第1話・どっちが上か、勝負してやるのです
川のせせらぎが妙に耳に障る。
マキとは、これまでの長い間過ごしてきたけれど、本当の意味で向き合ったのは初めてだった。
「……いつから、気づいていたのです?」
マキは聞いた。
今更ながらに思う。……いや、今までは理解したくなくて、事実に蓋をしていた。
口調こそ違えど、マキの声と魔王の声は同じだった。
魔王はしっかりと、見た目だって、マキの面影を残していた。
「……初めて会ったときから、だ。些細なことだけどさ、気になってたんだよ。……俺がマキをあの三人組から助けたとき、マキ、迷わずこう言ったよな――『……勇者様!』って」
マキは吊り上げた口角を変えることなく、俺の言葉を聞いている。
「おかしいよな……だって、元々このゲームに〈勇者〉なんて〈JOB〉がないんだからよ。いくら俺のこの格好が勇者らしいものだとしても、そんな迷いなく真っ直ぐに呼びかけるかなって――だって、〈プレイヤー〉からしたら、ゲームは始まったばかりなんだぜ?」
マキは鼻で笑う。
「でも、それだけじゃ理由としては弱いのです……。そんなの、当てずっぽうの推測にすぎないのです」
「ああ。だから、俺はそこまで、そんなことを気にしていなかった。一時期は忘れてしまうくらいに……。だけどさ、マキはいつだって、率先して俺らのことを導いてくれたよな」
マキの顔から笑みが消え、目を細めた。
「マキはすべて知ってたんだ。知っていたから……自分が犠牲になるとわかっていても、動いていた。
〈アンノウンダイチ〉じゃ、テオドロス王女に魔女の子の話を引き出させたり、ケンとの戦闘前には、わざとあの場には関係ない〈ミラーネ〉の話をして、俺にヒントを与えた。
〈バンゲッデトウ〉じゃ、ケンが毒の話を持ち出したときも即座に否定して……、そのあと、魔王が進むためのヒントを与えてくれた。今思えば、マキこそ魔王なんだから、道しるべを示してくれるのは、ある意味当然なのかもしれない。
〈ヨシワラトウゲンキョウ〉じゃ、遊女からの奇襲に、瞬時に反応していた。逃げれるかもわからない状況で、マキは迷わず逃げるように指示をしてくれた。〈エキドナ〉を操っていたのもマキなんだろ? 声もそっくりだし……それに、エキドナが喋っている間、マキだけは目を伏せてたよな? ……ああ、ほんの一瞬だけ、マキのことも見てたんだよ。
〈シロケシキノチ〉じゃ、迷い踏みとどまる俺を鼓舞してくれた。セイバーとの戦いのとき、マキは、ツリィとの息が一寸の狂いもなくピッタリだった。よく、同じ魔法呪文をあんな声を揃えて言えたよな。
〈魔王城〉では……マキ、なんだよな。魔王の存在を消そうとしていたのは。
……マキがいなかったら、ここまで来れなかったことばかりだ」
マキは川面に視線を落とし、しばらく黙っている。
「……マキは、〈プレイヤー〉じゃないんだよな」
「……なんでそう言い切るのです」
「ただの〈プレイヤー〉が、プログラムに干渉なんてできねぇよ」
マキは杖を取り出すと、顔を上げた――すべてを諦めたような、やるせない笑みを浮かべていた。
「……そう。わたしが、この世界を狂わせたAIなのです。魔王を創りだしたのも、魔女の子を創りだしたのも、全部、全部わたしなのです。こうなったら、『プレイヤーのマキ』はおしまいなのです。もう勇者様とは、この世界にいられない」
マキは杖の先をこちらに向けると、言う。
「計画は変更なのです。勇者様と、みんなと――真っ暗な世界へいくのです」
マキは 「〈ジホエンジャ〉」と唱えた。
俺は素早く剣を抜いたが、直後、業火が俺の身体を包んだ――だが、不思議と熱さは感じなかった。
剣は、迫り来る炎を受け流してくれていた。テオドロス王女から授かった王家の剣の効果が、今ここへきて発揮していた――そうか、王家の剣はマキに対して効果を発揮するものだったんだな。
「……テオドロスの剣か」
マキは憎たらしく呟いた。
「ああ。どうやら王女さんの剣は、ようやくここで本領発揮ってとこらしい」
マキはニヤリと笑い、言う。
「いいだろう。ぽっと出の干渉者とこのわたし――どっちが上か、勝負してやるのです」




