第10話・いっしょにいれたら、いいじゃないですか
〈シロケシキノチ〉――やっと、この地まで来たのですが、やっぱり寒い場所なのですよ。
一面雪景色で、なんにもないですし。
ここで楽しむことといえば、遭難ごっこして、みんなでふざけあうくらいなのです。
そんな雪原を上をあてもなく歩いていたわたしたちなのですが、ケンちゃんが「明かりを見つけた」というので、そこへ向かってみることにしたのです。
――ここまでは、魔王の思惑どおり。
この地に関しては、毎回道を踏み外すことなく進んでいくので、わたしとしても神経を使わなくて済むのです。
ここで重要なのは、勇者様自身の決断。
彼が逃げるか立ち向かうかで、物語は大きく変化する。
さて、今回は逃げるかそれとも……。
……いえ、逃げてもらっちゃあ困るのです。ここはなんとしてでも立ち上がってもらわないとならないのです。
とりあえず、あの場へ向かうのですよ。
やっと、待ちに待った温泉につかれるのですから。
◇
「ようこそ! 〈シロケムリオンセン〉へ!」
相変わらず、見ているこっちが恥ずかしい。
グリムリーパーが、無理して演じているのは、わかっているのです。
この場でわたしたちを殺すか、それとも、仲間の意志を尊重するのか悩んでいるのかは知りませんが、あなたが〈心〉を知らないままでいてくれれば、勇者様が悩むことはないですのに。
まったく、魔王も余計なことをしてくれる。
わたしは勇者様たちと別れて、ひとり女湯に浸かるのです。
ごくらくごくらくなのです。露天風呂はいいものなのですよ。
魔王は何を期待しているのか、突然魔女の子の強さを調整した。
そして、さらに与えたのは――仲間という存在。
調整なんてせずとも、グリムリーパーに任せて勇者を倒しつづければ、いつか終わりは見えるというのに、なぜ魔王はそんなことをしたのでしょう?
――きっと魔王だって、本音は世界の終わりなんて望んでいないのですよね。
本当は、ただ彼の口から言ってほしいだけなのです――「この世界にいよう」って。
この世界に閉じこもったまま、永遠にわたしと過ごす選択を取ってほしい、それだけだから。
だから、魔王は提示した。強い絆で結ばれた〈プレイヤー〉と〈NPC〉がいることを知ったら、勇者様もこれ以上世界から出ようとしないのだと思ったのです。
でも、そんな思ったようにはいかなかった。
グリムリーパーたちと対峙するたびに、グリムリーパーは、〈プレイヤー〉たちのために、自決を選んだ。
――どうして? あなたたちは、いっしょにいたいと願っていたのです。なんで、グリムリーパーは自分の命を犠牲にしてまで、ツリィさんたちが元の世界に帰ることを望んだのですか?
「……わたしは……わからないのですよ。あなたは、どう思うのですか」
わたしは、いつの間にか目の前で温泉に浸かる魔王に向かって聞きました。
魔王は、背伸びをしてから答えるのです。
「こんなハリボテの世界なんかに、置いておけないと思ったのだろうさ。我も彼女の姿を見て、感銘を受けたよ」
「いっしょにいれたら、いいじゃないですか」
「大切な人の幸せを考えたら……この世界に束縛してはいけない。そう結論づけたのでは?」
――幸せ? 彼女たちの幸せは、グリムリーパーといっしょにいることではないのですか?
「……まあ、今回はどう動くか楽しみだ。もしまた、グリムリーパーが自決の道を選ぶようなら、もう二度と選べないようにしてやらないとな。もう最後なんだ。最後くらい、勇者が選択して進むところをみたい」
「余裕そうですね……次はもう、あなたが倒される番なのに」
「……わたしとしては、やっとこのときがくるという感じだよ」
魔王は湯から上がる。成人女性姿の魔王は、大きな胸から脚にかけて、女性らしい緩やかな曲線を描いた身体をしているのです。羨ましいのです。
わたし自身も、そんな姿に変えたかったのです。
「物語はどのエンディングに進むのか楽しみだな――我よ」
魔王はそう言い残して、湯けむりに紛れながら消えていってしまいました。突然目の前で、神隠しが起きたみたいなのです。
エンディング、か。……わたしが望むエンディングは、ただひとつなのです。
わたしはグリムリーパーとは違う。わたしは、わたしの望む未来のために突き進む。
…………。
……そう、決めたんだから。
「……あ。そういえば、そろそろなのですよ」
わたしは杖を持ち出し、空へと掲げた。
まったく、男の人はここへくると、いっつもヘンタイさんになるのですよ。
そんなの、メッ、なのです。
「〈ライデンマ〉!」
わたしが呪文を唱えると、竹垣の向こう側から、「「ギャァァァァァ!!」」という二人の悲鳴が聞こえたのです。
――あっ、しまった。温泉にはケンちゃんもいるのでした……。
あとで、ケンちゃんだけはしっかり〈ヒール〉をかけてあげないとなのです。
二人とも、ケンちゃんを見習ってほしいのですよ。
「……ふふ。困ったさんなのです」
ふと視線を下ろし、気づく。
水面に映るわたしの顔は、普通のプレイヤーの女の子のように、にやけていた。




