第14話・精いっぱい抗って死んでやる
戦闘開始直後、俺は狼男に向かって走り出した。
遠距離攻撃を得意とする銃使い、対して、俺は短距離攻撃を得意とする剣使い。
なら、少しでも早く奴と距離を詰めたほうがこっちが有利なはず!
狼男も、すぐさま俺の動きに反応し銃を構えた。
「ネーロダ……」
「――早速、シン、リアムパンチをオミマイだ!」
「リアム!」
俺が斬りかかろうと考えていたが、先にリアムが間に入ってきてしまう。
リアムは狼男の真正面に飛びかかろうとしていた。そんなんじゃ、撃ってくださいと言っているようなものだ。
「リアム! すぐに下が――」
俺の言葉は、銃弾の音で遮られた。
幸い、弾丸はリアムを掠めたただけで、当たることはなかった。
「リアムっ、パーンチ!!」
リアムはそれに臆することなく、そのまま勢いに乗せて拳を振り下ろした。
狼男は拳をガードし、反動でリアムとの距離が開く。
――今の弾丸、あの距離で外すものなのだろうか。
ふと、そんな疑念を抱いた。いや、今はラッキーだと思おう。俺もこの隙に狼男に距離を詰め、攻撃をしかけた。
「見え透いた動きだ」
狼男は軽々と躱す――が、こっちだって避けられて終わりじゃない。その後ろでは、マキがすでに魔法攻撃の準備をして待機していた。
「〈ホムミ〉!」
攻撃が狼男の腕に当たり、燃えあがった。
狼男はそんなことに動じることなく、攻撃を受けた腕とは反対の腕で銃を構え、マキの足を撃ち抜いた。
「いぎッ……!!」
苦痛の顔を浮かべるマキ。
マキの右足には氷がまといはじめ、すっかり凍らされてしまった右足は、地面に固定されてしまった。
「……魔法弾、なのですね」
マキは言った。
狼男は答えず、燃える腕を大きく振って火を消した。
黒く焦げたはずの腕はすぐに回復し、元のフサフサの毛並みを取り戻した。
やはり俺らの攻撃は、大したダメージにはならないらしい。
「勇者様! すみませんなのです! 〈ホムミ〉の火じゃ、この氷を溶かせなくて……!」
マキはそう叫んだ。見れば、マキは炎を灯した杖を、凍った自身の足に押しつけているが、まったく溶ける様子はなかった。
「気にすんな! あとは男二人に任せろ!」
俺とリアムはアイコンタクトを取り、二人同時に攻撃を図った。
狼男はまず俺に向かって銃を撃った。なんとか剣で銃弾を防ぐ――間髪いれずに、リアムは拳を突き出すが、狼男は一挙一動、迷いなく的確に、リアムの腕を取ると、そのまま俺に向かって背負い投げをした。
――力技だってできるのかよ!?
「リアム!?」
「Oops!!」
俺とリアムは衝突し、地面に転がる。
その衝撃で、俺は剣を手離してしまった。
「しまっ――」
早く剣を――と態勢を立て直そうと視線を上げれば、もうすでに、狼男は銃口を向け、俺に照準を定めていた。
――クソったれ、ここでやり直ししろってか……。まだこの戦いで、打開策のヒントすら得られてねぇってのに。
「〈ホムミ〉!」
狼男が引き金を引こうとしたとき、マキの魔法攻撃が奴の手に命中した。
「マキ!」
マキはしたり顔だ。
「へへん、動けなくても魔法は使えるのですよ!」
狼男は「そうか」と言うと、俺から照準を外し、マキに向いた――マズイ!
「――ユータは、Swordを!」
即座に反応したリアムが狼男の手首を掴み、そのまま蹴りを入れた。
奴の手から銃が離れる。
俺は急いで剣を手に取った。
「リアム、今い――」
再び、加勢しようとしたときだった。
狼男はもう一つ持っていた銃で、リアムの腹を撃ち抜いた。
「ガハッ……!」
リアムは、うつ伏せになるように倒れた。
「リアム!!」
瞬間、リアムの〈STATUS〉が表示された――そこには、〈SLEEP〉という文字が。
「リアムさん!!」
マキが悲鳴をあげるや、狼男はギロリとマキを睨みつけ、その頭を撃ち抜いた。
「…………っ!」
二人が倒れるまで、一瞬の出来事だった。
今度は、マキの〈STATUS〉が表示される。リアムと同様に〈SLEEP〉状態になっていた。
――〈DEAD〉ではない……ただ二人を眠らせただけだ。コイツ、マキとリアムを殺す気はない……のか?
とにかく、二人が殺されてないっていうなら、まだ可能性はある。俺は、一旦森の中へと逃げ込んだ。
――森の中なら死角が多い。隙をついてなんとかっ……!
そう考え、狼男から逃げながら、奥へ奥へと進むと、
「クゥーン?」
と、かわいい顔したスライムと遭遇してしまった。
そうだった。森の中はコイツの住処――そりゃあ、出会っちまうもんだよな。
スライムは俺を敵と認識したか、途端に威嚇をしはじめた。
「頼む。今だけは静かにしてくれ、な?」
スライムは「グルル……」と唸りつづけている。
マズイ。またあの大群を呼ばれちゃ、俺ひとりじゃ対応しきれない。
狼男にも追われてるっていうのに……!
「やっと追いついたぞ、勇者」
カチャリ、と背後で銃を構える音がした。
――俺もここまで、か。
俺は、狼男に向き直った。
「痛くないように、一瞬で逝かせてやろう」
「……そんな配慮ができるなら、殺さないでほしいね」
「それは無理だ」
――そうだろうな。
「これは魔王様の命令だ。貴様は、確実に殺す」
「魔王様、魔王様って……お前の意思はねぇのかよ、まったく」
何気なくそう言うと、一瞬、狼男の手が震えたように見えた。
「……魔王様が、僕という存在を生み出してくれた。だから、僕は魔王様の言葉に、従う」
いよいよ、狼男は引き金に指をかけた。
ここから大逆転は――さすがに無理だな。
「……だったら、こうなった以上、精いっぱい抗って死んでやる」
俺は腹を決めると、そこにいたスライムに剣を突き刺した。
「ウグァガァァァッ!」
刹那、スライムは叫喚した。その叫びに引き寄せられるが如く、何匹ものスライムが四方八方から飛び出し、一斉に俺に向かって飛びかってきた。
――せいぜい俺を殺したあとは、スライムの片づけでもしてるんだな。
パァン、と破裂音が響き渡る。
そのとき、スライムの間から奴の顔が伺えた。
――……なんだよ、その表情。
直後、俺の額にそれは的確に銃弾が撃ち込まれ、意識は一瞬で闇に落ちていった。




