第12話・四人の魔女の子
「事情はわかった。それで妾のところに戻ってきたというわけか――って! お主ら図々しいのじゃ!!」
モンスターからお金を稼ぐのには時間がかかる――なら、お金持ちからお金を譲り受けるというのはどうだろうか、と考えた俺は、マキとリアムとともに、再び王宮へと来ていた。
テオドロス王女の言うとおり、図々しいのである。卑しいのである。
「まあまあ。よくゲームとかじゃあるンスよ? 冒険に出る勇者一行に、少しでも力になればとお金をくれるイベントってのが〜。……だから、10000ゴールドでいいんです! どうか、我ら貧乏パーティーにお恵みください〜!」
俺は、床に頭をつけ懇願した。
代々伝わる日本の礼式、土下座である。
「すぐに戻ってきたと思ったらこれとは……。情けないのじゃ。言い伝えの勇者……見誤ったかの……」
――やはり素直に、はいどーぞ、なんて展開は望めないか……。
しかたなく、俺は頭を上げた。
「確かに、妾にとっては10000ゴールドなんぞ端金じゃ。だが、お金というものは、そんな簡単に手に入るものじゃないのじゃ」
むむ。こんな年下の女の子に真っ当な説教を受けてしまった。やれやれ、最高だぜ。
「テオドロス王女〜!! な、ならサインをくれ! オラはゴールドなんていらないから!!」
テオドロス王女を前にした瞬間、リアムはこんな感じになってしまった。目をハートにして、テオドロス王女に愛を送りつづけている。
テオドロス王女は「サインなんてやらんのじゃ!」と言って、持っていた扇子でリアムの頭を叩いた。リアム、大喜びである。
すると、様子を見ていただけのマキがテオドロス王女の前に出てきた。
「――あの。それなら、お金のことはもうよいのです」
いい加減、俺らの茶番に終止符を打つかのように、マキは真剣な声で話す。
「せっかくここへ来たのです。教えてほしいことがあります。テオドロス王女は、拳銃使いの狼男のこと、知っておられますか?」
テオドロス王女はマキを一瞥し、玉座へと戻り、座った。
俺らを見下ろしながら、テオドロス王女は言う。
「もちろんじゃ。妾はこの世界のトップじゃぞ。最近現れた、魔女の差し金については把握しておる」
「――『魔女の差し金』?」
テオドロス王女は頷き、話を続ける。
「狼男だけではない。北の国・東の国・南の国からも報告を受けておる。見たこともない顔が突然現れたと――その上みな、魔女の匂いがすると」
――魔女の匂い?
「魔女――世界の調和を乱すもの、世界の理を破壊する者。欲に満ちた化け物じゃよ。……ああ、つまり、お主らにも前に話した魔王のことじゃ」
テオドロス王女は言う。
「魔王はな、昔は小さな魔女じゃったというが、自身の欲が原動力である魔女は、己の欲望のまま力を使い、その力は増大していき――今や魔王と呼ばれるまでの存在になったのじゃよ。……まったく、恐ろしい奴じゃな」
魔王には、そんな過去があったのか。
それは……俺らがこの世界から出れないことと、何か関係しているのだろうか。
「魔女の時点で封じ込めておけばよかったのじゃが……先代の失態じゃ。誰も気づけなかった。魔女の黒い腹の内を、誰も見抜けなかった。そしていつの間にか、我らでは手に負えないような魔王に成長してしまった」
本来、このゲームには魔王は存在しなかったはず。それなのに、ここまで設定が作り込まれているなんて、どういうことだろう。
「……ふむ。話を戻すが、そんなことがあり、今や各国に魔王の手下が 潜んでいるというわけじゃ。妾たちは、奴らを『魔女の子』と呼んでいる。さっき言っていた、狼男もそのひとりじゃ。まだ奴らは何もしていないようじゃが……油断はできぬ。魔女の子のことじゃ、突然、何をしだすかもわからんからの」
魔女の子――狼男がそのひとりなら、森の中で出会ったハンドレディって奴もそのひとり……だな。
俺の命を狙う、四人の魔女の子。
……二人だけかと思っていたのに、もう二人いるとはな。つくづく迷惑な奴らだぜ。
「そうじゃ! 勇者よ」
突然、テオドロス王女は何か閃いたかのように声を上げた。
「お主、魔王を倒すついでじゃ。魔女の子四人も片づけてこい!」
「えぇ!?」
――なんだその思いついたようなご命令は!?
「魔女の子が残っていては魔王も倒せんというものじゃ。それに何よりも、魔王から国を守ることはもちろんのこと、魔女の子からも国を守らねばならんしの。わかったら返事するのじゃ!」
「はい!!」
――わかっている方もいるかもしれないが、今、元気よく返事をしたのはリアムだ。
「まあそうかもしれませんけど……魔女の子を倒す、か……」
うーむ。あまり乗り気にならない。
乗り気にならないというか、なれない。俺はすでに狼男やハンドレディとの力の差を身を持って知っている。
対等に戦えるまで、それなりに経験値を積むことは必須だし、本音を言えば、できるだけ時間はかけたくないのだ。
現実世界の、俺らがかかっているのだから。
どちらにせよ、魔女の子を倒さないと魔王は倒せないのか……うーん……。
「むむ……まったくやる気のない勇者よ。よかろう、特別に褒美をやる。……爺や!」
テオドロス王女は言うと、王室の扉が開いた。
『爺や』と呼ばれた、テオドロス王女の執事であろう、白髪の老爺が持ってきたのは、大きな袋だった。
俺はそれを受け取る――うっ、結構重い。
この人はよくこんな涼し気な顔で持ってきたよな……と思いつつ中身を開けてみれば、金色に輝く大量の硬貨があった。
この世界の通貨――そう、大金が詰まっていた!
俺ら三人は袋の中を覗き込んで目を輝かせた。
「かかっ。出世払いじゃ。ありがたく受け取るがよい」
テオドロス王女は高らかに言った。
「い、いいんスか!? こんなにもらっても!?」
「最初は金をせがみに来てたじゃろ。妾のことは気にせず、もらっていくのじゃ。……その代わり、役目はキッチリ果たすのじゃよ」
「「「テオドロス王女! ありがとうございます!!!」」」
三人、きれいに声を合わせて礼を言った。
「お主ら……現金な奴らよのぉ……」
テオドロス王女は呆れた様子だった。
新たに魔女の子四人を成敗するっていう役目も増えちまったけど……こうして大金が手に入ってラッキーだぜ。
これなら、さっき買えなかった武器や防具も余裕で買い揃えられるな!
「それじゃあ、俺たちは行きます。また何かあったら来ますんで!」
「金目のこと以外なら入れてやろう」
俺はゴールドの袋を大事に抱えると、パッとそれは消えて、メニュー画面に〈所持金〉として、10000ゴールドが入金された。
――……しっかし、どうやって、魔女の子を四人も倒そうか。
力の差はまだまだある。レベルアップして、地道に強くなっていくほかないのだろうか。
こうなるってんなら、初めから強くてニューゲームがよかったぜ。
そんなことを考えながら、王室を出ようとしたときだった。
「――勇者よ」
テオドロス王女に呼び止められ、振り向く。
「勇者よ。力で勝てないのなら、知恵を使うのじゃ」
「……知恵?」
テオドロス王女はククク……と、かわいらしく笑う。
「今のお主らは笑ってしまうくらい弱い。見ればわかるほどにの。じゃから、せめて頭を使えという、妾からのアドバイスじゃ」
――笑ってしまうくらい弱いって……。王女様から役目を与えたくせに、よくいうぜ。
「どんな汚い手でもよい。勝てればよいのじゃ。妾は過程にこだわらぬ。結果がすべてじゃからな」
どんな汚い手でも……って。
まあ、すでに不意打ちなんて手を使ったりしてるけどな。
「……わかりました。俺、やってきます。何度でもな!」
テオドロス王女は、まるで我が子を見守る母のような笑みを浮かべた。
今度こそ、俺らは王室を出る。
扉を抜けた時、
「頼むぞ、勇者よ」
と、テオドロス王女の声が聞こえ、最後に、俺はもう一度彼女を見つめた。
「――この世界が、完全に崩壊する前に」
扉は、ゆっくりと閉められた。




