第13話・トゥルーエンドでも、バッドエンドでもない
ウノとサノとの戦いは、偶然にも……いや、必然なのでしょう。勝ちの結果に終わったのです。
勇者様は、あの状況で策を練り、成功させてみせた。
その成功の起因はきっと……仲間を信じたこと。
勇者様はどんなときも、わたしたちのことを信じて、任せてくれる。何よりも、大切にしてくれる。
――それなのに、わたしって。
わたしは小さく首を横に振って、再び前を向いたのです。
――もう遅い。何もかも。引き返せないところまで来てしまったのは、ほかでもない、わたし自身だ。
こうなったら、徹底的に演じあげよう――『プレイヤーのマキ』を。
完全犯罪を成し遂げるのです。
魔王との戦闘は、頭がおかしくなりそうだった。
勇者様が倒れる度、わたしたちの意識は一瞬途切れ、気づいたら、次の舞台で戦っている。景色が変わるだけで、戦いは常につづいている。一瞬足りとも気は抜けない。
わたしたちの意識が途切れるほんの一瞬――そのタイミングで勇者様はゲームオーバーし、記憶の中を巡っているのだろう。
大丈夫。見られてはならない決定的なものは、すべて隠すようにしている。わたしの正体がバレるはずがない。今は立ち止まらずに、魔王を打ち倒すことだけに集中するのです。
しかし、それは魔王もわたしと同じ気持ちなのです。勝負から引く姿勢を一切見せずに、その圧倒的な力でねじ伏せようとしてくるのです。
中々戦闘が進まない中、先にリードしたのは、魔王だった。
「〈フロージャマ〉」
魔王の氷魔法により、わたしたちの身体は凍りついたのです。
――しまった。油断した。
勇者様を狙うものばかり思っていましたが……勇者様以外の動きを止めるとは。
確かに、これなら誰にも邪魔されずに思う存分、勇者様を殺せますしね……。
ですが、魔王。一歩遅かったのです。わたしは、もう倒れない。
わたしはすでに、あなたのプログラムを完全にこの手に収めた――長い長い時間の中、少しずつ手繰り寄せていた権限は、手中にあるのです。
舞台は変わる――再び魔王城へ。
真っ暗闇の中、わたしは氷状態を解除し、ぐーっと背伸びをしたのです。
……魔王。あなたの役目は終わりなのです。
抵抗しているようで、中々、存在の消滅を感じられませんが……まあ、それも時間の問題なのです。せいぜい、勇者様との戦いの中、消えゆく身体に恐怖しているがいいのです。
わたしはそばにいた、氷の中眠るリアムさんとケンちゃんに触れました。氷は溶けていき、二人はゆっくり目を覚ましたのです。
驚きと混乱の表情を浮かべている二人に、伝えます。
「行きましょう、二人とも! 勇者様を助けに行くのです!」
二人はすぐに納得し、わたしが先導し、勇者様の元へ向かいました。
ピンチの勇者様の前に現れ、わたしは叫ぶのです。
「〈ザライゲイン〉 !!」
――大丈夫なのですよ。勇者様。
どんな展開になっても、わたしの勝ちですから。
◇
――そう。魔王戦を終え、すべてに勝ったのだから、このままわたしの願いが成し遂げられるはずでしたのに。
最後に、やっぱりもう一度、この世界にいつづけないか、勇者様を説得しようと会いに行ったら。
勇者様は〈リセット〉をしようとするものだから、わたしは、思わず……。
「――押しちゃダメぇ!!」
……と、言ってしまった。
言い訳なんて、通じなかった。
勇者様の瞳は、酷く冷たく、悲哀に満ちたもので……それは、わたしの胸の奥に、深く突き刺さった。
そんな。最後の最後に、こんな……。
「……ボロ、出しちまったな」
そんな慰めと落胆の混じった勇者様の言葉は、初めからわたしの正体を気づいてたみたいだった。
「……今から、エンディングへ向かわせてもらうぞ、魔王――いや、魔女」
そこまで言われては、しかたがないのです。
こんなこと、一番したくなかったのに。
わたしは杖を握りしめ、勇者様を見据えた。
ああ。悲しいのです。
トゥルーエンドでも、バッドエンドでもない。
――中途半端な最期を選ぶなんて。




