第11話・逃げるが勝ちってやつだ
「勇者様ー。どうしたのですか、早く行くですよ」
「ユータ! オナカいっぱいなって、ねむくなったか!」
二人の声が聞こえ、俺は我に返った。
周りを見る。城下町入口に立っていた。
――……えーっと。あ! そうだ! 俺は卑怯にも、そして姑息にも、あの狼男から逃げたんだった!
って、言うとなんか聞こえが悪いな……。まあ、これが事実だけども。
「勇者様。その感じだと、また戻ってきた……って感じなのです? 勇者様、また死ん……」
「ああ! 大丈夫! 今回は死んでないぜ! 自分から戻ってきたんだ!」
泣きそうになったマキに、俺はすかさず腕を振り元気アピールをしまくった。
マキはそんな俺を見て安心したのか、笑ってくれた。
「ってことは、ユータはあの使い道がなさそうって話してた〈ロード〉を使って戻ってきたのか」
「リアム、ひとこと余計だがそのとおりだ」
リアムは、うーんと頭を捻りながら、「Umm……記憶はサッパリだ。やっぱり、リセットされてるんだ……」と呟いた。
戻ってきたはいいものの、さてどうするか。
アイツは敵だ。魔王の手下なら、早く倒したほうがいいはず。
しかしだ、あくまで狙いは俺だけ。ほかの人に危害を加えている様子はない。
……となると、無理に倒さず、奴と出会うルートは避けたほうが無難、という結論に至る。
カッコつけ狼野郎を避けつつ、経験値を積むほうが先決ってもんだよな。
「――よし。俺たちは今から〈紫苑街〉は向かう。ただし、来た道とは別だ。少し遠回りして、〈紫苑街〉 へ行くぞ」
早速、リアムから「えーなんでだよー」と声が上がった。
「静粛にしたまえ、リアムくん。前見た狼男がいるだろ? アイツが途中で現れるんだよ。俺らとの力の差はありまくりだ。だから、遭遇しないように避けて行くんだよ」
逃げるが勝ちってやつだ、と俺は言うと、リアムはあからさまに蔑むような目を向けた。
「テキゼントーボーとかダサすぎるぜ、ユータ〜」
「ええい。好きに言うがいい。戦うにしたってレベル上げしない限りは勝てねぇんだからよ」
俺が言うと、マキは何か思い出したかのように「あ!」と声を上げた。
「レベルアップといえばなのです! 城下町で買い物をしていないのですよ!」
マキは言った。
そういえば、城下町に着いたら新しい武器なんかを買いたいって話をしていたな。
ご飯だけ食べて満足してたぜ。
俺もボロボロの初期格好のままだし、新たな装備が欲しいところだ。
「Good! 今よりも強いソービつければ、もっと強くなれるってやつだ!」
ということで、俺らは再び城下町へ戻り、武具屋で買い物をすることにした。
◇
城下町の武具屋は、なんともガタイのいいオッサンが切り盛りしているようだった。
「らっしゃい。よう旅の方。新しい武器かね、防具かね。色々あるから見ていきな」
マキとリアムは陳列された品物を選びはじめる。
俺も、とりあえず格好だけはちゃんとしたのにしよう……と、ひととおりよさそうなのを見繕う。
マキとリアムもどうやら決まったようだ。
二人は、それぞれ新しい武器を購入するらしい。
俺たちはカウンターに品物を出した。
店主は「はいよ、これ全部ね〜」と言って、年季の入った木製のキャッシュレジスターに商品の値段を打ち込んでいく。このあたりはなんとも現代的というか、むしろ現代よりもひと昔前のやり方のようだ。
計算を終えた店主は言う。
「はい、これ全部で……9350ゴールドね」
なるほど、9350ゴールドっと……。
…………。
……ふむ。
「俺1200ゴールドしかないわ。なあ、二人はいくら持ってる?」
「? オラはイチモンなしだぞ!」
「わ、わたしもさっきのレストランであんまり……100ゴールドしかないのです」
じゃあ、全部足して1300ゴールドか。
「…………」
「何? アンタら金足りないの?」
店主は俺らの様子を見て察したか、途端に視線が冷ややかなものへと変わった。
俺は今あるゴールドをカウンターに置きながら、恐る恐る店主に聞く。
「あの〜…。ちょっぴり、負けてもらうことってできないですかね? 1300ゴールドまで……」
店主の眉間に、血管が浮き上がるのが見えた。
「――ふざけんなっ! 金がねぇならとっとと出てけ!!」
「「「すみませんでした!!!」」」
俺らは、逃げるようにして武具屋を飛び出した。
「なんだよ〜、結局新しい武器手に入んなかったぜ〜」
「ぐぬぬ……。ってかリアム! よく無一文で堂々と行ったよな!?」
「ユータの奢りだろ?」
「ひとことも言ってねぇ!」
ため息しか出てこない。
現実世界だろうと、ゲーム世界だろうと、結局、世の中金なんだな。
「しゃーねぇ。ここは買うのを諦めるか……地道に、そのへんでモンスターでも倒して、ゴールド集めをするかだな」
「このあたりのモンスターを倒しても、報酬は少ないのです。ゴールドを稼ぐのには時間がかかるのですよ」
「うーん」
しかたない、なら諦めるか……と思ったそのとき、俺はあることをひとつ思いついた。
何も、モンスターを倒しお金を稼がなくても、ほかに方法はある。
「まあ、ここは賭けだが……試してみるか!」
二人はなんのことやらと、顔を見合わせていた。




