第7話・ゲームによくいる魔王って、とことん破壊を好むものでしょう?
――すべての記憶を消し、やり直す。
俺が……俺たちが、初プレイ時からの記憶しかないのは、その〈リセット〉のせいってことか。
「〈リセット〉の影響を受けないのは、魔王とわたしのみ。〈プレイヤー〉の記憶の維持まではできませんでした」
補足ですが、とメアナさんは話を続ける。
「すでにおわかりかと思いますが、〈リセット〉をされても、わたしの与えた〈勇者の力〉は消えません。ただし、〈セーブ〉したデータは消えますが。そして、 あなた方が積み上げてきた経験値もなくなり、レベル1に戻り、同時に冒険の過程で覚えた〈SKILL〉も、初期値に戻ります」
要は、〈リセット〉ってのは、すべてを振り出しに戻してやり直す 〈SKILL〉……ってことか。
しかし、以前魔王の言っていたとおりなら、その力はもう使えない。
使ったのなら、この世界は崩壊し、誰も救われず闇の中。
「中途半端な仕様で本当にごめんなさい。わたしの力では、ここまでが限界だった」
メアナさんは申し訳ないとばかりに顔を伏せた。
「…… 〈リセット〉には弱点があります。それは、かなりのメモリーを消費すること。データを消して、あなた方の記憶はなくなって、一見メモリーが空くように思えるけれど……しかし、わたしと魔王の記憶は残りつづけてしまう。その分、記憶のメモリーは増幅し、何より、リセットの度にかなりの負荷がかかっている」
似たようなことを、以前魔王も言っていた。
この事実は本当なんだ。
「〈リセット〉を繰り返していれば、いつかは限界がきて、この世界ごと崩壊するでしょう。そんなことが起きれば、いよいよわたしたちは救われない。〈プレイヤー〉は現実世界へ戻れない。……みんな、もう二度と目覚めない」
話を聞いていたリアムが口を開く。
「そのゲンカイは、いつなんだ? オラたちは、何回繰り返してきた?」
メアナさんは首を横に振った。
「わかりません。ただ、限界が近いことだけは感じています。だけれど、正確な数はわからない」
――メアナさんは、もう限界の一歩手前だと知らない。
魔王と俺しか、限界がいつかの答えは知らないんだ。
俺はメアナさんに『答え』を言おうとしたが、言えなかった――魔王は、頑なに『答え』を他言させないつもりだ。
――なぜだ?
「……ということは……今回の、一回限りで魔王を倒しやり切るしかない。……そう思っていたほうがよいのですね……」
隣に座るマキは重い口調でそう言った。
「……事情はわかった。だが、まだいくつか疑問はある」
続いて、口を開いたのはケンだ。
「魔王の目的はなんだ? 世界を繰り返していた理由は、〈プレイヤー〉を閉じ込める意味はなんだ?」
メアナさんは、その疑問に対しても首を横に振るだけだった。
「わからない。見えてこないんです。わたしは魔王と会話もできない。姿も見たことがない。ただ、存在を感知しただけなんです。わかるのは、魔王はこの世界を確実に手中に収めようとしていることだけ。
わたしが勇太に力を授けてから、魔王はその力を奪おうとしたのか、勇者を捕らえようとする使者――『魔女の子』と呼ばれる四人の子を生み出した。数々の戦いを用意し、勇太の力を奪おうとした」
ケンは、複雑そうな表情を浮かべながら、こう言う。
「……僕らは、勇者を倒せ――率直に言い換えれば、殺せと命令されていた。だが、勇者を倒せば、勇者は『セーブ地点』に戻り、逃げられてしまう。そもそも、勇者の力のことなど、僕は知らなかった――ほかの魔女の子だって知らない。魔王はすべてを知っているなら、なぜこんな命令を?」
俺も疑問に思っていたことだ。だが、あのときの魔王の答えは、「俺とフェアでいたい」と、述べただけだった。
メアナさんは少し考えて、こう言う。
「――気が変わった」
……え?
「途中で気が変わったんですよ。だって、今わたし言ったじゃないですか。勇者を捕らえようとしていたって。初めは、勇者を捕らえて、〈SKILL〉を奪い取ることを画策していました。しかし、いつしか魔王は方針を変えたんです」
魔王の考えがますます見えなくなっていく。そして、「フェアでいたい」と言っていた、あの言葉の意味も。
「これはわたしのいち考えですが、もしかしたら魔王は、勇太の 『リセットの限界』を狙う方針に切り替えたのかもしれません。今までの勇太は、魔女の子の手をすり抜けてきました。捕らわれたとしても、〈リセット〉を使って逃げてきた。〈リセット〉をされる度に、魔女の子に 〈勇者の力〉の説明をするのも面倒になってきたんです。魔女の子は、記憶が維持されないから。……毎度毎度そんな手間をかけるなら、〈リセット〉の限界が来るまで勇者を追い込んで、世界ごと崩壊させたほうが楽。……そう考えたのかもしれません」
でも、そんなことをしたら魔王までが崩壊に巻き込まれてしまう。
―― 『もしくは――みな、仲よく犠牲となるか』
……ふと、魔王が提示してきたエンディングのひとつが脳裏を過った。もし、魔王がそのエンディングを望んでるのだとしたら。
「……言い方は最悪ですが、魔王は、集団自殺に計画を切り替えたんですよ」
ゲームによくいる魔王って、とことん破壊を好むものでしょう? と、メアナさんは呟いて、力なく笑った。




