第14話・犬の分際で生意気ね
「まっ、待ってくださいなのです!」
魔女の呪いについて話題が上がったところで、マキは声を上げた。
「でも、魔女の呪いはおかしくないのですか? 勇者様は勇者様なのです。それに、わたしたちは勇者様といっしょにいますが、呪われたことなんて一度もないのです!」
マキの言っていることは正しい。今まで、マキたちは俺が原因で死んでしまうということは一度もなかった。
そもそも、なぜ俺だけから魔女の匂いがするのかもわからない。
きっと、この特別な〈SKILL〉が原因だろうと想像できるが……。
「ああ。それは俺も思っていた。どうして、俺といっしょいるマキたちは無事で、ムギちゃんだけが呪いにかかってしまったのか……。だから、理由はほかじゃないかと思うんだ」
ソラちゃんの言動から、ムギちゃんの死は『魔女の呪い』が原因と思いもした。しかし、本当は死因は別のところにあるのではないか。
それに、プログラムの根幹で、魔王も言っていた――ソラちゃんは、魔女の匂いがするという理由だけで、俺を犯人と決めつけた、と。
ってことは、原因は俺じゃないってことだ。
そうとわかっていても、さっきムギちゃんに触れなかったのは、念には念をってやつだ。
魔王が嘘をついている可能性だってある。
「そのマジョノノロイ? じゃないとしたら、モンスターに襲われたとか?」
リアムはそう意見したが、その可能性は低い。
「いや、村にいる限りモンスターと遭遇しないからそれはないだろう。前回、ムギちゃんとソラちゃんは俺らと同じ宿にいた。出かけようとする様子もなかったし……第一、モンスターに襲われているのなら、ソラちゃんは俺のせいだとは思わないはずだ」
リアムは「I see」と頷いていた。
「そうね。そもそも、わたしはお姉ちゃんと離れ離れに行動することは基本しない。誰かに襲われたというのなら、わたしは全力でソイツからお姉ちゃんを守る。守りきれなかったら、全力でソイツに復讐してやるまでよ」
補足するように、ソラちゃんはそう言い切った。
前回のソラちゃんを知っている身からすると、その言葉に偽りなんてないのは明らかだ。
「ソラは、ウチの一番のボディーガードだもんねっ!」
ムギちゃんはそう言って、ソラちゃんに抱きついた。
ほっぺをスリスリされるソラちゃんは、困ったように眉を下げながらも嬉しそうだ。
「そうなると何か病気で……なのですかね?」
次にマキのその意見が出たが、それも微妙なところだった。
何もかもリアルの感覚が再現されたゲーム世界だが、病気になることなんてあるのだろうか? 攻撃されて怪我をすることはしょっちゅうだが……。
そもそも、俺が前回キチンとムギちゃんの様子を見ておけば。
ソラちゃんからすぐ逃げる前に、一度ムギちゃんの顔を見ておくべきだったかもしれない。
「――病気……か。その線、あるかもしれないな」
いき詰まる空気の中、ケンは口を開いた。
ケンはソラちゃんを見下ろすと、こう聞く。
「ソラ。今は特に、ムギから呪いの匂いなんて感じないんだよな?」
「ええ、当然ない。もし呪いにかかったとわかっていたら、わたしは呪いをかけた人物をすぐに探し、追いかけ、殺しているわ」
迷わず殺すというところに、ソラちゃんのお姉ちゃんに対する愛情が強いというのが感じられる。
でもちょっと過激じゃないかな、ソラちゃん…。
チラリとムギちゃんを見れば、苦笑いを浮かべていた。少々、姉も思うところはあるようだった。
「呪いにかかったものは、身体から呪いの匂いをまとわせる。今しないのであれば、呪いにはかけられていない。ここの村には呪いをかけられる者もいないようだし、そもそも呪いが原因という仮定は一度捨ててしまってよいだろう。……まあ、〈呪術師〉である君が姉を呪わないという前提ではあるがな」
「わたしがそんなことするわけないでしょう。犬の分際で生意気ね」
ソラちゃんは鼻をフンと鳴らした――というか、今更だけど、ソラちゃん、最初はただの大人しい子かと思ってたけど、中々に口が悪いな……。姉に無邪気さを全部取られたのか。
ケンは何事もないように聞き流していた。いい男は、言葉の躱し方もスマートなのである。
「……で、ケン。呪いの線は消えたとして、じゃあなんだっていうんだ? まさかマキの言うとおり、本当に病気だったり?」
「えー。ウチ今めっちゃ元気だけどニャー。朝ご飯もバッチリ食べてきたし!」
ムギちゃんはお腹をポンと叩いて言ってみせた。
「呪いじゃなくても、この世界には人を殺める術は多数ある。モンスターの襲撃以外の可能性で、村の中でできることといえば」
ケンは言う。
「――毒だ」




