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【完結済】神風勇太はたった一人の勇者となる  作者: みおゆ
第三章・ヨシワラトウゲンキョウ
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第4話・チャンスは、あといくつ残っているのか、わからないのですから

 俺は、ゆっくりと目を開けた。


 目の前には、美味しそうにマキがパフェを頬張る姿と、ケンとリアムが談笑している平和な光景があった。

 よかった。とりあえず〈セーブ〉した茶屋まで戻ってきたらしい。


 なら、次にやることは……そうだ。このあと起こるであろう、花魁の誘いを断って、鷹尾太夫(たかおだゆう)に会って……。


「…………っ」


 ――あれ? みんなに伝えたいのに、言葉が出ない。力が、入らない。


 ドサッと重い音が響いた。数秒後、右半身に鈍痛が広がる。


「勇者様!?」


 マキ、それにリアムとケンが俺の顔を覗き込んでいるのが見えたが、視界も段々とボヤけ、次第に耳も遠くなっていった。


 頭がボンヤリし、段々と眠りに落ちていった。




 ◇




「……んぁ」


 俺の口から、間抜けな音が洩れた。


 目を開けると、まず飛び込んできたのは、知らない真っ白な天井だった。


 病院か……などと思いながら、少し視界を動かせば、シャンデリアなるものが見えた。その瞬間、俺の中で病院という可能性は消え去る。


 あと、何かあるとしたら……なんだろうか。


「――勇者様!!」


 うつらうつらしたまま、そんなことを考えていると、突如視界にマキの顔が入ってきた。


 そこで、ようやく俺の意識はハッキリと覚醒する。


 身体を起こし、あたりを見回した。


 出口らしい大きな観音開きの木製の扉を背にして、規則正しく長椅子が並べられている。壁には、等間隔に壁かけキャンドルが飾られていた。


 そういえば、と思い視線を下ろす。どうやら俺は、祭壇であろう上で寝ていたらしい。そんな俺を見守ってくれていたのか、涙目のマキ、目覚めた俺を見て喜ぶリアムに、安堵するケンがいた。


 そして、少し離れた位置の窓辺に、ひとりの女性がいた。

 女性は真っ白な修道服を着ていた。一見して、儚く美しい印象を受けた。


「目覚めましたか」


 女性は俺が目覚めたことに気づき、こちらへと近づいた。それから、様子を伺うように、俺の顔を見つめてきた。

 白い睫毛から覗かせる青い瞳は、透きとおるほどきれいで、深い慈愛に満ちていた。


「ああ、もう大丈夫そうですね。元気いっぱいに戻ったようです」


 女性は言うや、今度は眉を釣りあげ、怒りの表情へと変わる。


「もう、ダメですよ! やり直し、全て元通りに戻し、生き返ることができても、あなたの精神(心)までは戻ることはないんです。繰り返す度に、気づかずに精神(心)のダメージは蓄積していくんですから。……無理をし過ぎては、今回のように、突然倒れることになりますよ」


 女性は言い切ると、悲しそうに溜息をついた。


 そうか。俺、茶屋で意識が遠のいて倒れたんだ。

 俺自身、気づかないうちに、疲れを溜め込んでいたんだな。


 ……あれ? というより、この人、俺の〈SKILL(力)〉を知っている?


「……勇者様。この人が、勇者様を治療してくれたのですよ」


 困惑する俺に、マキはそう説明した。


「えっと……治療?」


 俺は聞くと、次にリアムが「タイヘンだったんだ!」と話をする。


「Cafeいたら、ユータ、いきなり倒れて……!」

「そうなのです。声をかけても、目覚めなくて……」

「幸い、東の国の外れに教会があったからな。そこなら、ユータを診てもらえるんじゃないかと、ここまで連れてきたんだ」


 リアム、マキ、ケンは順番に、今までの経緯を話してくれた。その口調から、かなり心配をかけてしまったことがわかる。


「ユータ運ぶの、重かった!」


 リアムは、最後に俺を元気づけるかのように冗談っぽく言い、笑った。


 ――そうか。現状は理解した。


 みんなは、俺の事を助けてくれたんだな。


「……みんな、ありがとう」


 俺は言うと、三人は笑い返した。


「いえいえなのです。むしろ、わたしたちは、いつも勇者様に救われているのです」


 マキの純粋な気持ちに、俺も思わず笑みがこぼれた。


 ――ああ、そうだ。礼を言う相手なら、もうひとり。


 俺は、ようやく祭壇を下りて、修道服を着た女性に向いた。


「ありがとうございました。助けてくれたみたいで……えっと……」


 ――この方は、誰なんだろう?


 女性は俺の内心を察したのか、言う。


「あなたにだけ紹介がまだでしたね。……と、言いましても、一度〈紫苑街(シオンガイ)〉で、わたしの声を聞いていると思いますけれど」


 ――〈紫苑街(シオンガイ)〉で?


 なんのことだがピンと来ず、俺は彼女の言葉の続きを待った。


「初めまして、わたしはメアナといいます」


 メアナさんは、口元に人差し指を当てながら、こう言う。


「――この挨拶も、何回目だか忘れてしまいましたけれど」


 その言葉に、俺は緊張と驚きが隠せない。


 彼女は――こ(・)の(・)世(・)界(・)が(・)、(・)繰(・)り(・)返(・)し(・)て(・)い(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)?(・)


「……あ、あなたは知っているんですか? この世界のことを」


 しかし、彼女は首を横に振った。


「すべてのことは知りません。その答えは、魔王にしかわからない」


 もしかすると、以前、魔王の言っていた『片割れ』とは、この人のことかもしれない、と思ったが、その返答を受け、そうとも限らないのか、と思った。


 そうだ。さっき、一度〈紫苑街(シオンガイ)〉で声を聞いてるはず……とも言っていたよな。 あのときの声の正体は、この人だったのか。確かにあのときの声も、「すべては知らない」と、話していた。


 やはり、すべての真実を知っているのは魔王なのか。


 ふと三人を見れば、話を飲み込みきれていない顔をしていた。

 そりゃあそうか……俺は、魔王から直接話を聞いてはいるが、みんなは知らないのだから。


「にしても、あなたは毎回毎回倒れてやって来るんですから。無理のし過ぎはダメだと、いつも伝えていますのに」


 メアナさんは、頬を膨らませ、またまた怒った顔をして見せたが、怖いというよりかわいらしさのほうが上回る。


 ……って、俺はいつも倒れてここへやって来ていたのか……?


 だが、これはこの世界をより知る大きなチャンスだ。


 メアナさんなら、なぜ俺が〈勇者〉なのか、そして、魔王のことなども、詳しく知っているかもしれない。


「メアナさん。これも何度もしているかもしれないッスけど、教えてください。この世界のこと、俺のこの〈SKILL〉のことも」


 メアナさんは「はい。もちろんです」と言って、祭壇の前に立った。


「さあさ、勇者様方はそちらの椅子にお座りください。立ちっぱなしもなんでしょう」


 メアナさんに促され、俺たちは長椅子に腰かけた。


「では、語りましょう。存分に盛大に詳細に正直に、余すことなく知ることすべて、語らってみせましょう」


 メアナさんは、胸の前で手を合わせた。


「チャンスは、あといくつ残っているのか、わからないのですから」


 そう呟いて、メアナさんは語り始めた。

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