第10話・哀れな男だ
――城下町入口。
俺は剣を天に掲げ、こう叫ぶ。
「剣よ! 俺たちを導きたまえ!」
俺たちはじっと剣を見つめた。しかし、剣は太陽の光に照らされているだけで、特に何も起こらない。
「ユータ、何も起きないじゃないか」
「なんだか拍子抜けなのです」
「……むむむ」
俺はガッカリした気持ちとともに剣を下ろした。
――レストランで結束を固めた俺らだったが、ここから先はどこへ行けばいいのかわからず、立ち往生していた。
そんなとき、テオドロス王女の『その剣は全てを解決に導いてくれるであろう』という言葉を思い出した俺は、さっきの行動に打って出たというわけだ。
剣から光の道筋みたいなのが出てきて、行先を教えてくれる――そんなゲームみたいな都合のいいことを考えていたが、現実はそうもいかないようだった。
――まあ、俺らが今いるこの世界こそ現実なんだけど……。
全く、不親切なゲームシステムだぜ。
俺みたいなゆとりの指示待ち人間にも、わかりやすく配慮してもらいたいモンだぜ。
「こうなったら、しかたないのです。とりあえず〈紫苑街〉にまた戻るのはどうですか? 顔見知りのエルフさんのいるギルドに戻って、何か話を聞いてみるのです」
「確かに。一度行ったところに戻ってみたらストーリーが進むなんて展開はよくあるからな」
「Same here……無事、テオドロス王女に会えたことを報告して、その美しさを語るんだ!」
「語るのは止めたほうがいいと思うぞ、リアム」
俺たちはマキの提案に乗っかることにし、〈紫苑街〉へ戻ることにした。
「またスライムに襲われて死にかけたら怖いし、〈セーブ〉はしておこう」
俺は〈SKILL〉を起動し、〈セーブ〉をした。これでひと安心である。
来た道を通り、森の中を進んでいると、
「――どうやら完全に回復したようだな。勇者」
と、突然声をかけられた。
俺たちは足を止める。
目の前の木々の間から姿を現したのは、あのとき、ハンドレディにやられそうなところを助けてくれた狼男だった。
狼男は顔を合わせるや、銃口をこちらへ向けた。
俺は咄嗟に剣を抜き、構える。
「Enemy!?」
リアムとマキも俺の横に立ち、狼男と対峙する。
狼男は銃口を向けたまま、言う。
「勇者よ。痛い思いをしたくないというのなら、このまま大人しく立っていろ。拒否するというのなら――」
「待て!」
俺は奴の言葉を遮り、次の言葉を言う。
「なんで銃口なんか向けるんだよ。お前、さっき助けてくれた狼男だろ!?」
狼男は小さく冷笑した。
「あれは助けたわけじゃない。ここは僕のエリアだからな、手柄を横取りされたくなかっただけだよ」
「……やっぱ、俺を殺す目的は変わらないってか」
「当たり前だ。それが、魔王様からのご命令なのだから」
『魔王様』――コイツら、魔王の直々の手下ってところか。
「……なんで魔王様は俺なんかを狙うのかね」
「それはお前が〈勇者〉だからだ。〈勇者〉は排除する。魔王様の計画の邪魔だからだ」
狼男はただ淡々と答える。
「もう話はいいだろう。……さて、改めて聞くぞ、勇者。痛い思いをしたくないというのなら、このまま大人しく立っていろ。それとも、苦痛を承知の上で僕に抗うか?」
――クソっ。このカッコつけ狼野郎が。答えはひとつに決まってんだろ。
「――何回でも反抗して、お前をぶっ倒してやんよ!!」
狼男は呆れた笑みを浮かべた。
「哀れな男だ」
刹那、空気を切る音がした。
狼男が引き金を引いたのだ――俺はまた死んだかと思ったが、意識はまだ続いていた。
ゆっくり目を開けると、自分自身が剣で銃弾を弾き防いでいたのだ。
――え!? 今、これ自分でやったの!?
「勇者様! すごいのです!」
マキに褒められ思わず顔が緩みそうになるが、油断はしてられない。
狼男は銃を下ろして不敵に笑った。
「さすが勇者というべきか。このくらいの銃弾は大したことないんだな」
「……まあな」
……と、言ってしまったが、全然大丈夫ではない。大したことあり過ぎる。
でも、今のを防げたってことは、俺自身も戦いの中、少しずつ戦闘スキルを身につけているのかもしれない。
――いや、違うな。多少の慣れてきてはいるだろうが、この剣にも助けられていると言ったほうが正しい。
この剣が俺の動きを誘導しているんだ。
言い伝えのとおり、これは確かに勇者のための剣らしい。
「あまり時間をかけたくない。こちらも本気でいかせてもらうぞ」
狼男は、銃を二丁取り出した。
――ったく、二丁持ちなんて聞いてねぇぞ。
俺は焦る気持ちを抑えながら、じっと奴を見つめた。すると、相手の〈STATUS〉が浮かび上がって見えた。
〈NAME〉・・・『???』
〈HP〉・・・『280/280』
名前はない……のだろうか。〈HP〉は、なるほど『280』――って、今の俺より五倍以上あるじゃねぇか!?
レベル差があるのは明らかだ。真っ向から戦って、攻撃を一回でも受けたものなら、瀕死状態になるかもしれない。
長年色々とゲームをやってきた俺だ。これだけ見ても、なんとなく察しはつく。
「マキ! リアム!」
俺は叫んだ。
「頼む! その場から逃げてくれ!」
両隣の二人はあからさまに困惑した。
「なんでだよ、ユータ!? オラだって戦える!」
「勇者様……」
狼男は、一度銃を下ろした。
「素晴らしい男気じゃないか、勇者。君がそんな、一対一で正々堂々戦おうという素晴らしい仁義を持ち合わせているとは思わなかったよ」
狼男の言葉対し、鼻で笑い返す。
――このカッコつけ野郎が。俺がそんな仁義を持ち合わせているだって?
俺はメニュー画面を立ち上げ、操作を進めていく――よかった。まだちゃんと動くみたいだな。
――まだ、戦闘フェーズへ移行していない。
狼男は――狼男だけではない、マキとリアムも、俺の行動を不思議そうに見ていた。
「勇者様、もしかして……」
マキは呟いた。
――ああ。きっと予想しているとおりだぜ。
「じゃあな、狼野郎! 一時逃亡させてもらうぜ」
俺はそう言って、目の前に表示された〈ロード〉というコマンドを発動させた。
直後、俺は意識を失った。




