第21話・保険に、保険を重ねておいて正解だったわね
――戦闘開始。
刹那、ドンキーフールは俺目がけて棍棒を振り下ろした。
とっさに剣で防ぐ。キンっ……という甲高い音を鳴らしたが、剣が折れることはなかった。
さすがそこは王家の剣。そう簡単には壊れない。
そのまま剣で弾き返し、ドンキーフールとの距離が開く。間髪入れずに、ケンの銃弾がドンキーフールの額、肩、胸を貫いた。
しかし、ドンキーフールは多少よろめくだけで、ダメージを深く受けた様子はない。傷は一瞬の内に塞がってしまった。
HPの残量は……まだまだある。
「……ナ!? オマエ、〈拳銃使イ〉!? ナンデ、ソッチ、イル!?」
今更、ドンキーフールは驚きと動揺を見せた。どうやら、ケンが勇者側についたことは知らなかったらしい。
「魔王様ニ逆ラウ! 消サレル! ナンデ?!」
ドンキーフールは単語を並べながら話している。
「そういえば、そういう契約だったな……。元々、僕は君らよりも忠誠心が低かった。魔王はわかっていたのかもしれない。もはや、始めから諦めていて、僕のことは野放しにしていたのかもな」
ケンは鼻で笑った。
「好都合だ。僕を自由にさせたこと、魔王に後悔させてやるとしよう」
「裏切リ者! 勇者イッショ、殺ス!!」
ドンキーフールは棍棒を横に大きく凪いだ。風圧が一気に俺らに押し寄せ、頬の皮膚は裂け、静電気を受けたような痛みが走る。
「お姉ちゃん!」
攻撃を受けたソラちゃんはすぐに後ろを確認した。
「ソラ! 戦いに集中して! 確かにダメージを受ける量はみんなより多いけど……でも、まだまだ立てるニャ!」
ソラちゃんはムギちゃんの言葉を受け、再び前を向いた。
「みんな! ウチは戦いはできないけど、補助ならできるニャ! だからお願い、頑張って!」
ムギちゃんは叫ぶ。
「〈マモリヨチ〉!」
ムギちゃんが呪文を唱えると、なんだか身体全体が何かに守られているような感覚になった。その上――。
ドンキーフールが、再び俺に目がけて攻撃を仕かけた。俺はそれを見事に避けきり、そのままカウンターをお見舞いしてやった。
――呪文の効果か、さっきよりもドンキーフールの動きがハッキリ、そしてゆっくりと見えるようになった。おかげで、攻撃も躱しやすい。
どうやらこの呪文、防御力と回避率が上がるみたいだ。
「賢い判断だな。ドンキーフールは攻撃力に特化している分、守りは弱い。守りを固めていくのが堅実な策だ」
「Heyケン! そんなことを言ってないで、ドンドン攻撃してやろう!」
リアムは大きく前進し、ドンキーフールに飛びかかった。右腕を大きく捻り、奴に拳を決め込もうとする。
しかし、ドンキーフールはその動きにすぐさま反応し、棍棒で地面を叩くと、その衝撃で地面は激しく揺れ、奴の目の前の地面は隆起し、それは奴を覆い隠すほどの巨大な土の障壁となった。とっさの防御術か。
「Those all break down!! 」
リアムは障壁に怯むことなく、そのまま拳を力いっぱいぶつけた。壁ごと破壊し、奴に攻撃するつもりだ。
壁は砕け、破片は周辺に飛散した。
壁の向こうの景色が開けたが、そこにドンキーフールの姿はなかった。
「What!?」
「バカね! 上よ!」
ソラちゃんは素早く魔法陣を出現させ、犬型の魔獣を召喚。魔獣は、リアムの頭上から棍棒を振り下ろそうとするドンキーフールに向かって噛みついた。
ドンキーフールはバランスを崩し、魔獣の力により、そのまま大木に叩きつけられた。
「すげぇな! あんな巨人を!」
「余ところ見しないで、次の攻撃に備えなさい!」
俺の言葉はアッサリとソラちゃんに切り捨てられたが、もういちいちへこたれないぜ。
ドンキーフールは雄叫びを上げ、再び立ち上がった。それと同時に、地面の中から見覚えのあるモンスターが現れた。
ツチノコに似た見た目のモンスター――以前、ハンドレディが使役していたモンスターだ。
しかし、今回は一体のみならず、二体も相手しなくちゃいけないらしい。
「〈グラウンドスネイク〉……!? ここにいるはずがっ……」
ケンはモンスターを見て、焦りを見せていた。
ここにいるはずのないモンスター……って、言ってたな。つまりどこかに、モンスター使い――ハンドレディがいるってことだ。
一体どこに隠れているのか……俺は視線を動かし、あたりを見渡す。
魔女の子は、プレイヤーと同等の権利を得ている。魔女の子の関与があれば、本来現れるはずのないモンスターも、好きな場ところに連れてこられるはずだ。
「ユータ! ハンドレディは遠距離で操ることはできない! 絶対に、この状況が見えるところにいるはずだ!」
「……安全で、俺らを見れる場所っつったら……!」
俺は大木を見やったが、今はハンドレディを探す暇はない。容赦なく、ドンキーフールとモンスター――グランドスネイクは攻撃をしてくる。
「ニャニャ! いきなり三体になるなんてズルいニャ!」
「オ前ラ、最初カラ六人! ソッチノガ、狡イ!」
「勇者様たち! 一旦、後ろに下がるのです!」
マキの指示を受け、俺ら三人はマキの目の前を開けるように後ろへ下がった。
「あの頃よりも、わたしは強くなっているのですよ」
マキは杖を奴らに向けて構えた。
「〈ホムラマ〉!」
マキが呪文を唱えると、大きな炎が目の前に立ち上った。
三体は一斉に炎に包まれ、悲鳴が響き渡る。
ドンキーフールはまだ立っていたが、グランドスネイクは一気に瀕死まで追い込むことができた
「リアム!」
「OK!」
俺とリアムは同時に動き出し、それぞれのグランドスネイクにトドメを刺した。
「へっ。俺らにとっちゃ、もうソイツはザコ敵だぜ!」
「……ア、ア。姐サンノ……」
ドンキーフールは言いながら、上を向いた。そうか。予想はついていたが、姐さんってのはやはりハンドレディことで、ソイツは大木の上から見ているんだな。
「勇者様! 順調にHPは削れているのです! このまま畳みかけるのです!」
マキの言葉を合図に、俺らは体制を取った。
事前に決めておいた作戦を、実行するときがきた。
「〈ワンドマ〉!」
まずは、ムギちゃんが攻撃力アップの呪文を唱え、続いて、ソラちゃんが魔獣を召喚して攻撃を仕かける。
「〈歯牙の呪詛〉!」
魔獣はさっきよりもさらに牙が鋭くなり、素早い動きでドンキーフールに噛みにかかる。
「イギッ……! ハナセ!」
ドンキーフールは魔獣を振り払うが、こっちは、すでに次の攻撃の準備は完了している。
「〈ジホエンジャ〉! なのです!」
マキの魔法で、ドンキーフールは炎の渦に包まれた。奴の灼けるような叫び声が、あたり一帯に響き渡る。
「そんなに熱いなら、冷やしてあげよう」
ケンは銃口を向けながら言う。
「――〈ロックダン〉」
炎の渦が消えた直後、ケンの放った魔法弾がドンキーフールの足に命中する。 ドンキーフールの足元から下半身にかけて瞬時に凍りつき、身動きを取れなくすることに成功した。
「コンナノ、スグニ……!」
ドンキーフールは棍棒を使い、氷ごと破壊し動こうとするが――そう簡単に、させるもんか!
「〈風切剣〉!」
俺は、棍棒を持つ右手に狙いを定め、その場を動くことなく、剣で風を斬った――剣から放たれた波動が、空を切りながら、奴の右手に見事命中する。
ドンキーフールの手から、棍棒が離れる。
「リアム! 最後はビシッと決めろよ!」
「You’re telling me!!」
奴のHPはもう尽きる直前だ。攻撃力を上げ、連続で叩き込む作戦がしっかり効いた!
「〈全・力・投・球〉!!」
リアムの拳が、奴の額に見事決まった。
ドンキーフールは意識を失い、背中から地面へと倒れた。
土埃が舞う。俺らは、奴を見失わないように注視した。
やがて視界が晴れ、奴は再び目を覚ますことなく、仰向けのままそこにいた。
「やった! 倒したのですよ!」
マキはうれしそうに声を上げた。
「……いえ、違うわ。敵である奴の姿が消えないのはおかしい」
「でもでも、HPはもうなくなってニャい?」
俺は改めて、奴の残りのHPを確認した。
「……っ!」
「……ギリギリ、残していたか」
ケンが言った直後だった。ドンキーフールは、突如身体を硬直させ、一度力が抜けたかと思うと、ゆっくりと身体を起こし、立ち上がった。
「…………」
さっきまでと、雰囲気がまるで違う。
「――〈呪療解放〉」
ふいに上から降ってきた声に、俺らは顔を上げた。いつの間にか、大木の幹にハンドレディが腰かけていた。
「そこの〈呪術師)の娘なら、わたしの言うこと、わかるでしょう?」
ハンドレディは、不敵に笑う。
「――保険に、保険を重ねておいて正解だったわね」




