第10話・気づいてあげられなくて、ごめんな
「――ぶっ殺してやる。腐れ魔女」
それが、ソラちゃんの戦闘の合図だった。
刹那、魔獣二頭が俺らに向かって襲いかかる。
俺とケンはとっさに防御するが、その力は強く、そのまま窓を突き破り外へ押し出されてしまう。
「……クソっ!」
俺は剣を振るい、その圧で衝突の衝撃を殺し、地面へと着地する。
我ながら、よくこんな動きができたと関心する。
一方のケンも受け身を取り無こと着地し、すぐさま魔獣へ銃弾を撃ち込んだ。
銃弾は魔獣の右目に命中。一瞬怯みを見せるが、それでも逃げ出すことなく、戦闘態勢を取りつづけている。
「やっぱり、一筋縄ではいかないわね」
ソラちゃんの声が上から降ってきた。
ソラちゃんは窓から足を踏み出すと、途中途中に魔法陣を出現させ、まるで階段を下るようにして地面へと足をつけた。
「ソラちゃん、一体どういうつもりなんだ!? 魔女って……!?」
「まだしらを切るつもりなの!!」
腹の底から怒鳴りつけるように、ソラちゃんは叫んだ。
ソラちゃんの瞳孔は開き切り、眉間に深く皺を寄せている。最初に出会った物静かなソラちゃんとは、まるで別人のようだった。
「アンタがッ……、アンタがッ! お姉ちゃんを殺したんだろ!!」
――お姉ちゃんを殺した?
ムギちゃんも、死んでしまったというのか?
一体、何が起きて……。
だが、考えている暇はなかった。俺はそんなソラちゃんに必死に訴える。
「違う! 俺はそんなことしていない!!」
しかし、ソラちゃんは聞く耳を持たず、魔獣を使い攻撃する。
俺はなんとか魔獣の攻撃を躱し、その首に剣を振り下ろした。魔獣の首が落ちると同時に、砂となって消えていく。
「ユータ! また来るぞ!」
ケンは銃を構えながら喚起した。
ソラちゃんは、またさきほどと同じ二頭の魔獣を召喚していた。
「……彼女、〈呪術師〉か」
ケンは呟いて、新たに召喚された魔獣に攻撃した。
見ことに銃弾は決まりら魔獣は倒れるが、しかし、すぐにソラちゃんの手によって、また魔獣が召喚されてしまう。
――これじゃあらキリがねぇ!
二体の魔獣は同時に動き出し、牙を剥き出し襲いかかる。
「ユータ。呪術師本人に攻撃すれば話は早いが、どうする?」
魔獣との抗戦が続く中、ケンはそう聞いた。
俺はら魔獣を操るソラちゃんを見た。
憎しみと怒りに任せて、攻撃を奮いつづけている。
ソラちゃんを止めなければ、俺らは殺されてしまうかもしれない……だけど。
「――ソラちゃんは、敵じゃねぇ!」
魔獣が、俺に噛みつこうと飛びかかった。俺はそれを剣で防ぎ、地面へと叩き落とす。
「ソラちゃんには、絶対手を出すな!」
ケンは距離を詰めてきた魔獣に蹴りを入れ、
「了解した」
と返ことした。
「ソラちゃん! 聞いてくれ!!」
俺はできる限り大声で問いかける。
「俺は何もしていない! 本当だ! 魔女ってのは、どういうことだっ!?」
ソラちゃんは、攻撃の手を止めようとはしない。
「よくもまあそんな白々しく聞けたものね! そんなに、魔女の匂いをさせておいてっ!!」
――魔女の匂いだって?
まだ、魔女の子であったケンにそういうことを言うならわかる。しかし、ソラちゃんは明らかに俺に向かって言っていた。
「初めて会った時から、なんとなく匂いで感じてはいたわ。〈呪術師〉のわたしには、どうやらその類いの匂いを嗅ぎ分けることかできるみたいでね」
俺はソラちゃんの攻撃を受けないように気をつけつつ、話に集中する。
「ああっ! 臭い臭い臭いッ! 今も!その忌々しい匂いがして堪らないッ!!」
――はじめ、ギルドの前で出会った時、ソラちゃんが『臭い』と言ったのはこれが理由だったのか。
「あのとき、すぐに別れていればよかった! 油断した! 気のせいだったんだと、お前とお姉ちゃんが触れ合うのを、許してしまった!!」
ソラちゃんは悔しそうに、血が滲むくらい下唇を噛み締めた。
「それが間違いだった! そこで、お姉ちゃんは魔女の呪いにかかって死んだんだ!!」
ソラちゃんの目が、涙で滲んでいく。次第にそれは大きな粒となって、ボロボロと頬を伝い落ちていった。
「教えてよッ! 勇者! 死んだお姉ちゃんは、いつ目覚めるのよぉぉぉぉ!!」
それはもう、ほとんど咆哮に近かった。
魔獣が一旦居なくなったかと思えば、ソラちゃんの目の前に今までよりも大きな魔法陣が出現した。
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」
魔法陣から現れたのは、俺よりも遥かに大きな魔獣――『ケルベロス』だった。
「ユータ、これはマズイぞ」
ケンは言う。
「魔力が強すぎる。彼女、自分の生命エネルギーまで魔力に変換している。このままだと、彼女諸共僕らは――」
ケンは一瞬だけ目を伏せた。
――そうなる前に、ソラちゃんを不能にさせたほうがいいって言いたいのか。
「……ケン。ここでソラちゃんを倒して先に進んだとしても、マキもリアムも……それに、ムギちゃんも目覚めないんだ。だから俺は、最後までソラちゃんに手は出さねぇ」
ケンの銃を握る手が、一瞬震えた。
「……なら、このまま何もせずにこの場にいる全員死ぬのか。この魔獣を僕ら二人で受け止めきれるとは、到底思えない」
普段はあまり感情を見せないケンも、こればかりは苛立ちを滲み出していた。
「……いや、そんなことはしねぇ」
俺の言葉に、ケンは目を丸くした。
「じゃあ、どうすると――」
「ケン。その銃を貸せ」
ケンはなぜだと言ったが、俺はいいから貸せと、その銃を強引に奪うように受け取った。
「ユータ。何を……」
「……俺は、もうこっから先、誰も死なせる気はねぇ」
そう言って、ソラちゃんを見た。自分の命を省みず、ただ俺たちを殺そうとその力を増幅させつづけている。
ケルベロスは、今か今かとその魔法陣の中から俺らを睨みつけていた。
「――それに俺は、これ以上ソラちゃんの手を汚させる気も、まったくねぇ!」
俺は覚悟を決め、大きく息を吸った。
ケンは気づいたのか、「やめろ! ユータ!」と叫んだ。
俺は、銃口を自分のこめかみに押し当てた。
――マキ、リアム。次の俺がなんとかするから待っててくれ。そして、ソラちゃん……。
「お姉ちゃんも、絶対助けるから」
――気づいてあげられなくて、ごめんな。
俺は喉がはち切れるくらい叫び声を上げ、思い切り引き金を引いた。
乾いた音が響いた、と思う。
俺の世界は、一瞬で暗転した。




