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【完結済】神風勇太はたった一人の勇者となる  作者: みおゆ
第二章・バンゲッデトウ
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第9話・せめて、やり直すまでは僕らを頼れ

 リアムは、相変わらず大きないびきをかきながら爆睡している。

 隣のケンも眠ってそうだし、向こうのベッドのマキも……うん、ちゃんと眠っているな。


 俺はみんなが寝静まっているのを確認し、音を立てないように着替えを済ませ、部屋の扉に手をかけた。


「――ユータ。ひとりでどこへ行く」


 そのとき、背後から声をかけられた。振り向けば、眠っているかと思っていたケンが立って俺を見据えていた。


「いや、その……」


 ケンは小さく息を吐いて、自分も身支度を済ませると扉の近くまで来た。


「昨晩死んだ理由を探しに行くのだろう。だったら、僕もついていく」


 ケンはそう言って、俺より先に扉を開けて部屋から出た。


「僕だって、昨晩何があったのか知りたいしな」


 ケンは先に歩いていく。


「……まったく、カッコつけやがって」


 俺はそっと部屋を出て、宿屋をあとにした。




 ◇




 村の外を目指しながら、俺とケンは歩いていた。

 もう夜更けだからだろう。昼間の活気はなく、とても静かだった。


「ユータは、どうしてわざわざひとりで行こうとしたんだ」


 ふいに、ケンがそんな質問をしてきた。

 俺は「……別に」と前置きし、答える。


「みんな眠ってたから、俺だけ行こうと思っただけだよ」

「……格好つけているのは、ユータじゃないか」


 ケンは俺を見つめた。


「僕は知らなかった。ユータがそんなやり直す力を持っていること。魔王からは、勇者を殺せとしか言われていなかったから」


 ケンはそう話した。

 魔王は、魔女の子たちに俺の力を教えていなかった。魔王自身は、この力を知らないのだろうか。それとも知っていて……?

 魔王の目的は、見えてこないままだ。


「――ユータ、自分は特別な力を持っている勇者だからって、自分ばかりが犠牲になって頑張らなくていい」


 ケンは真っ直ぐ前を向き直す。


「やり直す必要は、この先何度も出てくるかもしれない――だけど、せめてやり直すまでは、僕らを頼れ。ひとりで抱え込むな」

「……ケン」


 敵だったはずなのに、今はこんなにも心強い存在になるなんて。


「……いい男は、言うことが違いますな〜」


 だけど、照れ臭い俺はひねくれた言葉だけを返した。

 ケンはそれを小さく笑って受け流した。


 やがて、目的の海岸まで辿り着いた。

 昨晩はここの浜辺にある岩穴で眠り、次の日、目を覚ました時にはセーブ地点に戻っていた。


 ここで何かあったことは確かなんだ。


 改めて岩穴を見るが何もない。海岸沿いを見渡しても、何も怪しいところはないし、モンスターが出てきそうな気配もない。


 昨晩はこの時間から眠っているのは確かだ。ここで何が起きるのか、なんだが……。


「ケンは、何か感じるか?」


 ケンも注意深くあたりを警戒しているが、静かに首を横に振った。


「まったくだ。天候が荒れたりもないし、誰かに敵意を向けられている感じもない。……昨晩と何か条件が変わったのか?」


 条件が変わったといえば、俺たちは野宿ではなく、ちゃんとした宿に泊まっていることくらいだが……。


「……クソっ。一体なんだってんだよ。早く原因を見つけて、ドンキーフールも倒さなきゃいけねぇのに……!」


 占いによれば、少なくとも昨晩の死の原因を解明し突破できなければ、ドンキーフールには会えない。


 ――もし、この世界が何度も繰り返しているのだとしたら、前回の俺はどうやって答えを見つけたってんだ。


「……ユータ。一度宿へ戻ろう。ここには何もない」


 ケンは言った。


「ユータもゆっくり休むといい。休息だって、時には必要だ」


 諦め切れない気持ちもあったが、ケンの言うとおりかもしれない。

 ここにいつづけても収穫がないことは明白だ。ここは一度宿へ戻り、また明日原因を探したほうが効率的だ。


「……わかった。今日は宿に戻るよ」


 結局、何も得られないまま、宿へと戻った。

 階段を登り、部屋の前に立つ。

 やはりこんな深夜だ。この場は、すっかり静まり返っている。


 俺は中にいる二人を起こさないように、静かにゆっくりと扉を開けた。


 二人は今もぐっすり眠っていた。

 俺も横になろうかとリアムの横に寝転がろうと思ったそのときだ。


 ――ん?


 何か、異常を感じた。

 突然、胸の鼓動が嫌な音を立て始める。

 俺は、恐る恐る横向けで眠っていたリアムを仰向けにした。


「……ッ」


 リアムは、息をしていなかった。

 そして、その顔は青白く変色していた。

 俺の額から、ジメッとした冷や汗が滲み出てくる。


 ――リ(・)ア(・)ム(・)は(・)、(・)冷(・)た(・)く(・)な(・)っ(・)て(・)死(・)ん(・)で(・)い(・)た(・)。


「……ユータ」


 俺は顔を上げ、ケンを見た。

 マキの様子を見ていたケンは、緊張と絶望が混じった瞳でこう訴える。


「……マキが、息をしていない」


 俺は二人の〈STATUS〉を表示させて見た。

 そこにはありありと、〈DEAD〉の文字が浮かび上がっていた。

 その事実は変わりようがなく、二人が死に至ってしまったことを残酷に告げていた。


「……なん、で」


 どういうことだ?


 俺たちが宿屋に泊まったことで、何か状況が変わったのか?

 もしくは、昨晩とは別の原因があって、二人は死んでしまった……?


 力が入らない。

 思わずよろける俺を、ケンはそっと支えてくれた。



「――こんな夜中に、どこへ出かけていたの?」



 突然声がし、俺らは部屋の扉のほうを見た。

 そこには、かわいらしいパジャマ姿のソラちゃんが立っていた。


 しかし、その表情は狂気と怨みに満ちている。


「ソ、ソラちゃ……」

「――気安く名前を呼ぶなッ!!」


 空気が一気に張り詰める。


 同時に、ソラちゃんの両隣の地面に魔法陣のような物が浮かび光り上がり、そこから犬のような見た目をした魔獣がそれぞれ現れた。


 魔獣はグルル……と唸り声を上げている。


 ソラちゃんが俺らに敵意を剥き出しにしているのは明らかだ。


「……ソ、ソラちゃんこそ、こんな夜中にどうしたんだよ……」


 声が震えているのは、自分でもわかった。

 ソラちゃんは吐き捨てるように笑った。


「どうしたって、アンタを待っていたのよ。コイツらはもう片づけ終わったしね」


 片づけ終わったって……。

 いやまさか、そんなわけがない。


 俺は横目で冷たくなってしまったマキとリアムを見て、それから、もう一度視線をソラちゃんへと戻した。


「こ、これは……ソラちゃんが、やったのか?」


 否定してほしい、そう思いながら問いかけた。


「そうよ」


 しかし、俺の想いは叶わなかった。


 ――そんな。どうしてソラちゃんがそんなこと……!


「だって、すごく、すごく臭かったんですもの。それに、勇者の仲間はみな、同罪だわ」


 何を言っているのか、俺には理解できなかった。ソラちゃんは、明らかに正気を失っていた。


 ソラちゃんは、急に大きく身体を横に倒しながら、俺を睨みつける。


「ああ、そうだ。あとはしっかり、匂いの元から消し去らないと」


 ソラちゃんは狂ったような笑い声を上げて、背筋を真っ直ぐに立て直す。そのときにはもう、まったくの無表情に変わっていた。


 ソラちゃんは目を見開き、ゆっくりと右手をこちらに突き出した。


「――ぶっ殺してやる。腐れ魔女」

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