第9話・せめて、やり直すまでは僕らを頼れ
リアムは、相変わらず大きないびきをかきながら爆睡している。
隣のケンも眠ってそうだし、向こうのベッドのマキも……うん、ちゃんと眠っているな。
俺はみんなが寝静まっているのを確認し、音を立てないように着替えを済ませ、部屋の扉に手をかけた。
「――ユータ。ひとりでどこへ行く」
そのとき、背後から声をかけられた。振り向けば、眠っているかと思っていたケンが立って俺を見据えていた。
「いや、その……」
ケンは小さく息を吐いて、自分も身支度を済ませると扉の近くまで来た。
「昨晩死んだ理由を探しに行くのだろう。だったら、僕もついていく」
ケンはそう言って、俺より先に扉を開けて部屋から出た。
「僕だって、昨晩何があったのか知りたいしな」
ケンは先に歩いていく。
「……まったく、カッコつけやがって」
俺はそっと部屋を出て、宿屋をあとにした。
◇
村の外を目指しながら、俺とケンは歩いていた。
もう夜更けだからだろう。昼間の活気はなく、とても静かだった。
「ユータは、どうしてわざわざひとりで行こうとしたんだ」
ふいに、ケンがそんな質問をしてきた。
俺は「……別に」と前置きし、答える。
「みんな眠ってたから、俺だけ行こうと思っただけだよ」
「……格好つけているのは、ユータじゃないか」
ケンは俺を見つめた。
「僕は知らなかった。ユータがそんなやり直す力を持っていること。魔王からは、勇者を殺せとしか言われていなかったから」
ケンはそう話した。
魔王は、魔女の子たちに俺の力を教えていなかった。魔王自身は、この力を知らないのだろうか。それとも知っていて……?
魔王の目的は、見えてこないままだ。
「――ユータ、自分は特別な力を持っている勇者だからって、自分ばかりが犠牲になって頑張らなくていい」
ケンは真っ直ぐ前を向き直す。
「やり直す必要は、この先何度も出てくるかもしれない――だけど、せめてやり直すまでは、僕らを頼れ。ひとりで抱え込むな」
「……ケン」
敵だったはずなのに、今はこんなにも心強い存在になるなんて。
「……いい男は、言うことが違いますな〜」
だけど、照れ臭い俺はひねくれた言葉だけを返した。
ケンはそれを小さく笑って受け流した。
やがて、目的の海岸まで辿り着いた。
昨晩はここの浜辺にある岩穴で眠り、次の日、目を覚ました時にはセーブ地点に戻っていた。
ここで何かあったことは確かなんだ。
改めて岩穴を見るが何もない。海岸沿いを見渡しても、何も怪しいところはないし、モンスターが出てきそうな気配もない。
昨晩はこの時間から眠っているのは確かだ。ここで何が起きるのか、なんだが……。
「ケンは、何か感じるか?」
ケンも注意深くあたりを警戒しているが、静かに首を横に振った。
「まったくだ。天候が荒れたりもないし、誰かに敵意を向けられている感じもない。……昨晩と何か条件が変わったのか?」
条件が変わったといえば、俺たちは野宿ではなく、ちゃんとした宿に泊まっていることくらいだが……。
「……クソっ。一体なんだってんだよ。早く原因を見つけて、ドンキーフールも倒さなきゃいけねぇのに……!」
占いによれば、少なくとも昨晩の死の原因を解明し突破できなければ、ドンキーフールには会えない。
――もし、この世界が何度も繰り返しているのだとしたら、前回の俺はどうやって答えを見つけたってんだ。
「……ユータ。一度宿へ戻ろう。ここには何もない」
ケンは言った。
「ユータもゆっくり休むといい。休息だって、時には必要だ」
諦め切れない気持ちもあったが、ケンの言うとおりかもしれない。
ここにいつづけても収穫がないことは明白だ。ここは一度宿へ戻り、また明日原因を探したほうが効率的だ。
「……わかった。今日は宿に戻るよ」
結局、何も得られないまま、宿へと戻った。
階段を登り、部屋の前に立つ。
やはりこんな深夜だ。この場は、すっかり静まり返っている。
俺は中にいる二人を起こさないように、静かにゆっくりと扉を開けた。
二人は今もぐっすり眠っていた。
俺も横になろうかとリアムの横に寝転がろうと思ったそのときだ。
――ん?
何か、異常を感じた。
突然、胸の鼓動が嫌な音を立て始める。
俺は、恐る恐る横向けで眠っていたリアムを仰向けにした。
「……ッ」
リアムは、息をしていなかった。
そして、その顔は青白く変色していた。
俺の額から、ジメッとした冷や汗が滲み出てくる。
――リアムは、冷たくなって死んでいた。
「……ユータ」
俺は顔を上げ、ケンを見た。
マキの様子を見ていたケンは、緊張と絶望が混じった瞳でこう訴える。
「……マキが、息をしていない」
俺は二人の〈STATUS〉を表示させて見た。
そこにはありありと、〈DEAD〉の文字が浮かび上がっていた。
その事実は変わりようがなく、二人が死に至ってしまったことを残酷に告げていた。
「……なん、で」
どういうことだ?
俺たちが宿屋に泊まったことで、何か状況が変わったのか?
もしくは、昨晩とは別の原因があって、二人は死んでしまった……?
力が入らない。
思わずよろける俺を、ケンはそっと支えてくれた。
「――こんな夜中に、どこへ出かけていたの?」
突然声がし、俺らは部屋の扉のほうを見た。
そこには、かわいらしいパジャマ姿のソラちゃんが立っていた。
しかし、その表情は狂気と怨みに満ちている。
「ソ、ソラちゃ……」
「――気安く名前を呼ぶなッ!!」
空気が一気に張り詰める。
同時に、ソラちゃんの両隣の地面に魔法陣のような物が浮かび光り上がり、そこから犬のような見た目をした魔獣がそれぞれ現れた。
魔獣はグルル……と唸り声を上げている。
ソラちゃんが俺らに敵意を剥き出しにしているのは明らかだ。
「……ソ、ソラちゃんこそ、こんな夜中にどうしたんだよ……」
声が震えているのは、自分でもわかった。
ソラちゃんは吐き捨てるように笑った。
「どうしたって、アンタを待っていたのよ。コイツらはもう片づけ終わったしね」
片づけ終わったって……。
いやまさか、そんなわけがない。
俺は横目で冷たくなってしまったマキとリアムを見て、それから、もう一度視線をソラちゃんへと戻した。
「こ、これは……ソラちゃんが、やったのか?」
否定してほしい、そう思いながら問いかけた。
「そうよ」
しかし、俺の想いは叶わなかった。
――そんな。どうしてソラちゃんがそんなこと……!
「だって、すごく、すごく臭かったんですもの。それに、勇者の仲間はみな、同罪だわ」
何を言っているのか、俺には理解できなかった。ソラちゃんは、明らかに正気を失っていた。
ソラちゃんは、急に大きく身体を横に倒しながら、俺を睨みつける。
「ああ、そうだ。あとはしっかり、匂いの元から消し去らないと」
ソラちゃんは狂ったような笑い声を上げて、背筋を真っ直ぐに立て直す。そのときにはもう、まったくの無表情に変わっていた。
ソラちゃんは目を見開き、ゆっくりと右手をこちらに突き出した。
「――ぶっ殺してやる。腐れ魔女」




