第22話・この一発で決めてやれ、俺
――〈呪療解放〉。
聞いたことのない〈SKILL〉だった。
隣で、ソラちゃんの舌打ちが聞こえた。
「ソラちゃんは何か知って……」
俺は聞こうとしたが、ドンキーフールの叫び声により、掻き消されてしまった。
ドンキーフールは素早く両腕を外側に振ると、ひとつだけだった棍棒がふたつに増え、それらを両手に握り締めた。
「〈威嚇連撃〉!!」
次の瞬間、ドンキーフールは棍棒で地面を連打しだした。
その動きと連動して、次々と棘状に地面が隆起していく――俺らを串刺しにしようといわんばかりだ。
これに当たったらひとたまりもない。俺らは必死でその攻撃を避けていく。
「めちゃくちゃニャ〜!」
ムギちゃんは叫んだ。
「ちょこまかウザったいわねぇ。ま、攻撃している間は暇だし、せっかくだからアンタらに教えてあげるわ」
俺は、攻撃を躱しつつハンドレディを睨みつけた。
「〈呪療解放〉。呪いの一つよ。事前に呪いをかけておいた者が瀕死状態になると、自動的に呪いが発動されるわ。呪いの効果はすごくってね。体力が全回復する上に、攻撃力も防御力も……何もかも本来の力を超えて発揮されるの」
ドンキーフールは連打の手を止めた。同時に地面は元通りのフラットな状態へ戻る。次に、奴は腰を低く落とし、棍棒を胸の前でクロスさせ構えた。
「アンタらが雑魚で助かったわ。ちゃあんと瀕死まで追い込んでくれたんですもの。……ただね。これは三分間しか効果が発揮されないの。三分経ったら、ドンキーフールは、死ぬわ」
「――死ぬって……! どういうことだ?!」
そう言葉を放った瞬間だった。
ドンキーフールは、空を切り裂くように両腕を大きく振り切り、その衝撃は全員に直撃した。
俺らは一気に吹き飛ばされ、戦闘フィールド内の壁に衝突する。
「な……なんなのよ。壁なんて……見えないのに……」
ソラちゃんは痛みを堪えながら呟いた。
「……ボス戦に入ると逃げられなくなるのです。……そのための、バリケードみたいなものなのですよ」
マキは言い、ドンキーフールとハンドレディを見やった。
「あら〜。まだ生きてるの。しぶとい奴らね。ゴキブリみたい」
ハンドレディは蔑んだ目で見下ろした。
「……おい、お前がさっき言ってた、死ぬってどういうことだよ……! まさか、仲間が死ぬとわかっていて、そんな呪いをかけたのか?!」
俺は立ち上がりながら、ハンドレディに詰め寄った。ハンドレディは、俺の言葉なんて興味なさそうに、自身の爪を見ながら答える。
「別に、アタシは特に仲間だと思ってないのだけれど……。ただ、それがなんだって言うの? アタシは勇者を殺して魔王様に力をわけてもらいたい。それだけなの。そのためなら、仲間だって利用するわ」
――自分の目的のためなら、他人の命も厭わないってのかよ。
俺は、強く奥歯をかみ締めた。
「ハンドレディ。貴様の性格の悪さは変わらないな。それにまた担当外にまで手を出すとは。勝手な動きをすると、魔王様がなんと言うかわからんぞ」
ケンは言った。
「……ハッ。魔王様を裏切った今のアンタには何も言われたくないわね! アタシはアタシの好きにやるわ! 前回だって、特にお咎めなしだったしね!」
ハンドレディは若干の苛立ちを見せながら言う。
「――さあ、アンタ! さっさとコイツらを片づけなさい!」
「アガガガガガッ!!」
ドンキーフールは苦しそうに叫び声を上げながら、俺に向かって突進してきた。
「ユータ!」
リアムはすぐに、ドンキーフールに太刀打ちしようと前に出た。
「リアムパンチをオミマイして――」
リアムは拳に魔力を込め、ドンキーフールの額に殴りかかった。
ドンキーフールの動きは一瞬止まる――が、ダメージはまったく受けていない。
「Why!?」
「バカねぇ。アタシの話、聞いてなかったの? 今のコイツは、呪いで何もかも強化されてるのよ。……アンタらの攻撃なんて、まったく効きやしないわ」
ドンキーフールは再び動き出し、リアムを棍棒で殴りつけた。
リアムはとっさに防御をするが、力に押し負けそのままフィールドの端まで吹っ飛ばされてしまう。
「リアム!!」
リアムは右腕を上げて見せた。まだ力尽きてはない……らしいが、体力も限界だ。
マキは杖を構え、リアムの回復に急いだ。
ドンキーフールが力尽きるまでは三分間。それまで、俺たちがなんとか耐えきることが出来れば、必然的に勝ちになる。後はハンドレディだけどうにかすれば――。
「――三分間、逃げ切ればいいと考えてるでしょ」
俺の内心を見透かしたかのように、ハンドレディはそう言った。
「でも、三分間も持つかしら?」
ハンドレディは俺の後ろへと視線をやった。
視線の先を見れば、ムギちゃんは苦しそうに胸を抑え、座り込んでいた。
「戦いで体力も消耗して症状が進んじゃったのかしら? 可哀想〜」
ハンドレディは言葉と裏腹に、口角を釣りあげた。
「お姉ちゃん!!」
ソラちゃんはすぐさま駆け寄り、ムギちゃんの肩を支えた。
ムギちゃんの首には、はじめのときよりも痣が広がり、深く濃く刻まれていた。
「ムギ……ウ、ウチは平気だから……。だから、あの人たち……を……」
ソラちゃんはそっとムギちゃんから離れ、前方に出て俺の隣に立った。
横顔から見えたその瞳は――見覚えがあった。
冷静さを失い、怒りだけに染まったその瞳。
ソラちゃんが二体の魔獣を召喚させたところで、俺はとっさに、「ソラちゃん!!」と声をかけた。
ハッとしたソラちゃんは、俺を見つめた。
「冷静さを失うな。落ち着け、まだお姉ちゃんは死んでないだろ」
「だって、あのクソ野郎が……!」
「落ち着け。まだ誰も死んでない。まだ、何も終わってない。上手くいけば、もう戻らなくていいんだ」
ソラちゃんの瞳に、落ち着きが戻る。
「もうお喋りはいいかしら? こっちだって早く終わらせなきゃならないの」
そう言って、ハンドレディは指を鳴らし、直後、大量の羽虫が木々の間から一斉に現れた。
「――〈コゥヌピ〉か。やはりあの騒動もハンドレディが……」
ケンはそう呟いた。
コゥヌピの大群は目の前に集合しだすと、やがてそれは、巨大なコゥヌピを形作って、俺らを見据えた。
「一分と言わず、アンタらを叩き潰してやるわ」
そんなハンドレディに対し、マキは前方へ出て、杖を構えた。
「そんな虫さん、わたしの呪文で一掃なのです!」
マキは〈ホムラマ〉を唱え、コゥヌピの巨群に攻撃した。
巨群は炎に包まれたが、炎が止んでも敵は消え去ることなく、その形を維持していた。
「……そんな」
「たかが魔虫だと舐めないでほしいわ。コイツらだって、そこそこ強いのよ?」
ハンドレディは右腕を真っ直ぐ伸ばした。
コゥヌピの巨群は、マキに向かって緑色の液を飛ばす。マキは魔法をぶつけ、攻撃を相殺させようとしたが、巨群のほうが力が強く、そのまま押しやられてしまう。
しかし、マキはよろけるが、なんとか地面に膝をつけずに持ち堪える。だが、その力の差を見せつけられ、悔しそうに唇を噛み、杖を持つ腕が下がっていくのが見えた。
仲間たちが、自信を失くしてきている。疲弊している。意欲を失いつつある。
この状況じゃ……いや、俺まで絶望してどうする!
「――強いからってなんだ!」
俺は叫んだ。
この、重苦しい空気を吹っ飛ばすために。
「こっちは六人もいる! 力合わせりゃ30秒でケリつけてやるぜ!」
俺は再び剣を構えた。
「――頼む。もうしばらく踏ん張ってくれ。忘れたのか、お前ら。ここはゲームの世界なんだぜ?」
俺は言う。
「一発逆転なんて、よくある話だろ!」
俺はそう呼びかけた。
仲間たちは、応えるかのように俺の横に立ち並んだ。
「ええ。そうでしたね。勇者様」
「Gotcha!」
「僕はまだ、諦めてはいなかったけどな」
「ウチ……だって! まだ、立てる!」
「ホント、暑苦しくてうるさい奴」
ありがとよ、みんな、と心の中で感謝した。
「さあ、三分間のサドンデス! 俺らが決めさせてもらうぜ!」
大丈夫。何かあっても、〈セーブ〉はしてきてある。
だけど、それに甘えんな。この一発で決めてやれ、俺。
俺は剣先を、ハンドレディに向けた。
「俺がアイツを仕留める! 目の前の奴らは任せたぜ、お前ら!」
仲間は声を揃えて、答える。
「「「「「ラジャー!!!」」」」」




