第18話・何があっても、俺はみんなを見捨てない
青年に案内されついた先は、青年の家だった。中では、ひとりの女の子が苦しそうにベッドの上で横になっていた。
「突然、妹が苦しみ出して……。首のところに、変な痣も浮かび上がってきたんです」
女の子の首元を見れば、首の周りに、ヘビがとぐろを巻いたような形の青紫色の痣ができていた。
「これは……」
村長は、片眼鏡越しにその痣を見て唸った。
「村長! 医者でもあるあなたなら、この子を助けられませんか!?」
青年は縋るような眼差しで懇願した。
「村長!」
そこへ、半獣人の女性がやってきた。小さな子供を抱いて、息を切らしている。
「ウチの子も同じような症状が……! それに、わたし自身にも」
その親子にも、同じ痣が確かにあった。しかし、母親のほうは、まだ特にほかの症状が出てきていない様子だ。
一体これは……?
「――まさか。こんなことが起こるわけが」
村長は呟いた。
「……これは、この島に棲む〈コゥヌピ〉という魔虫によって引き起こされる感染症です。コイツに刺されてしまうと、このように痣ができ、やがて呼吸困難を起こし、死に至る恐ろしい病です」
――感染症。そんなものがこの世界にも。
「厄介なことに、この病は感染力が強い。ひとりが刺されれば、あっという間にこの村全体に広まるでしょう。もしかしたら、すでにわたしらも、それに、あなたたちも……」
村長は俺らに目線を合わせながら話す。
「症状が出るか否か、またその呼吸困難が現れるまでの期間は、その人の魔力や免疫力――魔力に対する耐性によって変わってきます。今二人だけにこうして症状が出ているのは、まだ力の弱い幼い子供だからです」
村長はそう話しながら、「もしかしたら、あなたも今晩には……」と、母親を見た。母親はそれでも毅然とした態度で言う。
「わたしはどうでもいいんです。どうか、息子を助けてください」
「…………」
村長は立ち上がり、俺と向き合った。
「……勇者様。ひとつ、わたしから頼まれてくれませんか」
村長は言う。
「この感染症を唯一治せる薬があります。ただ、それは今はありません。この薬を作るためには、この島にある〈セラピアの実〉が必要なのです。勇者様、どうかその実を取りにいってはくれませんか」
まさにゲームらしい展開だ、と俺は思った。
魔王は、このイベントを用意していたというわけか。
こんなの、「はい」か「いいえ」かの選択肢なら、答えるのはひとつに決まっている。
「――はい。必ず、その実を持って帰ります」
ほかのみんなも、俺につづいて頷いた。
「ありがとうございます。〈セラピアの実〉は、島の中心の大木に生えています。少し距離はありますが、お願いします」
村長とヘリオスさんは頭を下げた。
「わたしは、ヘリオスとともに、少しでも病の進行を遅らせる処置をいたします。勇者様、そしてみなさまも、どうかよろしくお願いします」
「Leave it to me! 行こうぜ、ユータ!」
リアムは胸を叩きながら言って、先に家を出ていった。ほかのみんなも、リアムにつづいて家をあとにする。
最後に、俺も出ようとすると、「勇者様」と、村長に呼び止められた。
「……実はこの魔虫、本来なら、この村に現れるはずがないのです」
――それって、つまり。
「気をつけてください。これこそ、魔女の子の仕業かもしれません。いよいよ、魔女の子が動き出したのです」
「……わかりました。必ずソイツも倒してきます。村長は、村のみんなを頼みます!」
俺はそう言い残し、家を出た。
――『絡み合った運命』。いよいよ、その運命も解け始めたらしい。
家を出た先では、ムギちゃんがフードを深く被って申し訳なさそうな顔をして待っていた。ソラちゃんは不安そうな顔で!ムギちゃんを見つめている。
「えへへ。どうやら、前回のウチの死因はこれだったみたいだニャ」
ムギちゃんはそう言い、フードを下ろすと、その白い首には痛々しく青紫色の痣が刻まれていた。
「勇者様、ムギちゃんの〈STATUS〉を見ても、なんら変わりないのです。これは、なぜなのでしょうか?」
マキは困惑気味に聞いた。
「……きっと、ステータス異常なんかじゃなく、ただの感染症だから……だと思う」
――魔王の言っていた、〈STATUS〉のフォローされない部分ってのは、これのことか。
だから、今まで自分の異変に気づかなかった。
首の痣は、きっとイベントが起きたことにより、可視化されるようになったのだろう。
――ゲームではよくある話だ。
〈プレイヤー〉側が何が起こるかわかっていても、それまでのプロセスを正しく踏まないとゲーム内では正しく事が起こらない。あるはずの物が現れない。ギミックが、作動しない。
ソラちゃんは俺を見ると、静かにこう言う。
「……ユータ。痣から、微かに魔女の匂いがしたわ」
「魔女の……匂い?」
ソラちゃんは「ええ」と答えた。
魔王の起こしたイベントだからか? ……いや違う。村長の言っていたとおり、やはりこれには、魔女の子が関わっているんだ。
きっと今までも、こうして水面下で魔女の子は動いていた。
俺がこのイベントを見逃しつづけていたから、ムギちゃんは自分の異常に気づくことなく、そのまま息を引き取ってしまった。
誰も、何も気づかず、そのまま死んでしまった。
魔女の子が魔虫を使い、俺を狙って……この村全員諸共、死に陥れたんだ。
――許せない。魔女の子も、それを作り上げた魔王も。
「……ユータ。ここからは警戒したほうがいい。魔女の子は、ドンキーフールだけじゃなさそうだ」
「……ああ」
ケンとは同意見だぜ。
すでに、俺の中にもこんなやり方しそうな奴の心当たりがある。
――あのモンスター使いの女、ここにも潜んでるみてぇだな。
もしかしたら、いや、確実に魔女の子との戦いが始まるだろう。
「みんな、戦闘が起きた時のために基本の動きだけは決めておこう」
――「何があっても、俺はみんなを見捨てない」。
最後にひとこと、力強く呟いた。




