↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】神風勇太はたった一人の勇者となる  作者: みおゆ
最終章・神風勇太はたった一人の勇者となる
133/134

第3話・世界の終止符は、あなたに打ってほしい

 一瞬の静寂。


 倒れたマキは、すぐさま身体を起こし、俺を睨みつけた。


「……こんなので、わたしが負けるはずないのです。わたしが……」


 地面に落ちた杖を再び拾い上げ、マキは俺を見据え、


「〈ザライゲイン〉!」


 と、呪文を唱えた。


 雷撃が俺目がけ落ちるが、とっさに剣でひと払いし、攻撃を無効化した。


「……っ!」

「いくらやっても効かねぇよ。今の俺には、マキの攻撃は全部届かない」

「……覚悟は決まった……だからなのですか」

「さあな。それはテオドロス王女に聞いてく……れ!」


 俺は踏み込み、マキに剣を振るった。

 マキはすかさず杖で防ぐが、小柄な体型は剣の勢いに圧され、後ろへとよろける。

 この隙に、そのまま真っ直ぐ剣を――。


「……っ」


 ――ダメだ。そんなことしたら、マキは……!


「遅いッ!」


 マキは、俺の迷いを見逃すわけなく、「〈フロージャ〉!」と呪文を唱えた。


 足元は凍りつき、剣を握る手も氷に覆われ、動かせなくなってしまった。

 これじゃ、攻撃を避けることも、防ぐこともできない!


「…………マキ」

「剣が使えなきゃ、何もできないのです」


 マキはゆっくりと俺に近づき、目線を合わせた。

 杖の先には炎が灯り、俺の息の根を止めようと、今か今かと燃え上がっている。


「……マキ。やめてくれ。こんなことをしても、マキの望む世界は訪れない。この世界の全員を言いなりにさせて、望む世界を作り上げられたとしても、それは全部ハリボテの虚像に過ぎねぇ」

「うるさい」


 マキは言い、その炎を俺に向けた。


「俺を殺して、世界は崩れ落ちて、みんな仲よく瓦礫の下なんて、そんな誰も報われないバットエンドなんて……ここまでいっしょに冒険してきたのに、あんまりじゃないか。」

「黙れ」


 ジリジリと、赤い炎は形を大きくしていく。


「本当に、これでいいのか?」

「勇者を洗脳し、望みを叶える道も使えなくなったのです。もう残すは――みんな仲よく闇の中へ葬られる道しかないのです」


 俺は炎に屈せず、顔を上げ、マキを睨んだ。


「んなこと言ったって、マキは、本当はこんなの望んでねぇだろ!」

「――そんなの、当たり前なのです!!」


 目の前の炎はパッと消え、杖は地面を転がった。


「……でも、もうこんなことしてしまった自分に耐えられないのです。みんなにもバレたくない。みんなに会えなくなるのも怖い。また、〈村娘〉に戻るくらいなら、世界ごと終わらせるほうが、ずっといいのです」


 マキは両手で顔を覆い、ガクンと膝から崩れ落ちる。


「ごめんなさい……ごめんなさい。わたしが願わなければ、望まなければ……、あのとき、メアナさんに反抗しなければ……」


 徐々に氷は解けていき、魔法効果から解放された俺は身動きが取れるようになった。


「わたしは、ずっと選択を間違えつづけてきたのです。勇者様のように、人を想う力が欠けていたから」


 マキは顔を上げた。はらりと大きな三角帽子は落ちる。目元は、少し赤く腫れていた。

 マキは胸を抑え、なるべくしゃっくりをあげまいと肩を震わせながら、意を決した表情(かお)を浮かべた。


「……勇者様。ずっとこの世界に、わたしと、いっしょにいてくれませんか」


 俺は地面に膝をつき、マキの頭にそっと手を置いた。


 ――本当は、マキの気持ちに応えたい。俺だって、マキのこと、嫌いなんかじゃないんだ。


 こんなに真っ直ぐに、俺のことを想ってくれる人は、初めてだから。

 ……だけど。


「ごめんな。俺とマキは、ずっといっしょにはいられない。……俺らは、住む世界が違うから」

「…………」


 マキは、途端に緊張の抜けた顔をして、「最後にひとつ、お願いを聞いてください」と、言った。俺は頷き、マキの言葉を待つ。


「――その剣で、わたしを刺して。世界の終止符は、あなたに打ってほしい」


 素直に了承した、と言えば嘘になる。

 それでも、最後くらい、彼女の望みは叶えたいから。


 剣を手に取り、彼女の胸に押し当てる。


「……本音はさ、俺――」

「言わなくていいのです。十分、伝わってるから」


 マキは微笑んで、こちらを見つめた。

 あとは俺が腹を決めるだけだ。


「マキのこと忘れない。この世界が元に戻っても、変わらず、マキに会いに行くよ」

「……うれしいですけれど、勇者様はさっさとわたしなんて忘れて、〈北海道〉へ行って、お嫁さん候補を見つけてくるのですよ」


 マキは笑った。

 俺は……笑い返せてるかな。そう思いながら、剣を握る手に力を込める。


「……!」


 柔らかいものを押しつけられた感覚が、剣を伝わって伝わり、血の気が引いた。

 最後に、剣を前に突き刺す、それだけだったが、先に彼女が、自ら身体を前に倒し、剣を受け入れてしまっていた。


「……嫌だ」


 ここへきて、情けない男の声が口から出た。

 直後、周りの景色は白く光り、俺たちを飲み込もうとしていた。


 ――マキ(AI)の握っていた権限が解放された今、メアナさんが、世界を修正(もど)しはじめているんだ。


 彼女はもう声を上げることなく、ぐったりと剣に寄りかかっていた。


 光が強くなるごとに、薄れゆく意識。

 俺は必死で彼女の手を握り、最後まで離れてしまわないように、身体に引き寄せ抱いた。


 眠りについてしまうまで、彼女は最後まで、確かに、暖かかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。