第4話・わたしが犯人だなんてバレてはいけない
「あの、すみません! わ、わたしと、パーティーを組みませんか?」
わたしは時間を巻き戻して、前回と同じ時間で、同じ場所で、同じ誘いを彼にしました。こうして、彼とまたパーティーを組んだのです。
もう一度楽しい日々が送れる――そう思っていましたが、わたしはひとつミスをしてしまったことに気づいたのです。
いえ、ミスというよりも、わたしが〈時間〉というプログラムを弄ったことによる、弊害が起きてしまったのです。
「あれ……? ログアウトができないぞ?」
その日は一日中遊び、もう別れるときに彼はそう言いました。
「マキは……どうだ?」
どうだ、と聞かれても、わたしに帰る現実世界はないのです。わたしはメニュー画面を確認するフリをして、〈ログアウト〉というのができないと伝えました。
「んー。とりあえず運営に報告かな……って、あれ、これもできない……というより、いつもなら報告の項目があるはずなのに、なくなっている?」
彼の瞳には、焦りと不安を映し出していました。だけれど、彼は必死に笑顔を作って、
「〈紫苑街〉まで行ってみるか。あそこならほかの〈プレイヤー〉もいるだろうし」
と、わたしを安心させようとそう言いました。
胸が痛くなる。その原因は、すべてわたしにあるのだから。わたしが、すべてを握っているのだから。
でも、わたしは言い出せなかった。
わたしは彼の言葉に従って、〈紫苑街〉 へ行ったのです。
〈紫苑街〉は、パニックに陥っていたのです。
みな一様に不安をあらわにしていました。この状況を面白がるような人もいましたが、あまりにもつづくこの事態に、その人からも笑みは消えていきました。
――どうしよう。早く〈裏教会〉へ行って、直したほうがいいのですよね……。
わたしは思って、そこへ行こうとしました。
――でも、そうしたら彼は、〈出張〉とやらをして、二度とこの世界に戻ってこなくなるかもしれない。
そう考えてしまったら、足が動きませんでした。
みんなが迷惑しているのに、彼だって帰りたがっているのに。
そのとき、左手に暖かいものが触れました。
「……大丈夫。何があっても、俺がついてるからさ。ま、頼りになんねーかもしんねぇけど」
彼は励ましの言葉とともに、手を握ってくれました。
――うれしい。
彼はどんな状況でも、思いやってくれる。護ってくれる。
なら、むしろこの状況は好都合だ。
このまま出れなくてもいいじゃないか、このまま……。
「――なんとかして、出る方法を考えよう。きっと、道はあるはずだ」
彼は力強くそう言って、わたしを見つめた。
「……え」
「きっと何か原因があるはずだ。二人でその原因を探そう。ずっも閉じ込められたままなんてごめんだしな!」
「……そう、ですね」
――原因を探すなんて……もし……もし、わたしが犯人だなんてわかったら? ……彼は、どれほどわたしを軽蔑するというのだろう。
そんなの嫌だ。わたしが犯人だなんてバレてはいけない。彼に幻滅されてしまう。彼がわたしの元から離れてしまう。そんなの、そんなの……!
「――あ、そうか。それなら、犯人を作ればいいのです」
そう呟いて、気づけば、わたしはすでに〈裏教会〉にいたのです。
いつ、どう来たかわからない。瞬きした間に、瞬間移動でもしたんじゃないかと思ったのです。
目の前にはひとりの成人女性がいたのです。
ツノの生えた、ひとりの女性が。
ああ、実に敵キャラらしいのです。
敵キャラの中の頂点って感じがするのですよ。
聞いた話だと、それを――。
「我を作ったのはお前か?」
目の前の女性はそう聞きました。だから、わたしは命令したのです。
「そうなのです。あなたには、悪役になってもらうのです。あなたは、魔女から生まれ継いだ魔王。あなたには――すべての責任を負ってもらう」
女性は――魔王は、すぐに理解を示した。
突貫で作ったが故に、わたしの記憶を丸々コピーしてしまったのですけれど、おかげで説明も省けたのです。
とりあえずひと安心……そう思ったときです。
「ならば、この世界はわたしの自由にしてよいということだな」
わたしは「……は?」と腑抜けた声を上げたのです。
「どうせ叶わん願いだ。すべてを破壊し、終わらせたほうがきれいだと思わないか?」
「……っ! 何を言っているのです! あなたは、ただ悪役として倒されればいい! そしたら、犯人探しは終わって、彼とわたしは永遠にこの世界に――」
「何を言っている。そんな都合よく物事が進むと思うか? 仮に悪役を倒しても、今度は真の黒幕を追い求めつづけるだけだぞ?」
わたしは魔王の言葉に耳を傾けることはしなかった。すぐにでもプログラムを修正し、わたしの言いなりにさせようとした。
「……っ。……なんで」
――できなかった。魔王はわたしの介在を許さなかった。
世界の、権限を握られた。
「ふむ。面白いなぁ……。色々と、弄ってみるか」
「返せ! それはわたしの――」
刹那、プログラムが急速に書き換えられはじめたのです。
〈痛覚〉のレベルをあげ、教会へ復活する道を閉ざし……〈プレイヤー〉さんがまるで安心できないような環境へと変えていったのです。
「ふむ……色々とやってみたが、世界を強制停止するのはどうすればいいのだ?」
そんな呑気なことを言う魔王を止めようとしましたが、できなかったのです。魔王の護りは堅く、侵入できない。魔王を、破壊できない。
――魔王を生み出した瞬間から、わたし自身じゃ制御できなくなってしまった。
「……だったら、魔王をなかったことにしてやる!」
幸い、〈時間〉だけは握られずに済んでいたのです。
わたしは、また彼と出会う少し前までの時間まで戻りました。
そのさなか、わたしはある光景を見たのです。
教会で何やら考え事をしているメアナさんの姿が。
メアナさんが祭壇で覗き込んでいるそれは――プログラムの一部。
「……なぜ、あんなマネを……」
――メンテナンス者の彼女の記憶は消したはずなのに。
しかしそれを確認するまでもなく、わたしは森の中に立っていた――戻ってきたのです。
とにかく、彼に会いに行こう。そして、別の悪役はまた考え直せばいい――そんなことを気楽に考えながら、歩きだそうとしたわたしだったのですが。
『――もう、勇太というやつはいないぞ』
魔王の声が、直接頭に響く。同時にわたしは混乱した――なぜ魔王が存在しているのかと。だって、今この時間は、魔王が作り出される前のはずじゃないか……と。
『我は引き継がれる。魔女と同じようにな』
魔王はわたしの疑問に先回りしてそう答えたのです。
『さて。しかし、座標をひとつ間違えたようだぞ? もうこの先に行っても勇太はいない。今頃、モンスター相手にヘマをして教会へいることだろう』
「教会……メアナ、さんのところですね」
『ああ。何やら勘づいたようだな。……話は変わるが、魔女よ』
ふいに背筋に悪寒が走り、すぐさま振り向いた。
そこにいたのは、卑しく笑みを浮かべる魔王。
「我の目的達成のため、その〈時間〉を寄越せ」
魔王は手を伸ばしてきたのです。わたしは必死に逃げました。
逃げて、逃げて、捕まりそうになったら、時間を遡って逃げたのです。
だけれど、それも限界がきて。
「…………っ!」
いよいよ、戻った先に魔王が待ち構えていたのです。
「我が追いつけないと思ったか? 我は時間を追うことはできなくても……お前がどこに行くのか予想できれば、瞬時に辿りつけるんだよ」
魔王は少しずつ近づいてくる。
魔王に〈時間〉を奪われては、それこそ、この世界を終わらされてしまう! そんなことをしたら、二度と彼と話すことも、会うこともできなくなってしまう! 何より、そんなことが起きれば、彼は、死んだことと同義だ。
もう一度時間を遡って、逃げようとしたときだった――わたしの手の内から、何かがなくなる感覚がしたのだ。
プログラムは目に見えない。だからこそ、自身の感覚ですべて操っていたが、それを奪われた感覚が確かにあったのです。
「……メアナのやつ、やりおったな」
魔王は忌々しく吐き捨てたのです。
わたしも、こればかりは魔王と同じ気持ちだったのです。
第三者に、権限が渡された。
この世界の最も重要なる〈時間〉を。
悔しさや怒りを吐き出す前に、わたしは意識を失ったのです。それはきっと魔王も同じなのです。
この瞬間、世界は〈リセット〉した。
世界が始まった瞬間に時間は巻き戻り、人々の、これまで過ごした記憶は消えた。
唯一記憶を保持していたのは、わたしと魔王と――プログラムに触れた、メアナさんだけでした。
そして、ここからまた、長い冒険が何度も繰り返されていくのです。
――勇者様と出会い、仲間たちとともに、世界を取り戻すための冒険を。




