラッキークッキーなんとやらだぜ。
俺は〈ニードル王国〉まで連れて行ってほしいと彼に伝えた。
彼は了解した、と言い頷くと、鳥に声をかける。鳥はそれに応えるように、その大きな翼を広げ、俺らが背中に乗りやすいように、その羽をまるでスロープ代わりにするように、片側の羽を下げた。
俺らが全員背中に乗り終わってから、男性も鳥の首元に座った。鳥のクチバシに繋がれた手綱をしっかり握り締めると、後ろを向きながら言う。
「じゃ、〈ニードル王国〉まで飛ぶからね。言っとくけど、振り落とされたら自己責任でお願いね」
男性の発言に、急に不穏な空気が流れ出す。
「……あの、それって、どういう……?」
男性はもう俺の声など聞こえておらず、手綱を引き、合図を出した。
刹那、一気に空高く舞い上がる。逆バンジーって、もしかするとこんな感覚なのかもしれない。
一定の高さまで飛び上がると、鳥は方向を定め、〈ニードル王国〉へ向かって真っ直ぐに移動しはじめた。
信じられないくらいの風圧が俺らを襲う。落ちないように必死になりながら、鳥の背中にしがみついた。
――俺はてっきり、優雅な空中散歩かと思っていたのに……!
俺らは悲鳴を上げながら、〈ニードル王国〉までの空の旅をする羽目となった。
「雲の上は気持ちいいだろう? ほら、お前さんたちも見てみなさい」
「見れるか!!」
そんな会話も交わしたような。……とにかく生き延びることに必死で、フライトを楽しむ余裕なんてなかった。
◇
ようやく、見慣れた地へ降り立った。なんとか無事、全員生きて辿りつけたようだ。
「また東の国へ戻るなら、ここで待ってるからね」
「お、おねがいしま……」
言い切る前に、俺は地面に倒れた。
マキもリアムも、すっかり憔悴しきっていた。地面の上で伸び切ってしまっている。
「ふむ。ずいぶん時間の短縮になったものだ。……どうした、みんなそんな疲れきって」
「なんでお前はいつもそう平気なんだよ……」
ケンだけは涼しい顔をして立っていた。これが元魔女の子の力……。
一方俺らは、ケンのようにすぐに動けそうもなく、王宮への入り口である鉄門の前で休んでいると、
「貴様ら、何をじっとそこでたむろしている?」
「貴様ら、何の用があってそこにたむろしている?」
懐かしい、衛兵の声が聞こえた。
衛兵ふたりは、やれやれと槍を肩にかけ、お互い対称の動きをしながら、言う。
「貴様ら、またおこづかい目当てに来たのか」
「貴様ら、少しは恥を覚えるがいい」
衛兵は同時に呆れ混じりのため息をついていた。




