第9話・お金がないなら、おこづかいをもらいに行けばいいのです!
「鷹尾太夫に会いに行く、なんて、ユータもとんでもない発想をするものだ」
甪海豚楼を目指し歩く中、ケンはそんなことを言った。
「勇者様、豪遊して遊郭で遊ぶなんて、考えてないのですよね?」
マキは念を押すように言った。
「ユータがユウカク一番のオイランと遊ぶなんて、ムリに決まってるってやつだ!」
リアムはガハハと笑った。失礼な言い草である。ま、否定はできないけど。
「で、ユータ。なぜ鷹尾太夫に会いに?」
俺はまだみんなに、これまでの経緯を話していなかった。俺はひととおり起きたことを話し終えてから、今後のことを伝える。
「鷹尾太夫――あの人が何かを握っているはずなんだ。出会った花魁も、狐の女も、みんなその名前を言っていた。それと、どうやら魔女の子……ハンドレディのことも知っているようだしな」
鷹尾太夫が魔女の子に関することを知っているのは違いない。
――『――申し訳ありません。鷹尾太夫』。
花魁の洩らした、あの言葉の真意も気になる。
話をしているうちに、きづけば甪海豚楼の前まで来ていた。
――俺は、前回ここで|ゲームオーバーになって《死んで》しまったんだよな。
一瞬、胸の奥で恐怖が蘇る。
「……勇者様」
マキはそんな俺の心情を汲み取ったのか、不安げな表情で呼びかけた。
リアムもケンも、俺のことを見守る。
――ああ。大丈夫だ。
俺は顔を上げ、「いや、なんでもねぇよ」と言って、遊郭の手前にある大門をくぐって行く。
――大丈夫。いつも仲間がそばにいる。
みんなの顔を見たら、そんな安心感で満たされ、もう恐怖は消えていた。
大門と遊郭を区切るようにして流れる大きな川に、紅の絢爛な橋がかけられている。その橋を渡りながら先へ進み、いよいよ遊郭の敷地内へと続く門の前まで辿りついた。
「はい、ちょっと待ってね」
門の前に座り込む年老いた男に、俺らは呼び止められた。
「今晩は誰に会うんだい? 相手は?」
そう聞きながら、男は右手をクイクイと動かし、まるで何かを催促しているようだった。
「勇者様、きっとお金の話なのです」
察したマキは俺にそう耳打ちした。
さすがは遊郭。タダでは入れないってわけだ。まあ、当然か。
前回はすんなりと入れたが、すでに遊女から誘いを受けていたからであろう。
ここは正直に伝えよう。いくらかかるかは知らないが、俺らだって、これまでの戦闘でそこそこゴールドは稼いでいる。ゲームの世界だし、さすがに〈プレイヤー〉が払える額にだってなっているだろう。
俺は男に、鷹尾太夫に会いに来たと正直に伝えた。すると、男は驚いて身体を飛び跳ねさせた。
「本気か!? お前さんそんな偉ぇ立場の人なんか!? 鷹尾太夫を指名するなんて!」
やっぱり、街一番の花魁様というのはすごいもんなんだなーと思いながら、俺は「ちなみに、会うにはどれくらいかかるもんなんだ?」と聞いた。
男は震える声で答える。
「……五億ゴールド」
「……は?」
俺は、聞き間違いじゃないかと耳を疑った。
「ひと晩、五億ゴールドだ。もちろん、ひとりひと晩の話だ。四人全員会うなら二十億。あ、ツケなんてもちろんナシだかんな!」
男はものすごく期待を込めた眼差しで両手を差し出した。
俺は思わず身を乗り出して言う。
「いやいや! 五億なんて馬鹿げてるだろ! そんなの一生かけても稼げねぇって!」
「……なっ! お前、ただ油売りに来ただけだってのか! やっぱりな、おめぇ見てぇな面、鷹尾太夫に会えるわけねぇ!」
「ひとこと余計なんだよ!」
ツッコミを入れてから、改めて説明した。
「あの、俺らは別に鷹尾太夫と遊ぼうってわけじゃなくて、話がしたいだけなンスよ! ただ話があるだけ!」
「信じられるか! どっちにしろ、会うのにだって金がかかる! 会って話す、それで五億だ!」
男は途端に機嫌を悪くし、シッシッと手を払った。
「さっさと失せな。金がねぇなら――」
「帰れってことだろ! 失礼しました!!」
このまま居座っても無駄だ。俺らはさっさと遊郭エリアから出た。
――くっ、毎回毎回、金がなくて追い出されてる気がしてならねぇぜ!
「Heyユータ。五億ってfive hundred millionってことだろ? 全然足りないってやつだ〜」
リアムはすっかり諦めモードだ。
「ユータ。正攻法で入れないなら、裏から回って侵入すればいい。僕らなら容易いだろう」
ケンはそう提案した。しかしだ。
「いや、まあ常識的にはよくはないけど……それもアリだが、あの遊郭内には、番人だか知らねぇが、ひとりめっちゃ強いのがいるんだよ。変に侵入して見つかったら厄介だ」
俺にそう言われたケンは、ちょっと残念そうな顔をした。
「何をそんなに悩んでいるのですか。わたしたちには強い味方がいるのです」
八方塞がりかと思いきや、マキはこの状況下で希望に満ちあふれた表情をしていた。マキには、何か策があるのだろうか?
強い味方って誰のことだろう?
マキは腰に手を当てながら、高らかに言う。
「――お金がないなら、おこづかいをもらいに行けばいいのです!」




