第24話・どうして、ユータはそこまで頑張るの
「お姉ちゃん!!」
ソラちゃんは〈セラピアの実〉を地面に落とし、すぐさまムギちゃんの元へ駆け寄る。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!!」
マキもムギちゃんの元へ急ぎ、肩を抱いた。
「……大丈夫なのです。まだ息もしているのです。 効くかはわからないのですが、わたしは〈ヒール〉をかけつづけるのです」
「なら、俺がムギちゃんを背負っていく。早く、村長の元へ急ごう!」
俺はムギちゃんを背負い、マキは隣につきながら、〈ヒール〉 をかけつづけた。リアム、ケン、そしてソラちゃんは、〈セラピアの実〉を抱えて、村へと走り急いだ。
太陽は、まだ沈み切っていない。
大丈夫。ムギちゃんは、絶対に死なせない。
村のみんなだって、全員助けてやるんだ。
◇
村長のいる、村人である青年の家まで元へ辿りつくと、俺らが最後に家を出たときよりも、患者の数は増えていた。
村長の奥さんであるヘリオスさんに〈セラピアの実〉を託すと、すぐに薬の調合へ取りかかった。
「お、お姉ちゃんが……! もう限界なの!」
ソラちゃんは村長に訴えた。村長はムギちゃんを見て、「大丈夫。薬を飲めばすぐに治まります。あとはわたしが預かって診ましょう」と、話してくれたので、俺はムギちゃんを村長に預けた。
「回復まで時間がかかります。勇者様たちは、宿へ戻ってお身体をお休めください」
ソラちゃんは離れるのを拒んだが、「ここにいても、邪魔になってしまうのです」と、マキに宥められ、渋々青年の家を出た。
ふと顔を上げれば、夕日はもう顔を隠す寸前だった。
「……お姉ちゃん。大丈夫かな」
ソラちゃんは立ち去ろうとせず、そのまま青年の家の前でしゃがみこみ、顔を膝にうずめてしまった。
「……きっと、大丈夫さ。夜になる前には帰ってこれた。その上、薬だってあるんだから、お姉ちゃんは元気になって出てくるはずさ」
「…………」
ソラちゃんは答えずに、顔を隠したままだ。
このままじゃあ、ひと晩中ここにいつづけようとするだろう。
ソラちゃんだって、宿に戻って体力を回復させないといけないのに。
マキはそんなソラちゃんの背中を優しくさすった。
「勇者様の言うとおりなのですよ。そんなに不安になってはダメなのです。絶対、お姉ちゃんは元気になって帰ってくるのですよ」
ソラちゃんはようやく顔を少しだけ見せた。
「Hey! ケン! 何かオイシーfoodでも買ってこよう!」
リアムは、ケンの肩に腕を回しながら言った。
「なぜ今……」
ケンは言いかけて、ソラちゃんを見た。
「……そうだな。何か美味しいものでも買ってこよう。腹が空くと、ロクなことがない」
リアムは、「そうだよな! ソラちゃん、好きなモノ言ってほしい。オニーサンたちが買ってきてやる!」とソラちゃんに笑いかけた。
ソラちゃんは、しばらく悩んだ顔をして、
「……じゃあ、骨付き肉」
と、答えた。
「OK! じゃ、みんなのも買ってくる! 行くぞ、ケン!」
「ああ。わかったが、そんなにベタベタしなくても……暑苦しいぞリアム……」
リアムとケンは、骨付き肉を買いにその場を離れていった。
俺らは三人、その場に残される。
「……ユータ」
二人が見えなくなってから、ソラちゃんは口を開いた。
「どうして、わたしたちを助けてくれたの?」
俺は答えようとしたとき、ソラちゃんはさらにこう問う。
「――どうして、ユータはそこまで頑張るの」
「頑張るって……?」
ソラちゃんは、しゃがみ込んだまま俺を見上げた。
「アンタの目標は、この世界から抜け出すこと。そのためには主犯格であるAI――魔王を倒すこと、なんでしょう? それなのに、どうして寄り道してくれるのよ」
「寄り道って……。それは、魔王を倒す前に、まずは魔女の子を倒さなくちゃならないし」
「魔女の子を倒す必要性ってあるの?」
「……えーと、それは、魔女の子を放っておいたら、いつどんな悪さを働くかわからないし……? それに、この世界の王女様にお願いされちゃったしな」
ソラちゃんは「ふーん」と言い、目を逸らした。
「……でも、王女なんてただのゲームの世界の住人じゃない。この世界に生きるキャラクターだってそう。ゲームのキャラクターなだけであって、別に同じ生きている者じゃない。言ってしまえば、無機物よ。……そんな者の言うことをなんで聞いて――助けようとするのよ」
ソラちゃんは言う。
「そんなの無視して、最短で魔王のとこまで行ってぶっ倒せば早い話じゃない。あの犬なら、魔王の居場所を知っているんでしょう?」
ソラちゃんの言うことは、一理ある。
それは何よりも、人類にとって正しくて、早いやり方だろう。
危険を冒してまで、ゲームのキャラクターの言うことなんて聞く必要は本来ない。だって今は、ゲームオーバーしてしまったら、本当に現実世界でも死んでしまうような状況なんだから。
痛みも苦しみも、なるべく少ない回数で進むほうが俺としても気が楽だ。
だけど、俺は。
「――見捨てられないよ」
ソラちゃんは目を丸くした。
マキは何も言わず、ただ俺らを見守っている。
「ゲームの住人だから見捨ててもいいとか、俺はそういうふうに考えられねぇ。ゲームの住人は、ゲームの世界で生きてるんだよ」
おかしいことを話しているとは、自分でも感じている。
「ムギちゃんもソラちゃんも助けようと思ったのは、同じ現実世界いる人間だからじゃなくて、目の前で困ってる奴らに出会っちまった、それだけだよ」
実際、現実世界の人間だって見捨ててよかったんだ。魔王の言うとおりならば、魔王を倒し、この世界から脱出できれば、この世界でゲームオーバーしてしまっていても、みんな、現実世界で目を覚ますことができるのだから。
だからって、目の前で困っている人を、救えるはずの人を見捨てるなんてやり方、俺にはできない。
俺の信条が、許さない。
「救える人がいるなら、俺はまず全力でそっちに手を伸ばす。見捨てるなんて選択肢は、俺にはない」
ソラちゃんはそれを聞いて、一瞬だけ口角を上げて見せた。
それから、ソラちゃんはゆっくりと立ち上がる。
「正義ぶりやがって、ユータの癖に」
ソラちゃんは俺を見つめた。
「……アンタが、なんで〈勇者〉に選ばれたのか、何となくわかる気がするわ」
マキは小さく笑ってから、俺らの会話に入ってくる。
「そもそも、魔王を倒すまでに、わたしたちもそれなりに強くならないといけないのです。最短で魔王の元へ行けたとしても、ボコボコにされてしまって終わりなのですよ」
マキはそう言った。
「あー……確かにそうだな。俺、あんなこと言ったけど、結局今、マキが言ったことですべて説明がついたんじゃあ……?」
なんだか熱く語ってしまった自分が、少しばかり恥ずかしくなった。
「勇者様の最初に出た言葉が、勇者様の本当の気持ちなのですよ。……だから、勇者様は、優しくて強い方なのです」
マキは真っ直ぐにそう言った。
うれしさを通り越して、気恥ずかさまで覚えてしまう。
俺らに挟まれ立っていたソラちゃんは、マキを見た。
「……ふーん。アンタ、ユータのこと好きなの?」
「――なっ!!」
マキは、一気に顔が赤くなった。
「はっ。わたしにはわからないけれど。まあいいんじゃない? 性格だけはよさそうだし」
「ソラちゃん、性格だけって何かな? だけって……」
俺は言いながら、チラリとマキを見た。マキは俺と目が合うと、気まずそうに目を逸らしてしまった。
「……勇者様は、好きですけれど……別に、ライクの好きなのです」
ソラちゃんは、「わたしより年上のくせに。ウブな奴」と笑った。
俺とマキは、互いに目を合わせないようにそれぞれ外を向いた。
マキは初めて会った時から、かわいらしい子だと思っていたけど……。
また、一瞬だけ横目でマキを見た。
――そんなこと言われちまったら、なんだかこっちまで意識しちまうぜ。
ま。でも、マキはライクの好きって言ってたしなぁ……。
「Guys! ニク買ってきたぞー!」
そのとき、リアムとケンが肉を持ってやって来た。
「買いに行ったはいいのだが、屋台には誰もいなかった。みな、本当にハンドレディによって病に罹ってしまったのだな」
「あ! でも、ちゃんとお金置いてきた! ヌスミしなかった! ……あれ?」
リアムは、俺とマキを交互に見やった。
「二人、顔赤くないか? ……あ! もしかして、二人もビョーキに!?」
「……違うわよ」
ソラちゃんは、リアムから骨付き肉を受け取りながら言う。
「ちょっと、わたしがからかってしまっただけよ。なんともないわ」
しいて言えば、とソラちゃんは微笑んだ。
「病は病でも、別の病かしら、ね」
リアムとケンは首を傾げていた。
ソラちゃんは、「お肉、ありがとう」と、言って、ようやく前を向いて歩き出す。
あとは、ムギちゃんが元気になってくれれば……。
ソラちゃんに続き、俺らも宿へと向かった。




