第11話・そんなの、恥ずかしくてしょうがないのです!
魔王が〈シロケシキノチ〉で新たに打ち出した条件、それは、魔王城へ行くには、魔女の子の心臓が必要だと言い出したのです。
つまり、全員を生かす選択肢はない。
選択肢は、現実から目を背けつづけるか、魔女の子を倒すか、それだけなのです。
勇者様は予想どおり――というか、疲弊してしまい、悩みはじめてしまった……決断を、下せずにいたのです。
三人の、魔女の子と名乗る〈プレイヤー〉。
〈プレイヤー〉を愛する魔女の子。
三人が魔女の子の味方をするならば、魔女の子諸共倒すのがセオリーだとわたしは思うのですが、やっぱり勇者様は剣を握れないでいたのです。
勇者様は、相手の境遇を自分自身の境遇と重ね合わせて、一歩踏み出せなくなってしまったのです。
――魔王の狙いはこれか。勇者様が簡単に選択できない状況に追い込み、ここで足止めをさせるつもりだったのですね。……足止めできなくとも、この決断において勇者を心理的に追い詰めることができる。
いや、だけれど……もし狙いが足止めだとしたら、魔王の望むエンディングは訪れない。この状況に絶望させて、勇者様が〈リセット〉する決断を待ち、世界を終わらせる作戦なのでしょうか。
――『最後くらい、勇者が選択して進むところをみたい』。
魔王はそう言っていましたが……もしかすると、わたしたちと同じような境遇のメンバーを配置し、勇者はそれに対してどの選択肢を選び行動するのか見ておきたいという、単純な好奇心なのかもしれないのです。
予め、どんなエンディングになりそうか見ておくようなものでしょうか。
それとも、エンディングを選ばせるための、準備期間なのでしょうか。
わたしにはわかりませんが……わたし自身の目的は変わらないのです。
魔王を倒す。そのために、この地もクリアし、先へ進まなければならない。
わたしのここでの役目は――勇者様の背中を押すこと。
一周目。ラビの皮を脱ぎ捨て、〈ピエリス市〉 へやってきたグリムリーパーは、わたしたちを眠らせた。
グリムリーパーは優しい。最初の頃の、あの残虐な強さなんて残ってやしない。
お昼寝をさせてもらい、目を覚ましたわたしは、リアムさんとケンちゃんといっしょに、勇者様がいるほうへ向かいました。不自然にならないように、わたしが案内して。
勇者様は、自死を選んだであろうグリムリーパーの前で肩を落としていました。どうしてもこのルートは確定で起きるのか……と思いながら、勇者様の次の行動を見守っていると、勇者様は、〈ロード〉を始めたのです。
そんなことをしたって無駄なのに。全員が生きたままハッピーエンドなんて未来はないのに。
何度繰り返そうとこの未来は変わらない。勇者様の持つ優しさだけじゃ、エンディングへと進めない。
時には向き合い、どちらかを切り捨てる未来を選ばなければならないのです――わたしの望む、未来のためにも。
……だからね。
「――勇者様」
わたしは白い光に包まれ、今にも消えそうな勇者様に向かって言うのです。
「今回は、諦めて」
……と。
◇
「すべてを生かすことが正解じゃない。大切なのは、本人たちが何を望んでいるかなのですよ」
二周目にて。
わたしはそれらしいことを言って、勇者様の心を突き動かすことに成功したのです。
――なんだか、騙すようなマネをしているみたい。
そう感じる自分自身の心は見て見ぬ振りをして。
再び〈ピエリス市〉へ行くと、ひとりの男性と出会ったのです。
「……セイバー!」
勇者様はどうやら知っている様子。……確か、勇者様は宿屋で顔を合わせているのですっけ。
ですが、この男性……〈プレイヤー〉じゃない。
魔王と同じものを感じるのです。
『ああ。宿屋に来た〈プレイヤー〉データをコピーして作り上げたわたしの分身さ。中身はウノだよ』
わたしの疑問に答えるように、魔王がわたしだけに、直接脳内へと語りかけてくる。
『セイバーとかいうプレイヤーには、東の国へ行ってもらった。同じ人物が二人登場してしまったら、ややこしくなるからなぁ』
わたしは内心、舌打ちをした。
本来だったら、この世界の権限はわたしが握っていたはずだったのに。魔王に奪われてからは、このとおり好きにされてしまうのです。
絶対に、魔王から権限を取り戻してやるのです。
『おお、怖いな。元々は、メアナのものだというのに。真の魔王様には恐れ入った』
もう話しかけないでほしいのです。
いつもなら、魔王城への案内役は初めからサノでしたのに、わざわざウノを寄越してくるなんて……どうせ、最後にまた、ひと悶着させるに決まっているのです。
しかたない……ここは流れに身を任せ、乗り越えていくしかないのです。
このあとは、グリムリーパーたちと対峙して、対決となるのでしょう。ここにウノが割り込んでくる……その可能性がありますね。どうかここは協力して、ウノを倒す方向へ持っていきたいのです。
倒しきれないのは明白ですが、追い払うくらいはしたい。
そう考えていたわたしですが、グリムリーパーは予想外の行動に出たのです。
「さあ、戦いましょう。勇者――ここは正々堂々、二人きりで」
グリムリーパーは言って、その鎌で空間を切り裂いた――隔離魔法を使いやがったのです。
そんなことをされたら、二人の様子が見れない! グリムリーパーは魔王と一番距離も近かった。ある程度魔王のことは、把握しているだろう。一体、勇者様に何を吹き込むかわからない。
――もし……もしも、グリムリーパーが魔王の気持ちを知っていて、あんなこと言おうものなら。
……ほら、例えば、なのですよ?
――『魔王様はね、あなたのことが好きなのよ』。
……なんて、バラされたりしたら。
そんなの、恥ずかしくてしょうがないのです!




