第19話・もちろんだニャ。全力で戦ってやるニャ!
島の中心の大木までの道は、舗装もされておらず、歩くのに苦労したものの迷うことはなかった。このゲームにマップ機能があったおかげだ。
その間に俺たち以外の気配を感じることもなかった。
「ソラちゃんはさ、魔女の匂いを追ったりできねぇの?」
「近くにいたら感じられるけど、距離があったらわからないわね。そもそも、わたしは魔女や魔王なんてものもよくわかってないのよ。最初にアンタと会った時も、アンタの匂いを感じて、直感的に『魔女』ってことを理解しただけなの」
「ほーん」
これは魔王の言っていた、元々のゲームスキルが高いってやつなのだろうか。
「……でも、今になって思えば、なんで理解したか不思議だわ。なんだか、ずっと前から知っていた気がするのよ。この世界のことを、アンタらのことを」
ソラちゃんはそう言った。
「あ! ウチもだニャー! 魔王とか魔女の子とかはサッパリニャンだけど、なんかユータたち見てると安心するっていうか……なんだろうね? もしかして、現実世界でも会ってた?」
「いや、さすがにムギちゃんに会ってたら忘れない気がするな……」
だが、二人の言っていることはなんとなく俺も理解できる。
ケンと出会った時も、よくわからない感情になったんだ。
出会ったばかりの敵であるケンに、絆みたいな、そんなものを感じたような気がした。
何も覚えてはいないのだけど。
「……きっと、世界が繰り返している影響なのですよ」
ふと、マキは呟いた。
「わたしたちは忘れていても、大事な何かは心が覚えている――そういうことだと思うのです」
マキは俺を見て微笑んだ。
「ロマンチックな推測なのですけれど」
俺も、マキに微笑み返した。
「俺はそれ、嫌いじゃないぜ」
話をしていると、やがて島中心付近まで辿りついた。
目的地であるその付近まで来ると、木々の密集した林が姿を現し、それらの木々より頭ひとつ突き出した大きな木が見えた。
きっと、あれが村長の言っていた大木だろう。
木の実が成っているようには見えないが……まあ、葉が生い茂っているし、ここからだと見えないだけかもしれない。
手前の木々の一部には、木の枝でできたアーチ状の門があった。ここを潜れば大木のあるエリアに移動できるのだろう。
俺はその前に〈セーブ〉をして、いざ魔女の子と戦闘になった時のために備えた。
ここまで来るのにも、中々体力を使っている。ノスティモ村の入口からまたやり直すのはさすがに厳しいと感じた。
……ま、俺はもう、また始めからやり直すなんてことはしないって決めたんだけどな。
「……ムギちゃんは、まだ大丈夫か?」
もう夕日が顔を出し始めていた。ムギちゃんは、夜中にHPが尽きてしまうことは確定している。そろそろ症状が現れてもおかしくはない。
「大丈夫ニャ! まだまだ元気だよっ!」
ムギちゃんは笑顔で答えた。まだ症状は出ていないようだが、急がないと。
「なんでオラたちは平気なのに、ムギだけ症状が出たんだ?」
林の奥へと入る前に、リアムはそんな疑問を口にした。
「たぶんですけれど……村長さんは、個人の魔力や、魔力耐性で症状の進行が違うと言っていたのです。わたしたちは、これまでの戦いである程度レベルも上がりましたし、魔力耐性もあるのです。だから、感染症にまだかかっていない、もしくはまだ症状が現れていないのです。……だけど、ムギちゃんは……」
マキはムギちゃんを見た。
ムギちゃんは申し訳なさそうに頬をかいた。
「ムギはまだレベル3だ。〈プレイヤー〉という立場だから、まだ症状の進行はこの程度で済んでいるが、僕らよりも先にやられるのは明白だ」
マキの言葉の続きを補完するように、ケンはハッキリと言った。
――そう、ムギちゃんはまだレベルが『3』しかないのである。
対して、妹のソラちゃんはレベル16。俺らと同じくらい……いや、少し強いくらいだ。
「えへへ……ウチ戦うの苦手でさ〜……。今まで、ほとんどの戦闘はソラに任せてたんだよね」
だからソラちゃんはあれだけ強かったのか……。どうりで納得がいく。
「まさか、こんなことになるなんてね。知っていたら、わたしはお姉ちゃんといっしょに、戦ってきたのに」
ソラちゃんはぎゅっとローブの裾を握った。
「ソラちゃんは悪くない。ソラちゃんは、お姉ちゃんのために頑張ってきてえらいよ」
俺はそんなソラちゃんを見かねて、そう声をかけた。
ソラちゃんは俺を見て、すぐに目を逸らし、
「ふん。格下に言われても嬉しくないわ」
と、口を尖らせた。
まったく、生意気な子供である。ま、でも耳朶がほんのり赤く染っているのには、気づかないでおいてやるか。
「じゃ、いよいよ中へ入りますか。そのまんま何もなく実をゲットして帰りたいところだけど……」
俺は振り向き、ムギちゃんに言う。
「ムギちゃんはどうする? もしかしたら魔女の子が現れるかもしれない。そしたら、問答無用で戦闘だ。それでも、ついてくるか?」
ムギちゃんは、一瞬だけいつもは見せない、少し弱気な表情を浮かべたが、すぐに覚悟の決めた顔つきに変わり、真っ直ぐと俺を見つめた。
「もちろんだニャ。全力で戦ってやるニャ!」
ムギちゃんは決意をあらわに、水晶玉を出現させた。
俺らは心をひとつにし、歩み出す。
いよいよ、大木エリアへと足を踏み入れたのだった。




