第3話・死の輪廻
「ニャニャ! アンタもしかして、ウワサの勇者かニャ!?」
そう言った少女は、見た目や口調から、いかにも快活な性格であるというのが伝わってきた。
黒いローブに身を包み、淡いピンクのショートヘアからは猫耳が生えている。
いっしょにいた少女もこちらを見た。隣にいる少女とお揃いのローブを着ていて、淡いピンクのロングヘアをそのフードから覗かせている。フードにふたつの小さな山ができているので、きっとこの子も隣にいる少女と同様、猫耳が生えているに違いない。
ただひとつだけ、対照的に、この子は大人しい、静かな雰囲気を漂わせていた。
「……おっと、自己紹介をしてなかったニャン。ウチはムギ! こっちにいるのが妹のソラ! もちろん|現実〈リアル〉の妹だよ! 気軽にムギちゃん、ソラちゃんって呼んでね!」
姉妹だったのか。どうりで見た目が似ていると思った。
名乗られたら名乗り返すのがマナーなので、俺らもそれぞれ名前を伝えた。
「へー、みんな、個性豊かで楽しそうニャパーティーだね!」
個性の豊かさでいえば、圧倒的にムギちゃんのほうが勝っていると思うが……まあ、ここはツッコミを入れるのは控えよう。
「ところで、ウワサの勇者ってのはなんだ? 俺、そんなに有名になってたり?」
ツッコミの代わりにそう聞くと、ムギちゃんは「そりゃもちろんだニャ!」と、答える。
「西エリアで、本来あるはずニャい〈勇者〉のプレイヤーが現れたって……! そんで、その勇者がウチらを現実世界に戻してやると高らかに謳っていたって! ウチらは初めから南エリアにいたけど、初日の時点ですぐにその情報は流れてきたよ!」
そ、そうだったんだ……。
高らかに謳ったっつーか、あのときはもうヤケクソ気味に声を上げたってのが正しいんだけど……まあ、ウワサっていうのは微妙に事実が捏造されるもんだしな。
「すごいニャー。どうして、ユータは〈勇者〉になったのかニャ?」
と、ムギちゃんは首を傾げた。
「それは俺もわかんねぇんだよな。たまたま勇者のクジを引いちまったのか、何かほかに理由があるのか……」
「そうニャんだ〜。もしかしたら、ホントにただビンボークジ引いただけなのかもね! ウチがもし勇者を選ぶなら、もっと格好いい人選ぶもん!」
「……お前だけ一生ゲームの中に閉じ込めてやろうか」
ムギちゃんは「ニャニャ〜」と笑っていた。くそう、これが憎めない笑顔ってヤツだ。
「However……〈プレイヤー〉でも、猫耳がついたりするんだなー。ほら、このゲームってエーアイってやつが、オラたちの情報を読み取ってミタメをソックリに作るんでしょ?」
リアムが、ふとそんな疑問を口にした。
そういえばそうだな。元々人間の俺らに猫耳なんて生えているわけがないし。
「そうニャンだけど、ニャンか必ずしも種族は人間とは限らないらしいよー。ウチらの場合は半獣人として作られたみたい! ペットの猫のこと考えながらログインしたからかニャー? ま、でもこの姿、すっごく可愛いよねー」
ムギちゃんに同意を求められたソラちゃんは、コクリと首を縦に振った。
「へぇ〜。じゃあ、そのニャーニャーした喋り方も半獣人の影響か?」
「影響を受けたといえば受けているニャ! この見た目に合わせて喋ろうって思ってから『ニャ』ってつけるようにしたし!」
「お前……それ、やり過ぎると現実世界でも引きづるぞ……」
……隣の妹は、一体どう思っているのだろう。案外、近くにいすぎて気にならなくなってるもんなのかな。
「……っていうか、気になってたんだけど、後ろにいるワンちゃんは、〈プレイヤー〉じゃないよね?」
ワンちゃん……? って、ケンのことか。
ケンはムギちゃんの視線に気づくと、
「ああ。僕は〈プレイヤー〉じゃない。元々は君らの敵だった存在だ。だが、今は君たちが元の世界へ帰れるよう協力したいと思っている」
と、答えた。
ムギちゃんはケンの口から出た『敵』という言葉は特に気にしていないようで、「なるほどニャ!」と言う。
「事情はよくわかんニャいけど、ありがとだニャン! ……にしても格好いいニャ〜。ユータより、ケンのほうが勇者がいいニャ!」
「お・ま・え・なぁ〜」
俺はムギちゃんの猫耳をグリグリとつまんでやった。ムギちゃんはくすぐったそうに身をよじり笑っていた。
一方、横にいるケンは涼し気な顔で、そんな俺らの様子を見ていた。くそう、モテる男の余裕さがヒシヒシと伝わってくるぜ!
「――あ! そうだニャ! ここで出会ったのも何かの縁だし、ここはひとつ、占ってかない?」
くすぐられていたムギちゃんは、ふと思いついたようにそんなことを言った。
俺は、ムギちゃんの耳を離す。
「占い……なのですか?」
マキは真剣な表情になりながら一歩前に出た。女の子だし、結構占いって言葉には興味津々みたいだ。
「うん! 実はウチ、〈占い師〉なんだよね〜。数歩先の未来なら占ってあげられるよ。ちょっとは、ユータたちの手助けになるんじゃないかニャ?」
そんなことができるのか!?
魔女の子二人目探しで詰まってたところだったし、あんころ餅で尻を叩かれるとは、まさにこのことだぜ。
「ありがとう、助かるぜムギちゃん。ぜひ頼む!」
ムギちゃんは頷き、手の内からポンと水晶玉を出現させた。
それから、ムギちゃんはゆっくりと目を閉じた。水晶玉に意識を集中させているようだった。
手元の水晶玉は、その内側に光を溜め込み始める。
ムギちゃんは息を整えると、ゆっくりと口を開く。
「――全てを見渡せし天の神よ、この迷える者たちにその先の光を示さん」
詠唱するムギちゃんは、さっきまでとは打って変わってミステリアスな雰囲気を漂わせていた。
しばらく静かな時間が続く。
「……絡み合った運命が、この者たちを阻んでいる」
――そして、占いの答えが読み上げられはじめた。
俺はじっと耳を傾けつづける。
「まず、ひとつずつその運命の糸を解いてゆけ。解いた先に、巨人待つ。巨人を打ち倒すことできれば、出口ある光に一歩近づくだろう」
最後に、ムギちゃんはこう言う。
「――死の輪廻から、抜け出すのだ」




