第23話・やってくれんじゃないのよ、クソガキ
俺はドンキーフールとコヌゥピの巨群の間をすり抜け、一直線にハンドレディを目指し走り出した。
「させるわけないでしょう!」
大木の上にいるハンドレディに向かって、攻撃を仕かけようとしたそのとき、地中からモンスターが飛び出し、目の前を塞いだ。
「グランドスネイクだっけか……! それ、ホントお気に入りだなぁ!?」
俺は剣を振り下ろし、モンスターを片づける。
再度、ハンドレディを捉えようと大木を見上げた時、すでに奴の姿はなかった。
――クソっ。安全地帯に逃げたってのか。
安全圏から他人を利用する……とことん好かねぇやり方だぜ。
おそらくより高い上に登ったと踏んだ俺は、どうにかして大木を登れないかと画策していると、
「ユータ、そこを離れろ!」
という、ケンの声を受け、大木から離れた。
ケンは、ドンキーフールたちの攻撃を躱しながら、銃口を大木へ向けた。
「――〈ライダン〉」
銃口から弾丸が飛び出す。それは真っ直ぐ飛ばず、途中で弾道を変え、空高い位置で弾けた。
刹那、大きな破裂音が鳴り響き、ドンキーフール、コヌゥピに落雷が起きた――さらには、大木にも。
「高い位置にあるものほど、電気は通りやすいものだからな」
ケンは言った。
コヌゥピの巨群は数を減らし小さくなったが、ドンキーフールには、全く攻撃がとおっていない。
大木は火をあげることなく、真っ黒に焦げ上がった。同時に、大木から降り立つ人物がひとり――ハンドレディだ。
「このアホ犬! アタシに当たったらどうしてくれたのよ!!」
「当たればいいと思ったのだが、残念だ」
ハンドレディは憎らしげに歯を噛み締めた。
――地上に降りてきた、今がチャンスだ。
俺はハンドレディの元へ走り出す。
ハンドレディも俺の動きにすぐに反応し、防御の態勢を取った。
剣を振り下ろすが、ハンドレディはいとも容易くといった様子で、触手を使い受け止めた。
全然、剣がとおらない。
まだ、レベルの差があるからなのか。
ハンドレディの〈STATUS〉を確認してみれば、わずかにだがHPを削っていた。しかし、この調子ではかなり時間がかかってしまう。
三分間以内に終わるわけがない。
悠長にはしていられない。ムギちゃんは、きっと今も無理して立ちつづけている。
運よく三分間やり過ごせて、ドンキーフールから〈セラピアの実〉を回収できたとしても、ハンドレディとのバトルが続いているのなら、この場から離れることができない。
村長の元へ戻り、薬を作ってもらえない。
――やっぱりここは、ハンドレディを何とかしねぇと!
ハンドレディは触手で剣を弾き返し、続いて、もう一本の触手でサイドから攻撃を入れる。俺はなんとか剣で防ぎ、ハンドレディとの距離を取った。
攻撃スキル――〈風切剣〉を使えば、この距離からでも、当たる!
「風切――」
言いかけて、俺の手が止まった。
――技が、出せない?
手元を見れば、黒紫色のエフェクトが表示されていた。
「〈凍結呪術〉。アタシのほうが動くのが早かったみたいね」
――なるほど。〈SKILL〉を封じる〈SKILL〉か。
だが、攻撃を完全に無効にされたわけじゃねぇ。
ここは距離を詰めて、とにかく攻撃を仕かける!
「予想通りの動きしかしないわね」
ハンドレディは右腕を大きく横に振った。同時に、コヌゥピの巨群が目の前に立ちはだかる。
「ウザったい蚊だぜ!」
俺は巨群に対し、剣を縦に切り裂いた。モンスターは散り散りに消え去り、目の前の道が開けた。
しかし、その先にはハンドレディの姿はなかった。
「どうせ背後に回ってんだろ!」
そう睨んだ俺は、剣を大きく回転させた。
「あら、大正解。ある程度、戦いには慣れてきたのかしら?」
ハンドレディは剣の動きを読んでいたのか、その触手で跳ねるようにして俺の攻撃を避けた。
「酷いわねぇ。アタシのモンスターたちを全部殺しちゃうなんて!」
ハンドレディは自身の触手で、俺を押し潰そうとばかりに振り下ろした。
俺はとっさに剣で防御し、ダメージを軽減させる。
「姐サン! 攻撃! サセナイ!!」
そのとき、ドンキーフールの目標が俺に向き、突進して来るのが見えた。このままじゃ、二人に挟み撃ちされ、一発ゲームオーバーだ!
「――アンタの相手はわたしよ、脂身野郎」
八方塞がりかと思ったときだった。そんなソラちゃんの声が聞こえた。
「〈歯牙の呪詛〉!」
ソラちゃんの魔獣たちが、ドンキーフールに襲いかかり、奴はそのまま大木へと吹き飛ばされた。
「さっさとそっちも片づけなさい! クソユータ!」
ソラちゃんはそう言って、ドンキーフールに対し、さらに攻撃を畳みかける。
――さっさと片づけろって……そりゃあ無茶言ってくれるぜ、ソラちゃん。
ハンドレディの右手に力が篭もる。また何か〈SKILL〉を使うつもりなのだろうか。
何か俺も攻撃を……つっても、まだ〈SKILL〉は封じられているし、通常攻撃しか手段がねぇ!
「勇者様! わたしだって、加勢するのです!」
「All right!!」
マキとリアムが、それぞれハンドレディの両脇から攻め込む。
「〈ザライゲイン〉!」
マキが魔法呪文を唱える─――ハンドレディの全身に電気が走り、動きが鈍りはじめた。
続いて、リアムがその隙に攻撃を仕かける。
「〈気合拳〉!!」
リアムの拳が振り下ろされる。ハンドレディは左手で拳を受け止め、そのまま触手でリアムを殴り飛ばした。
「リアムさん!」
マキは、リアムの元へ走り出す。
ハンドレディはそんなマキを追うように視線を俺から逸らした。
――一瞬の隙。
マキの魔法攻撃を受け、若干であるが動きも鈍っている。
今を逃すわけにはいかない。
俺は剣を握りしめ、地面を蹴り上げた。
「これでも、くらえぇ!!」
叫びながら、剣で斬りかかった。ハンドレディはとっさに反応するが、剣はもう奴を捉えている。俺は手を緩めることなく、重力を乗せて剣を振り下ろした。しかし、剣は相手を切り裂くことなく、途中で動きを止めることとなった。
すんでのところで、ハンドレディに刃を右手で防がれた。
「……ッ」
ハンドレディは痛みで顔を歪めたが、防御の姿勢は崩さずに、むしろ触手で俺を薙ぎ払いカウンターに転じた。
ハンドレディの右手の傷口からは、青い血液が流れていた。
「やってくれんじゃないのよ、クソガキ」
ハンドレディは苛立ちながら、血液を払うように右腕を振った。次の瞬間には傷口は塞がり、見た目は元通りとなる。
HPは……ダメだ。まだ残量がある。だけど、今の攻撃で半分までとは言わないけれど、着実に削れている。
「キャッ!!」
ソラちゃんの悲鳴。ドンキーフールからの攻撃で、ダメージを受けてしまったようだ。
「ソラちゃん!」
「わたしは……まだ平気よ! それよりも早く……」
「オ前邪魔! 先二倒ス!」
ドンキーフールは棍棒を振り上げた。
ソラちゃんは対抗しようと右手を構えたが、力が抜け地面に膝をつけた。
「……クソっ。こんな時にMP切れなんてありえないでしょ……!」
――ソラちゃんを助けに行かないと! ……でも!
「余所見する余裕なんて、偉くなったものねぇ!!」
ハンドレディは攻撃の手を止めてはくれない。俺は防御をするのに精いっぱいだった。
――いっそ、前みたいに自害してやり直すしか……。
そう思った刹那だった。
「〈ネムリウラナイ〉!」
ムギちゃんの呪文を唱える声が響いた。
しばらくの静寂のあと、ドシン、と重い音が。ドンキーフールが地面に倒れた音だった。〈ネムリウラナイ〉の効果が発揮されたんだ。
おかげで、ソラちゃんはギリギリのところで攻撃を免れた。
ハンドレディも一瞬頭を抱えた――が、こちらは眠らせるまでには至らなかったようだ。
だが、ドンキーフールも眠ってしまい、モンスターも失っている今なら、勝ち目がある。
「さあ、あとはお前だけだ」
俺は剣先をハンドレディへ向けながら言った。
ハンドレディは悔しさをあらわに睨み返してきた。
「…………運がよかったわね」
ハンドレディは言うや、触手から黒い煙を上げ、全身を隠した。
「……次は、東の国で待っているわ」
「お前、逃げる気か!!」
俺は手を伸ばすが、煙の向こうには、もうハンドレディの姿はなかった。
――クソっ。結局、奴は逃しちまった。
近くで、「……アァ」と苦しげな声が聞こえた。
ドンキーフールは、すぐに目を覚ましたらしい。
「……ヤット、オワリカ」
ドンキーフールは最後にそう言い残し、光の粒子となって姿を消した。
直後、ゴトンと何か地面に転がる。それは、青い木の実のような物だった――〈セラピアの実〉だ。
「……よかったわ。消化されず、ちゃんと残ってたみたいね」
ソラちゃんは実を拾い上げ、ムギちゃんのほうを見ながら言う。
「お姉ちゃん、早く戻ろう! あのジジイのところへ行って薬を――」
俺たちも、ムギちゃんのほうへ視線を向けた。
ムギちゃんは微笑むと、電池の切れたオモチャのように、バッタリと膝から崩れ落ちた。




