第7話・ニャっ! もっ、もしかして、ウチらのストーカー!?
「なるほどなのです。事情はよくわかったのです」
マキはそう言って、サンドイッチをひとくち頬張った。
「That's unlucky……ってやつだな」
リアムは相槌を入れつつ、大きな口を開けて骨つき肉にかぶりつく。
「昨晩のことを僕が覚えていればすぐに事態は解決できそうなんだが……悪い。本当に何も覚えていない」
ケンは目を伏せながら言った。それから、ペロリとソフトクリームを舌で取って食べた。
「この中で記憶を保持できるのは俺だけなんだから、昨晩は俺も起きていればよかったんだよ」
俺は焼きとうもろこしに齧りついた。
「……ってかさ、ケン。昼飯にソフトクリームは腹たまんなくねぇか?」
ケンは首を横に振った。
今日の昼ごはんは、ノスティモ村にある食堂集会――現実世界に例えてわかりやすく説明するなら、フードコートで、各々好きなものを買って食べることにした。そこで、ケンだけはご飯というよりおやつのソフトクリームを選んでいた。
「これでいい。甘くておいしい」
ケンは言って、またソフトクリームを口に入れた。さっき俺らと食べて、この味にハマったみたいだ。
クールぶってるけど、味覚はトコトン甘党だな。
「勇者様。なら、今回はちゃんと宿で寝泊まりするのですよ。そうしたら、きっと安全なのです!」
マキはそう言った。確かにそのとおりだ。
「そうだな。……んじゃ、わかったか、リアム。もうご飯は終わりだ。宿泊代はしっかり確保しとかなきゃならねぇからな」
「No〜!! Please,You can't do that.Please,please〜〜〜!!」
リアムは必死に懇願しながら抱きついてきたが、力いっぱい引き剥がした。
そんなときだった。
「――ニャニャ! アンタもしかして、ウワサの勇者かニャ!?」
俺たちは声のしたほうを向いた。そこには、骨つき肉を両手に持ったムギちゃんと、その後ろにソラちゃんがいた。
「ムギちゃん! それにソラちゃんも! 偶然だな」
俺が言うと、ムギちゃんはニャニャ!? と、声を上げた。
「ど、どうしてウチらのこと知っているのかニャ!? ……ニャっ! もっ、もしかして、ウチらのストーカー!?」
「どうして発想がそうなるんだよ! 違ぇよ!」
――って、そうだった……。セーブ地点に戻ってきているわけだから、実際のところは俺らとムギちゃんたちは初対面なんだった。
まったく。わからなくなってくるぜ。
「えーっと……まあほら! 以前どこかで会ってましたってやつだよ。なんせ俺は有名な勇者様だからな! 勇者一行、ユータとマキとリアム、そしてケンだ!」
「えー、そうニャンかニャー? ってか、そういうこと自分で言う……? ま、いいや! 改めまして、よろしくニャン! ユータ、マキ、リアム、ケンだね! ニャニャ、にしてもケンは飛び抜けてカッコイイニャ〜」
――くっ、コイツ、またもや女子からのカッコイイコールをもらいやがって。羨ましいぜ。
俺の内心とは裏腹に、ケンは涼しい顔していた。ソフトクリーム食べてる時のほうが、断然顔は緩んでたってもんだ。
「……にしても、ムギちゃんって結構食いしん坊キャラ? そんなおっきな肉両手に持ってよ」
「えへへ〜。だって、こんな大きなお肉がひとつたったの300ゴールドだよ! 外でモンスター二体倒すだけで買えちゃうのニャ! 現実世界じゃ、絶対にありえないよ〜!」
ソラちゃんは、そんな姉をただ見つめていた。やれやれと言った感じなのだろうか……。ずっと同じ表情なので、何を考えているのかが見えない子だ。
ソラちゃんは、ずっと一歩引いた位置にいる。
前回の時もそうだ。気さくな姉と対照的に物静かで、俺らに壁を作っているように感じる。
最初こそ、ただの人見知りかと思っていたが……。
――『……くさい』。
あの言葉を言われてから、単純に不潔な俺と距離を置いているんじゃないかという考えが生まれてしまっている。
試しに、ソラちゃんに視線を送ってみる。ソラちゃんは俺の視線に気づくと、ムギちゃんの後ろに隠れてしまった。
「あらら〜。もう、ソラったらゲーム世界でも人見知りなんだからニャー。ごめんね、ユータたちのことが嫌いだとか、そんニャンじゃニャいからさ」
ムギちゃんは眉を下げながら言った。
「……ああ、いや、いいんだよ。俺らも気にしてないからさ」
「よかったニャ。あ! そうだ!」
ソラちゃんは右手に持っていた骨つき肉を器用に左手で持ち替え、空いた右手を差し出した。
「ここで会ったのも何かの縁だし、〈フレンド〉にニャっとこ!」
俺は「ああ、よろしくな」と言って、ソラちゃんの手を握り返した。
ソラちゃんの情報が、俺のメニュー画面内に追加される。
こうして人と人とが対面できるゲーム世界。コードの交換をしなくても、こうした意思表示で簡単に〈フレンド〉になれるらしい。
現実世界で友達を作るのと、なんら変わらない。
「勇者と握手しちゃったニャー」
ムギちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。
毎度言われると、ちょっと照れるな。
「あ、そうそう。ウチらの名前を知ってるくらいだから、ユータはわかってるだろうけど、ウチ、〈占い師〉なんだよねっ! なんかあったら、いつでも頼ってニャ!」
「ああ、道に迷った時は、いつでも頼らせてもらうぜ」
ムギちゃんは笑って、「それじゃ、ウチらは行くニャー」と手を振って歩き出した。
ソラちゃんが俺の横を横切るとき、一度立ち止まって、チラリと目線だけを俺に向けた。
「…………」
しかしソラちゃんは何も言わず、ムギちゃんの後ろについて行ってしまった。
……やっぱり俺、そんなに臭うのかな?
でも、今日は宿屋に絶対に泊まるし、そこでしっかり身体を流そう。もう汗臭いなどとは言わせないぜ。
「……そんで次こそは、いい男の匂いってのをソラちゃんにも嗅がせてやるぜ」
と、思わず呟いてしまい、みんなを見ると引き攣った顔をしていた。
「ユータ、もう一度〈ロード〉してやり直してこい。人生の始めから」
「He's a Pervert……」
「……勇者様」
俺は潔白を証明するために、とっさに「違う! これは変態的な意味じゃなくて……!」と言うが、誰も信用してくれなかった。
マキは杖を手にしたかと思うと、静かに俺を睨みつけた。
「マキ! 違うんだ! 俺はただ、ソラちゃんにいい匂いって言われたいだけなんだよ!」
「――やっぱり変態さんなのですっ!!」
……ゴンっ!
こうして、俺は二度目となるマキの制裁を受けたのだった。




