第4話・……くさい
――死の輪廻。
それは一体……。
「……ニャニャ! 以上が、天の神様からのお告げなのでしたー!」
占いが終わったのか、ムギちゃんはいつもの調子に戻り、水晶玉を空に放り投げた――それは光の粒子になって〈ITEM〉の中にしまわれた。
「……んー、オラはなに言ってるのか、サッパリだった」
少し難儀な日本語を聞いて、リアムは疲れた顔をしていた。
「あ、あのムギちゃん…? なんか最後、物騒なワードが出てきたンスけど……?」
俺は、恐る恐る右手を挙手しながら聞いた。
「あ、確かにー! なんだろうねっ? これから、ユータは死にまくるんじゃない?」
「やめろよ! そんな物騒なこと言うの!」
ニャニャニャニャ〜とムギちゃんはまた笑った。
ムギちゃんは、どの世界でも明るく生きていけそうだ。
んー、まあ占いの言葉だから、こんなもんなのかもしれないが、抽象的すぎて、結局どうしたらいいのかわからなかったな。
「絡み合った運命……っていうのは、置いておいて、その先に待つ巨人ってのは、魔女の子のこと……って感じだよな」
俺の呟きに、ケンは「その考えで間違いないと思う」と答えた。
「魔女の子二人目――ドンキーフールは、頭はよくないが身体だけはデカい奴だ。概ね、『巨人』イコール『ドンキーフール』とみて間違いないだろう」
「なるほどな。つまり、リアムみたいな奴ってこった」
「ユータ! What do you mean by that!?」
ごめんごめん、半わ冗談だよ、とリアムに言い、本題に戻る。
……巨人についてはハッキリしたが、肝心なのはそのあとの言葉だ。
「――死の輪廻……なのですか」
マキはアゴに手を当て、思案深い表情を浮かべていた。やはり、マキもこの言葉は気になるらしい。
「マキ。何か思い当たることでもあるのか?」
ケンが聞くと、マキは「まだ憶測なのですけど……」と答える。
「紫苑街のギルドで、誰かわからない天の声さんが、『今度こそこの世界に終止符を打って――』と言っていたのです。それに今回の占いの結果も、『死の輪廻』と言っていたのです。もしかすると、この世界は繰り返しているのではないですか?」
――世界が、繰り返している?
「オラたちはここへ来たのは初めてだぞ?」
「わたしたちの認識はそうでも――認識できていないだけで、現実はそうなのではないですか?」
俺も、天の声の言葉がずっと気にかかっていた。
何よりも、あの天の声は『AIから権限を奪わない限り、ここから出られない。永遠に繰り返すことになる』――と、言っていたのだ。
「マキの言うことは一理ありそうだな。現に、ユータの〈SKILL〉を僕らは体感している。一から世界が繰り返していることがあっても、不自然じゃない」
ケンの言うことには、納得がいく。
……だとしたら、だ。
「繰り返しているなら、どこからどこまでが……」
――ひとつ、可能性としてあげるとするなら。
「……ゲームを始めてから、魔王に倒されるまで?」
――俺たちは、魔王に倒されるまでのシナリオの上をただ歩いているだけなのだとしたら。
――何度も繰り返しているとしたら、現実世界の俺らは今頃……。
「ユータ!」
リアムに肩を叩かれ、内にこもっていた意識が外を向いた。
「今は魔女の子二人目探しだ! そこから先は考えない!」
リアムはそう言って笑った。
無理して笑っているのは、俺でもわかった。
だけど、何も言うまい。
そうだ。俺たちは、今やるべきことをやろう。
突き進むしかないんだ。
「……ニャンか、ウチらが思ってたより、事態はヤバいみたいだニャ」
話を聞いていたムギちゃんが口を開いた。
「それ以上に――ユータたちは、大きな使命を抱えちゃってるんだね」
大きな使命、か。
抱えちまったというか、抱えさせられたというかって感じだけどな。
「そうだな。どうして俺がそんな役目をって感じだが、〈勇者〉である俺がチャチャッと魔王を倒すまで、気長に待っていてくれよ」
俺が言うと、ムギちゃんはそっと右手を差し出した。
「ユータ。ウチらは待つだけなんてしないニャ」
ムギちゃんはニッコリと笑む。
「ウチらじゃ大した力にはなれニャいかもだけどさ、なんかあったらいつでも呼んでよ! 全力で協力するからさ!」
ムギちゃんは言う。
「それに、道に迷ったら、ウチがいつでも占ってあげる!」
「……ムギちゃん」
俺は、ムギちゃんの手を握り返した。
「ああ、なんかあったらいつでも頼らせてもらうからな! ムギちゃん!」
ムギちゃんは「勇者と握手しちゃったニャー」と、うれしそうに笑ってくれた。
隣にいるソラちゃんにも顔を向け、今度は俺から、ソラちゃんに握手を求めた。
「ソラちゃんも、よろしくな!」
ソラちゃんは無表情のまま、じっと俺を見つめて、手を握り返すことなく、ただひとこと、こう言った。
「……くさい」




