第11話・これが最後のゲームだ、勇者よ
「――面白い」
女の人の声が聞こえた。
……あれ? 俺は今、どこにいるんだ?
肌寒い。あたりは暗く、どんな場ところにいるのかまったくわからない。光源は、俺の足元にある小さな青い光しかなかった。
少なくとも、ここは最終セーブ地点である〈ノスティモ村〉の入口でないことは確かだ。
どういうことだ? どうして、セーブ地点に戻っていない?
――まさか、“失敗“したのか?
それに、さっき聞こえた女の人の声は一体……?
「勇者よ、さきほどのは実に面白かった。自ら銃で自決するとは、すごい発想をするものだ」
また聞こえた。女性の声だ。一体、誰が話しかけてきてるっていうんだ?
「しかしあの娘、相変わらず勘がよい。元々ゲームスキルが高い娘なのだろう。すぐにこの世界に順応し、事態を飲み込んでいる。だが、精神が弱すぎるのがキズだな。齢十二を鑑みればしかたがないのか……。姉をひとり失っただけでパニックになり、冷静さを失い、魔女の匂いを感じたという理由だけで、お前を犯人と決めつけて暴走した」
あの娘……ソラちゃんの話をしているのか?
「まあでも、だからこそ面白い」
暗い空間の色々なところから声が響いてきて、相手がどこにいるのかが、まったく掴めない。
「……おい、さっきからなんだってんだよ。お前は誰なんだ?!」
相手がどこにいるのかわからず、ただ目の前の暗闇に向かって叫んだ。
「ああ、我か? それはお前がよく知っているだろう?」
――よく知っている?
「……いや、覚えていないのか。影響を受けないのは、我と片割れだけだったかな」
影響を受けないって、何からの影響なんだ? それに、『片割れ』って……?
「何回目だが忘れたが、自己紹介をしてやろう――我は、この世界の現権力者。この世界の者たちは、我のことを魔王と呼んでいる」
「……ッ!? 魔王だって!?」
セーブ地点に戻ろうとしたら、誤ってラスボスのところに来ちまったって言うのかよ!
「まあまあ落ち着け、勇者。別に戻る時間軸を間違えたわけではない。セーブ地点を戻っていくお前をたまたま捕まえることができた故、ちょっと話でもしようかと、一時的に裏の空間に呼び寄せただけだよ」
ってことは、ここは魔王城なんかじゃなく、世界の裏側――いうなれば、ゲームの世界を支えるプログラムの根本的な場、みたいなもんか?
そして、この口振り――魔王は、この世界で暴走するAIと考えていいだろう。
「ひとつ、お前によい情報を教えてやろうと思ってな」
「……何を企んでやがるんだ」
魔王は「カリカリするな。別に、さきほど楽しませてもらったお礼だよ」と答えてから話す。
「――現実世界のお前たちは、今もちゃんと生きている」
「……っ!」
「この世界は、幾度と繰り返してきたが、まだあちらの世界のお前らが死に至るほどの時間は経っていない」
それが本当なら、これはかなりデカい情報だ。
希望は、まだあるってことだ。
しかし、もうひとつ気になることがあるとすれば。
「世界は幾度と繰り返してきたって……それは、どういうことだよ」
「――それは言葉どおりの意味だ。お前は気づいていないだけで、数々の世界線を歩んできているのだよ。もちろん、その全てを我は見てきている」
「俺のこの力で、何度も繰り返したって言うのか?」
「ああそうさ。まあでも、初めの時こそ違ったか」
――初めの時こそって……いつのことだ?
しかし、魔王本人が言うなら違いない。嘘をついていなければ、だが。
占いの言葉や、マキの憶測も当たっていたという訳だ。
「お前の目的はなんなんだ? 〈プレイヤー〉を閉じ込めて、一体何がしたいんだ!?」
フン、と鼻息が聞こえた。俺の質問に、飽き飽きしているかのようにも感じられた。
「それは、魔女にしかわからん」
「魔女にしかって……! 結局、その魔女がお前なんだろ!?」
「…………」
魔王は少し黙って、それから答える。
「……そうだったな」
その物言いに、俺は違和感を覚えた。
「まあ、そんな話はよい。勇者、我は最後の挨拶をしようと思って、お前の意識を呼び寄せたのだ」
――最後の挨拶?
「この世界は崩壊寸前だ。お前が幾度と繰り返す内に、メモリーは限界を迎えてきておる――次 〈リセット〉して逃げようものなら、いよいよ、ここにいる誰もが、二度と目覚めないかもしれん」
魔王の長く吐く息の音が、俺の横を流れた。
「いいか、この世界でのルールを教えてやる。この世界では死んだら終わりだ。復活なんて生ぬるい設定はない。死んだら最後、この世界で意識は葬られ、現実世界のお前らは、脳死判断され棺桶行きだ――棺桶に入れられたお前らが連れて行かれるのは教会などではない、火葬場だ」
――死んだら、終わり。
今までの状況から仮定としてあったが、この話で確定した。
ここでの死は、現実での死なんだ。
「だが、もしお前が我を倒し、世界から抜け出す道を選べば、全てはチャラになる。既にこの世界で死に絶えようとも関係なく、全員生きて現実世界で目を覚ませる」
――ってことは、どこかでゲームオーバーしてしまった〈プレイヤー〉も、全員現実世界で目覚められるのか。
だったら、必ず救わないと。
全員を、現実世界へ連れ戻さないと。
「これが最後のゲームだ、勇者よ。いよいよ、エンディングを選ぶときが来た」
――エンディングを選ぶとき?
「未来を選べ、勇者。
ひとりを犠牲にし、みなを救うか。みなを犠牲にし、ひとりを救うか。もしくは――みな、仲よく犠牲となるか」
そんなこといきなり言われても、何も言えなかった。
ひとりって、誰のことだ?
誰かは置いておいても――俺は、ひとりも犠牲者なんて出したくない。
せっかく、〈勇者〉になったのなら。
「お前は今、ひとりも犠牲者を出したくない――そう思っただろ?」
「……っ!」
――図星だ。
「お前はそんな偽善にまみれているから、いつも真実を見逃し、繰り返しつづけるのだ。……まあ、そのおかげで我はこうして楽しんでこれたのだが」
クククク……と押し殺すように笑うと、また話をつづける。
「まあ、まだまだ我のところまで道は長い。せいぜい、お前らはお前らで旅を楽しみ、答えを決めるがよい」
――答えを決めるって……。俺は…………。
「それじゃあ、お前はもう行け。二人目の我が子を、突破してみせよ」
魔王の言葉を聞いた刹那、俺の視界がぐるんと大きく回転した。
意識が消える直前、頭のない俺の身体が地面に倒れてるのが見えて、ああそういうことか――と、理解した。
痛みなんて感じる間もなく、俺は死の中に落ちていった。




