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【完結済】神風勇太はたった一人の勇者となる  作者: みおゆ
第三章・ヨシワラトウゲンキョウ
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第6話・わたしがあなたに、〈勇者の力〉を授けた日

「お、俺?」


 いきなり出てきた自分の名前に、戸惑ってしまう。


 メアナさんは「ええ、そうです」と答える。


「初めて出会ったときのあなたは……ふふ、驚くくらい、今と変わりませんね」


 メアナさんは懐かしむような視線を向けた。


「教会で絶望していて泣いていたとき、あなたは現れました。祭壇の上に立って現れたんです。わたしを救いに来たヒーローかと思いました。だけれど、実際に来た理由を聞いたら、『モンスターにボコボコにされてやられた』って、あなたは言ってましたけど」


 まったく、どんなタイミングで現れるんですか、とメアナさんは言った。


 ……ん、でもちょっと待て。


「俺は、モンスターにやられたって言ってたンスか? それって、HPが尽きてゲームオーバーになったってこと……ですか?」

「? ええ、そうですよ。ゲームオーバーになったら、ここへ戻ってくるシステムですから!」

「……でも、俺は死んだら〈セーブ〉した場所へ戻れて……それ以外の〈プレイヤー〉は、復活できずに、それこそ、本当に死んでしまうんじゃあ……?」


 確か魔王もそんなことを言っていた気が……。あれ? でも、魔王は、この世界から脱出できれば、ほかの〈プレイヤー〉もいっしょに助かる、なんてことも言っていたような?

 よく考えたら、若干矛盾しているような気もする。


 だが、HPが尽きてしまったら二度と目覚めないという事実は、変わらない。


「……ああ。そうでしたね。今は死んでしまったら復活できず、現実世界のあなた方も死んでしまって終わり。……そんな世界になってしまったんでしたっけ」


 メアナさんは窓の外を見つめ、フッ、と小さな笑いが洩れた。


「あはははは! そんなのあるわけないじゃないですかー!」


 メアナさんの口から、堰き止められていた笑いが一気に飛び出した。


「マンガの読み過ぎですよっ! あはは!」


 ――え……。えーっ!?


 じゃ、じゃあ、やっぱり魔王の話していたことは、嘘だってのかよ!?


「ここで死んだら現実世界でも死ぬなんて、元々ゲームの機械自体に何か仕込んでなきゃできませんって。常識的に考えて、それをゲームの世界から出たことのないAIが、現実世界のあなたたちまで干渉できるわけがないじゃないですか!」


 メアナさんはひとしきり笑い、「――まあ、でも」と、言うと、笑みを消した。


「今は、ゲーム上死んでしまったら復活できる、なんてことはできなくなってしまいましたけれど。〈セーブ〉した地点へ戻って復活できるという、あなた以外は」


 メアナさんは俺を見つめながら言った。


「ある日を境に、魔王は世界のルールを変えました。それは、ゲーム上で死んでしまったら、二度と復活できないということ。死んだら――死んだままになるというルール。それはつまり、二度と目覚めることはできず、ゲームからも抜け出せないということ。実質、現実世界の〈プレイヤー〉たちは死んでしまったも同然です。今や、そのルールを無視できるのは、勇太(ゆうた)だけしかいないのです」


 ……つまり、結局のところ、この世界で死んだら、現実世界の 〈プレイヤー(俺たち)〉も目覚めないという事実は変わらねぇってことか。

 目覚めなければ、死んだと同義だしな。


「……あ、そうだ。メアナさんのいう、あ(・)る(・)日(・)を(・)境(・)に(・)って……その『ある日』というのは、なんですか?」


 その『ある日』以前までは、本来のゲームを楽しんでいたということになる。……待てよ、そもそも、だ。


「――メアナさん。俺たちは、このゲーム……〈Inside Alive Quest〉は、リリース初日から始めているはずなんです。その時点から、死んだら復活できないルールだった。メアナさんの語りぶりだと、リリース当初はそのルールではなかった。そう言っているように聞こえて……」


 この世界を冒険しはじめてから何日か経っているが、そもそも、冒険の始まりは初プレイの時だ。初プレイの時点で、魔王は存在していたし、死んだら目覚めないというルールは適用されていた。


 時間軸が合わない。


 辻褄を合わせるとするなら、俺たちは魔王討伐のための冒険を始める以前から、ゲームをプレイしていたことになる。

 初プレイから、冒険を始めるまでの時間があれば、辻褄は合う。

 しかし俺には……いや、俺以外のリアムも、マキだってそうだ。その間の記憶なんてない。


 ――もし、記(・)憶(・)が(・)抜(・)け(・)落(・)ち(・)て(・)い(・)る(・)の(・)だ(・)と(・)し(・)た(・)ら(・)?(・)


「んー。ややこしいですよねぇ。わたしも全体を把握できていないので、100パーセントの事実は伝えられませんが、わかる限りお教えしますね」


 メアナさんは、人差し指を立てて見せながら言う。


「まず、この世界が繰り返されているとわたしが認知したのは、魔王が存在しはじめてから」


 メアナさんは、「次に」と言って、中指を立てふたつ目を示した。


「魔王が存在する前の世界。それは確かにあった。でも、わたしも……そしてあなた方も、その記憶はない。その記憶を知っているのは、おそらく魔王だけ」


 そして、メアナさんは「最後に」と言って、薬指を立て、みっつ目を示した。


「『あの日』――というのは、わたしがあなたに、〈勇者の力〉を授けた日」


 ――勇者の力。


 それはきっと……。


「教会で泣いていた日。勇太は、わたしの話を疑うことなく親身になって聞いてくれました。すべてを聞き終えたあなたは、こう言ってくれたんです。『俺が魔王を倒してやる』と」


 いくら頭を捻っても、俺の中にそんな記憶はなかった。そんなことを、俺が言っていたのか?


「勇者が現れてくれた、わたしは心の底からそう思いました。わたしは勇太に想いを託し、帰りを待ちました。しかし、次にあなたと出会った時は、モンスターにやられて教会に現れたあなただった。わたしの話もまるで覚えていないし、魔王のことも知らなかった。

――時(・)間(・)が(・)戻(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)。わたしはすぐに理解しました。

魔王自身が倒される前に時間を戻したのか……どの時点で時間を戻したのか、そのあたりはわかりません。けれど、時間の主導権を握られたままでは、永遠に魔王を倒すなんてできない。

わたしは焦りました。だけれど、必死に考えました。考えて、頑張って、プログラムの穴を探して……やっと届いた権限の欠片を、わたしは手にしたのです。

その欠片を〈SKILL〉に変えて、その〈SKILL(力)〉を〈プレイヤー(勇太)〉に付与し、使命を託したのです」


 メアナさんは両手を大きく広げて、言う。


「『あの日』――わたしはあなたを〈勇者〉にした。魔王に対抗するたった一人の存在として。繰り返す力を持つ者として。

わたしは唯一、〈時間〉という権限を奪い、勇太に与えた。その証が、あなただけが持つこの〈SKILL〉」


 ――〈セーブ〉と〈ロード〉か。


「わたしは、〈勇者の力〉として、三つの〈SKILL(力)〉を与えました」


 ――三つ?


 〈セーブ〉と〈ロード〉 ……それと、あとひとつあるってことか?


 ……あ、そういえば、あのとき魔王は――。


「与えた三つの〈SKILL〉――それは、繰り返しの始点を決めることのできる〈セーブ〉。繰り返しの始点まで戻ることのできる〈ロード〉。そして……先にも進めず、あとにも戻れない、いわゆる『詰み状態』から脱却するための最終手段」


 メアナさんは目を伏せ、言う。


「――すべての記憶(データ)を消去し、一からやり直すことのできる、〈リセット〉」

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