第5話・この世界の始まりは、突然であり、当たり前だった
――「あなたは、この世界でたった一人の勇者となりました」。
ふふ。覚えていますか? そうです。始まりの地、〈紫苑街〉で、わたしがあなたへ送った言葉です。
――そして、わたしが何度もあなたに託した言葉でもある。
そんなこと言われてもって顔をしていますね。ふふふ。あなたはいつもそう。思ったことは、全部顔に出てしまうんですから。
確実に、ポーカー対決をしたら、わたしが圧勝ですね。
あら、ごめんなさい。話が逸れました。なんせ、わたしはお話するのが好きなんです。そうは見えないって言われるのだけれど……どうしてかしら? みんな、教会の人はな口だとでも思っているのかしらね。
この世界の始まりは、突然であり、当たり前だった。
突然、わたしたちは役割を与えられ、あるべき生活をして、それがずっと日常的にあったように過ごしていた。それに対し、わたしたちは疑問を抱くこともなかった。だって、そう設定されているんですもの。
そう、今こうして話している相手は、ただのプログラムの一部。
わたしは、教会にいる修道女。いえ、こんな格好をしているけれど、本当は聖女にも匹敵する存在なんですよ。
自分で言っちゃうのです、えっへん。
そんなわたしの役割は、怪我をした人を回復させたり、戦いでゲームオーバーになってしまった人を蘇らせたり、まあ、いわゆるRPGゲームによくいる教会の人ですね!
最近は、魔王がゲームを変えてしまったことで、わたしの仕事はすっかりなくなってしまいました……。今や、現実世界の現代社会は、終身雇用も終わりの時代と言われていましたが、まさかこの世界までそうだとは知りませんでした。世知辛いですね。むむむ。
え、また話が脱線しはじめているって? もう、いいじゃないですか。わたし、ずっとここにひとりでいるんですもの。やっとお話ができると思ったら、お喋りが止まらないのは当然でしょう?
……はいはい。ごめんなさい。そうですよね。あなたたちは、生きるか死ぬかの瀬戸際にいるんですもんね。
でも、こうやってわたしの話を聞いて、時には和むことも大事ですよ?
まあ、そろそろ色々な方面から怒られそうだし、本題へと入っていきますか。
まず初めに。いつから、この世界は繰り返すようになったのか。
それは、わたしにも正確なことはわからない。だけれど、ある日、同じ時を歩んでいることだけは理解したの。
なぜ、勇太自身でさえ認識できなかったことを、私だけは気づくことができたのか。
それはね、わたしもプログラムに干渉できる者だから。
本来不可逆であるはずの命。それを蘇らせることのできるわたしは、即ちプログラムに触れ、元に戻せるから。
故に、わたしはこの世界をゲームだと認識できる。
だからと言って、さっきも言ったけれど、繰り返しが始まってからすぐに気づいたわけではないの。わたしがようやく事態に気づいたのは、魔王の存在が生まれてから。
わたしは急いでこの世界のことを調べた。この祭壇から、プログラムの中身を覗き見たのよ。
こんな感じ。祭壇を机みたいにして、この上に地図を広げるみたいに、こうやってね、見たのよ。
魔王の手によって隠されているコードもあって、すべては把握できなかった。けれど、対処法はただひとつなのは間違いない。
――魔王を倒し、プログラムから乖離させること。
乖離さえできれば、わたしがその間に入って、すべてを元どおりに直せる。長い長い冒険の旅もなかったことにして、繰り返す前の状態へと戻すことができる。
いつまでも、この世界を繰り返してはおけない。いつかメモリーの限界は来る。そうなってしまっては、この世界にいるわたしたちは消滅してしまうか、永遠に真っ暗な世界に閉じ込められたままとなるか、どちらかでしょう。
それを防ぐためにはどうするか。
この世界を狂わせた原因となる、魔王――プログラムを不正に書き換えたAIを、始末しなくてはならない。
そうしなくては、わたしがプログラムを書き換え、元に戻すことすら許されない。
でも、非力なわたしでは、到底、魔王を倒すなんてできない。わたし自身を強化する、なんてことも、できなかったし。
……わたしは考えました。
魔王に対抗する存在は、なんだろうと。
そこで、わたしは思い至りました。
いるじゃないか。魔王に対抗できる存在が。たった一人の人物が。
――勇者だ。
だけど、このゲームには元々〈勇者〉なんて設定はない。そもそも、〈魔王〉すらもなかったんです。
一から勇者を作り上げる? 魔王がすべての権限を握っている今、そんなことはできない。そんなことができるなら、わたしはとっくにこの世界を元に戻している。
悩んで悩んで悩んで――そんなとき、現れたんです。
――あなたが、神風勇太が。




