第18話・俺らとパーティをー組め!
「魔女は、この世界に突然現れた。
理由はわからない。知る者はどこにもいない。それはそれは、長い時間が経ってしまったからだ。
己の欲のままに生き、強大な力を手にした魔女は魔王となり、いつしかこの世界を手の内に入れた。
魔王は世界を恐怖に陥れ、破壊の限りを尽くした。
思いのままに生きていた魔王。だが、それを決して許さない者がいた。阻止しようと、立ち上がる者がいた。
それはのちに〈勇者〉と呼ばれるひとりの青年だ。勇者は魔王を打ち倒し、地の底へと封印した。二度と、魔王が目覚めぬように」
リアムは頭の後ろで手を組みながら、「オキマリってやつで、ゲンザイは魔王がメザメました、だな」と言った。
「お決まり……?」
狼男はリアムの言葉に疑問を抱いたようだった。『お決まり』がわかるのは、〈プレイヤー〉だけの話だもんな。
「……ふん。まあいい。そういうことだ。おそらく長年の時が経ち、封印の力も弱まったのだろう。そして、魔王様は復活した」
『おそらく』って……このへんは曖昧な表現だな。
元々魔王がいる世界のゲームじゃないし……所々、設定の粗さがあるのか?
「再び目覚めた魔王様は、今度こそ、この世界を破壊しようと企んでいる。野望を確実なものとするために、魔王様は新たに僕たちを生み出した」
「――魔女の子、ですね」
マキが言うと、狼男は頷いた。
「……そう呼ばれてるみたいだな。僕たちの使命はただひとつ、魔王に唯一対抗できる存在、〈勇者〉を倒すこと」
狼男は俺を見た。
「魔王様は一度勇者に倒されている――だからこそ、早々に片づけたいとお考えなんだ」
「魔女の子にやらせて魔王は出てこないなんて、魔王ってのはCowardだな!」
リアムが言うと、狼男は「そういうことじゃない」と呆れた視線をやった。
「魔王様は魔王城から出られないんだ。目覚めたばかりで今はとても衰弱なさられているから。……仮に、魔王様自らが貴様らを手にかけようものなら、一瞬で散りとなるぞ」
確かに。現状、俺らのレベルは5しかない。そんな状態で魔王が目の前に現れたなら一瞬でお陀仏だ。クソゲーにもほどがある。
「僕らはそれぞれ各国にわかれ、〈勇者〉を待ち構えている。まず西の国――この〈アンノウンダイチ〉を担当していたのが、僕だ。
南の国、〈バンゲッデトウ〉をドンキーフール。
東の国、〈ヨシワラトウゲンキョウ〉をハンドレディ。
北の国、〈シロケシキノチ〉をグリムリーパー。
以上の僕ら四人の魔女の子が、魔王様の命により各国に配置されている。命令は〈勇者〉を殺せ、ただひとつ。それ以外は好きにしていいと言われている」
「……どれも元々このゲームにはいないキャラクターばかりなのです」と、マキは呟いた。
つまり、AIが創り出したキャラクターってわけだ。
すべては、〈勇者〉を殺すために。
……といっても、俺は殺されれば、またセーブ地点から何度でもやり直せるのだが、魔王はそれを知らないのか? ……いや、この世界を書き換えたAIが魔王なら、知っていそうなものだが……。
この剣を授けられた時も思ったが……、世界を書き換え、〈プレイヤー〉を閉じ込めた本人……ソイツを魔王とすると、わざわざこんな自分が不利になることをするわけがない。おそらく、世界に――プログラムに干渉できる人物が別にいるはずだ。
もしかするとその存在が、俺に〈勇者〉の力を与えたのかもしれない……なぜ、俺なのかはわからないが。
その別の人物とやらの可能性があがるのは、〈紫苑街〉で聞いた、あの天の声だろう。あの人は、どこから語りかけていたのだろうか。
現実世界? それともこの世界のどこかから?
どちらにせよ、あの口振りから〈プレイヤー〉側の人だということはわかる。
もう一度会って――会えなくとも、もう一度、話せないだろうか。
そうこう考えているうちに、「――以上が、僕ら魔女の子と呼ばれるメンバーだ。僕らは魔王様の命令に従い、〈勇者〉の命を狙っている」と、狼男は話を締め括った。
ある程度の事情はわかった。
ハンドレディと出会ったとき、俺を見て頬を紅潮させたのも頷ける。
「命令を成し遂げた者には、魔王様の魔力を分けてもらえる。みな、その魔力を求めて躍起になっているみたいだが……」
狼男は一度言葉を切り、俯いた。
「……僕は、そんなことどうでもよかった。魔王様のやろうとしていることを、どうしても応援できなかった。なぜ世界を終わらそうと企むのか、理由も聞かされないまま、その計画に加担するのは、正直、不服に思っていた。どこか頭の片隅では、この計画を阻止しなければと思っていた」
その声には、悔しさと無力さがこもっていた。
「だけれど、魔王様の命令には従うしかなかった。僕には、拒否する力なんてなかったんだ。僕は、魔王様の子なのだから」
狼男は「でも、何よりも」と言い、顔を上げた。
「三人を――勇者を殺さなくちゃならないことが、本当は理由もわからず辛かった」
狼男が、ようやく本音を洩らした瞬間だった。
「結局、僕は弱いだけなんだよ。こうして、勇者に倒され、情けをかけてもらうほどにな」
狼男は話し終えると、俺の目を見た。
「さあ、話せることはすべて話したぞ。これから僕をどうする? このまま置いていくか? ――それとも、その剣でトドメを刺すか?」
狼男は脱力した笑みを浮かべ、両手を広げた。
マキとリアムは固唾を飲んで俺を見ている。
俺は一歩、前に出て狼男と向かい合った。
答えは、話を聞く前から決まっている。
俺は、堂々とその答えを口にした。
「俺らとパーティーを組め! いいな!」




