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【完結済】神風勇太はたった一人の勇者となる  作者: みおゆ
第一章・アンノウンダイチ
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第17話・この世界が狂いだしたのは、ひとりの魔女が始まりだった

「んにゃ……。I slept well……」


 そんな寝ぼけ声とともに、ガサガサと草の擦れる音がした。

 リアムが目を覚ましたようだ。


「よっ、リアム。身体の調子はどうだ?」


 リアムはそれぞれ関節の動きを確かめるように腕を動かすと、


「I'm fine!」


 と、元気に笑った。


「オラ、撃たれてキゼツしてたのか?」

「んー……気絶ってのはちょっと違うな。お前は魔法弾で眠らされていただけだ。コイツは、お前を殺すようなことはしなかった」


 俺はそう話して――今、目の前でマキの治療を受けている狼男を見下ろした。

 マキは〈ヒール〉をかけて、回復に専念してくれている。


「Hey……ユータ、どうして……?」


 俺はどうしてだろうな、と言い、狼男を見つめる。


「……なんか、そのまま倒しちゃダメだって思ったんだ。そりゃあ、一回は俺を殺した奴だけどさ。……でも、コイツは最後までリアムを……マキを殺すようなことは絶対にしなかった。俺を撃つ時、俺に斬られた時――すごく、悲しそうな表情(かお)をしててさ」


 何より、どうも上手く言葉にできない感情を抱くんだ、狼男(コイツ)を見てると。


「――俺の心が、ソイツは殺しちゃダメだ! ……って、訴えかけてきてるような、そんな感じがすんだよ」


 リアムは座りながら足を組み直すと、


「……I think so too.」


 と、ひとこと呟いた。


 ふと、狼男の指先がピクリと動いた。

 俺らは一斉に、顔を覗き込む。


 狼男はスーッと息を吐いて、ゆっくりと目を開いた。


「……よかった。回復魔法がちゃんと効いたみたいなのです」


 狼男は俺たちを認識するや目を見開き、勢いよく身体を起こした。


「……っ!」


 狼男は胸を抑える。


「おいおい、傷が塞がったばっかりなんだぜ。安静にしろって!」


 狼男は聞く耳を持たず、そのまま立ち上がろうとする――しかし、力が入らず尻餅をついた。


「ごめんなさいなのです。わたしのレベルじゃ、完治まで回復させられなくて……」


 マキは言った。

 狼男はマキを一瞥してから、俺を見た。


「……なぜ、そのまま殺さず助けた?」


 ソイツの第一声に、俺はため息をついた。


「おいおい。まずはありがとうじゃねぇの?」


 狼男は目を逸らし、しばらく悩むようにしながら、


「……ありがとう」


 と、小声で答えた。

 意外と素直なんだな。


「……言ったぞ。で、なぜ僕を助けたんだ?」


 素直だけど、かわいげのない態度だぜ――なんて思いつつ、理由を話す前に、こちらからも聞きたいことがある。


「その前に、俺から聞かせてくれ。どうしてお前は、マキとリアムを倒そうとは――殺そうとはしなかったんだ?」


 狼男は目を伏せた。


「別に。スライムの大群に手間取って、撃ち損ねただけだ」

「いいや違うね。お前はあの大群がいなくても、マキとリアムは撃たなかった。撃ったとしても、絶対に殺さないようにしていた」

「…………」


 隣で、マキとリアムは息を飲んで、俺と狼男男のやり取りを見守っている。


「……その二人は、魔王様の命令には入ってなかったから、殺さないようにしていただけだ。消すべき人物は、勇者だけだったから」


「そうか」と相槌を打ち、別の切り口から攻めてみることにした。


「俺はさ、なんとなくなんだけど、お前が誰も殺したくないように思えたんだ」


 驚きからか、それとも図星だったのか――狼男の耳が一瞬だけピンと立った。


「あんときの……森の中で俺を追い詰めた時も、俺を撃つのを、お前は躊躇わなかったか?」


 話しながら、俺を撃ち抜く直前の狼男の表情が脳裏をよぎる。


「……違う。あのときは、単純に魔力切れだったんだ。そんなことにも気づかないなんて、魔王様が知ったら笑うだろうな」


 狼男はそう答えた。


 ――ま、そんな返答になるか。俺が聞いたのは、一周目のときの話だったんだけど……覚えているわけないか。本当に魔女の子も記憶がリセットされているのか、改めて今の流れで探りを入れてみたが、魔女の子も例外なく、俺がセーブ地点に戻る前の記憶は消えているみたいだな。


「……でも」


 と、狼男はさらに口を開いた。


「殺したくなかった……という気持ちは、あったかもしれない」


 狼男は、疲れきったように小さな笑い声を洩らす。


「……いや、あった。ずっと前から、その思いはあった」


 ――ずっと前から、か。


〈プレイヤー(俺ら)〉からしたら、この世界は始まったばかりなんだけどな。

 だけど、その設定(裏)には、どこまでも歴史が続いている。


 元々は――本来のゲーム世界はどんなものだったのだろう。


 ゲーム(この)世界の権限を握ったAIは、一体どこまで作り上げたのだろう。

 どこまで、何を書き換えたのだろう。


 世界を変えてしまった理由は、どこにあるのだろうか。


「なあ、話を聞かせてくれ」


 少しでも情報を集めないと。魔王の元へ辿り着くためにも。


「魔女の子(おまえら)が〈勇者(おれ)〉狙う理由(わけ)を。お前が、そう疑問に感じていることを。わかること、全部」


 ――現実世界へ戻るための道が、見えてくるかもしれないから


「俺らは、まだこの世界に来たばかりで何もわからないんだ」

「……わかった。敗者は勝者に従うのが常だ。僕の知ることすべてを話そう」


 狼男は木の幹に背を預け、語り始める。


「――この世界が狂いだしたのは、ひとりの魔女が始まりだった」

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