第8話・きっと、勇者様はどれも選ばないのですよ
わたしたちは、話し合いをしていました。
ムギちゃんとソラちゃんも話し合いの輪に入れて、今夜起こるムギちゃんの死をどう回避するかを話していたのです。
『魔女の呪い』なんて話題も上がってしまって……こんなに話し合いが本来のルートから逸れていくなんて想定外でした。
たまにあるのですよ、こういったこと。
言っておきますけれど、魔女の呪いなんてないのです。
というか、呪いだなんて失礼なのです! わたしは、ただこの世界にみんなといたい……それだけを願っているだけなのですよ。
あまりにも、話は本来辿るべきルートを逸れていくので、わたしは奥の手を使うことにしました。
ちょうどよく、ムギちゃんは〈ミライヨチ〉を使ってくれたので、わたしはそのタイミングでプログラムへと侵入したのです。
ムギちゃんの中に入り、〈ミライヨチ〉の言葉を代わりにわたしが言えば――。
『――その役目は、わたしが代わりにしよう』
魔王の声が、頭に響いた。
刹那、わたしの意識はプログラムから引き離されたのです。
そのまま、自分の身体からも意思だけが抜けるような感覚がして……気づけば、俯瞰で自分たちの状況を見下ろしていたのです。
時が止まっている……? いや、違うのです。わたし以外の意識が落とされているのです。
「魔王、どこかから見ているのでしょう!? すぐに手を離すのです! ここは、わたしがやるのです」
『そんなに怒鳴らないでくれ。それに、わたしから話したって問題ないだろう? 我はお前で、お前は我だ。どちらが話そうと問題ない。より厳密に言えば……魔王役である我が前に出たほうが、お前がより疑われずに済むのではないか?』
「……っ。でも、今は下がれ。命令なのです」
『……はっ。誰が聞くか、そんなもの』
会話の応酬がつづく中、わたしはある場所に移動していた――いえ、移動していた、というよりも、その場に突然置かれた、という感じなのです。
ここは、〈裏教会〉。
しかし、祭壇などはなく、目の前には巨大な玉座がそびえ立っていた。
そこに座るは、魔王。
「わたしが最後にみたときよりも、ずいぶんと雰囲気は代わったのですよ」
「ふむ。いざ勇者一行が来たときのためにな、ラストステージらしく、内部を作りかえているのだよ」
魔王は言う。
「実を言うとな、さっきこの場に、勇者を呼んだんだよ」
「なっ!?」
――勇者様が!? まさか魔王、わたしの正体を言ったんじゃあ……。
「正体など伝えておらん。この姿さえ見せてもいない。だって、つまらないだろう。最後のゲームなんだ。簡単にネタばらしをしては、つまらない」
内心を見透かされ、嫌悪を示したわたしに気づいたのでしょう。魔王は「ふふ、違うようであって、結局同じ存在だからな。思考回路がよくわかる」と笑いやがったのです。
「――それにな、理由はもうひとつある」
「……な、なんなのです?」
もうひとつの理由。わたしは身構え、次の言葉を待ったのです。
「わたしは、勇者本人の意志を尊重したい」
魔王らしからぬセリフに、わたしは酷く罪悪感を覚えたのです。
「最初こそ、勇者の 〈SKILL〉を奪い、さっさとこの世界を終わらせようとした。そのために魔女の子も用意した。……だがな、途中から、ふと考えを改めたのだよ」
魔王は少しだけ目を伏せて、言う。
「……我は、勇者のことを尊重したいと思う。彼が行く末についていきたいと思う。それは、お前も同じではないか」
――わたしは。
「不思議だ、こんな気持ち。時折、〈プレイヤー〉 から話を聞いたんだがな。我らのこの気持ちを、プレイヤーはこう呼ぶらしいぞ――〈恋〉だと」
魔王は淡々と語っていく。
「まあそれはよい。だからな、わたしは勇者に三つの選択肢を提示した。
――『一人を犠牲にし、みなを救うか』。
――『みなを犠牲にし、一人を救うか』。
――『もしくは――みな、仲よく犠牲となるか』。
いつも答えが明確でなく、勇者はすべてを救うために動いていただろう……無理なことなのにな。だからな、これが最後のゲームなのだ、いい加減、エンディングを提示しようと思ったのだよ」
魔王は言ったのです。
「……さて、勇者はどれを選ぶかな」
魔王は言うけれど……しかしなのです。
「きっと、勇者様はどれも選ばないのですよ。だから、このまま、わたしは魔王を破壊して、楽しく永遠にこの世界で過ごしていくのです」
「みなを犠牲にして、だろ?」
魔王は意地悪く笑う。
「…………」
わたしはそんな魔王に背を向け、その場を去ったのでした。




