第8話・選ばれし者、剣を振れ
俺たちは、王宮内の最も格式高い場所、王室へと案内された。
外観もそりゃあ、すごかったが……内部も、外観以上に力が入っていた。
豪華絢爛な装飾が施された王宮内は、いざ足を踏み入れようとしたときも、一瞬、躊躇ったものだ。
玉座に腰かけたテオドロス姫を前に、俺たち三人は横並びに膝まづいた。
「――改めて。妾はテオドロス・C・ニードルという。この王国の王女なるものじゃ。敬意を持って、テオドロス王女と呼ぶが良い」
凛としたテオドロス姫の――改めて、テオドロス王女の声が響き渡った。
「Certainly……テオドロス様! ……いや、テオドロス王女!」
リアムは、相変わらずテオドロス王女に首ったけだ。テオドロス王女は困った顔を浮かべる。
「なんじゃ貴様は……さっきから暑苦しい奴じゃのぉ……」
「テオドロス王女がオラのハートに火をつけたからです!」
「うぅ〜、ウザったいのじゃ〜……」
どうやらテオドロス王女は、リアムのようなタイプは苦手らしい。
「……全く。のんびりと時間を割いてる暇はないのじゃ。さっさと話を進めようぞ」
テオドロス王女は気持ちを切り替え、俺を見た。
「まず貴様。名をなんという?」
俺はこう言った形式はよくわからず、とりあえず急いで立ち上がった。
「俺はユータです。こっちがマキで、この大きいのは――」
「オラは、リアム! リアム・グリーンだ!」
リアムは本当にテオドロス王女が好きらしい……。一方、テオドロス王女は嫌そうにリアムを見ているけど。
「……ふむ。ユータにマキに………リアム、じゃな。ユータたちは、なぜここに来た?」
「そりゃあもちろん! テオドロス王女に会うため――」
「ええい! 妾はユータに話を聞いてるのじゃ! お主は少し黙っておれ!」
リアムの暴走にテオドロス王女はついに声を上げた。すると、スッとマキは立ち上がったかと思うと、リアムの背後にまわった。
「しばらく、静かにするのですよ」
マキはそう言うと、コツン、とリアムの首を杖で叩いた。リアムは気絶し、うつ伏せに倒れた。
「これで大人しくなったのです」
テオドロス王女は満足げに、「よくやったぞ、お下げの女よ」と言った。
――ま……マキさん、意外とそんなワザ使えるんですね……!?
あんまりマキを怒らせないようにしよう、と俺は静かに、堅く誓った。
静かになったところで、俺たちについて、現状について伝え、聞いてみることにした。
「実は俺たち〈プレイヤー〉は、今、危機的状況に陥っているんです。正体不明のAIにゲームの権限を奪われて、俺たちはこの世界に閉じ込められてしまって……元の世界に帰れなくなってしまったんです。俺たちはそのAIを探して旅を始めたばかりでして――」
ふと、テオドロス王女の表情を見ると、なんだか難しい顔をしていた。
「あ、あのテオドロス王女……?」
「……ふむ。その〈プレイヤー〉だとか、『AI』だとかケンゲン? というのは妾にはサッパリじゃ」
そ、そうか……。元々この世界にいるゲームの住人からすれば、この世界が基準、だよな。別の世界の話をしても、そりゃあ訳がわからないだろう。
魔法の使えるこの世界では、AIなんて概念もないだろうし。
となると、あのときギルドで聞こえた天の声は、俺ら側――人間、ってとこなのか?
何かヒントを得られないかと思ったが、ここでは何も得られないかもしれないな。
――この先、犯人探しは困難を極めそうだ……。
「えーと……まあとにかく、俺たちは元の世界に帰らなくちゃなりません! 最近、この世界では魔王が復活したとも聞きました。世界を統べる王様からなら、何か詳しい話を聞けるんじゃないかと、俺らはここへ来たんです」
俺はそう述べると、テオドロス王女は深く息を吐いた。
「残念ながら、王も女王もこの世におらぬ。この王宮に居るのは妾ひとりだけじゃ」
――それって、両親は既に……。
「そんな暗い顔をするな、ユータ。ブサイクが、さらにブサイクに見えるぞ」
その言葉のおかげで、俺は二重に傷ついたぞ。
「……して、ユータ。なぜそんな話を聞きたいのじゃ? 聞いて、お主がなんとかするというのか?」
「……はい。きっと、これは俺しかできません。だって、俺は――」
「――〈勇者〉だから、じゃな」
――テオドロス王女は知っているのか、俺のことを……。
「お主を……ユータを見てすぐにわかったぞ。ついに、妾の元に言い伝えの勇者が現れたとな」
「言い伝えの……?」
テオドロス王女は頷いて、玉座の後ろに回った。
玉座で姿は見えないが、ガチャり、と音がした。何かの箱を開けた音だろうか。
「――魔王が蘇りし時、やがて安泰崩れ去る。唯一救えし者は、たった一人の勇者なり」
テオドロス王女は、読み上げるように話しながら、一本の剣を持って王台から降り、俺の目の前に移動する。
「――選ばれし者現れし時、この剣を施さん」
テオドロス王女は剣を掲げた。
「この剣、選ばれし者しか斬れん物。この剣、選ばれし者のみ力を授けし物」
テオドロス王女は持ってきた剣を俺に手渡した。
俺はそれを受け取る――ズッシリした重みが手に加わる。重厚な作りは、さっきまで振り回していた木刀と比べ物にならない。
テオドロス王女は目を瞑り、語りかける。
「選ばれし者現れし時、この剣を施さん。さすれば、平和を取り戻すきっかけになるだろう」
テオドロス王女は俺の手を取り、ゆっくりと目を開き、見つめた。
「選ばれし者、剣を振れ。未来の見えない世界に、終止符が打たれるだろう」
口上が終わったのか、テオドロス王女はパッと手を離した。
「……以上が、我がニードル家に伝えられる言い伝えじゃ。そしてこの剣は、代々ニードル家が、来たる時のために保管していた物じゃな」
改めてその剣を見た。傷ひとつない、正確に精密に、鍛え上げられたでその刃は、俺の顔を反射し、映していた。
「……こんな設定、なかったのです」
マキは目を丸くして、隣でそう呟いていた。
この世界は、やはり書き換えられているんだ。
俺らを閉じ込めて、魔王を作り出し、平和を脅かして……。
「お主は元の世界とやらへ帰りたい。妾は、この世界の平和を守りたい。そのためには、魔王を再び眠りにつかせねばならぬ」
「魔王を倒せば、俺たちも元の世界へ帰れるっていうのか?」
「魔王復活のタイミングで帰れなくなったのなら、概ねそうじゃろうな。魔王は世界の調和を乱す者……魔王復活により、帰り道が絶たれたと考えるのが、まあ妥当じゃと思わんか?」
お主らの世界とやらは、妾は全く知らんがの、とテオドロス王女は話した。
つまり、この世界の権限を奪ったとされるAIというのは魔王と睨んでいいわけだ。
魔王を倒せば、俺たちは元の世界へ帰れるかもしれない。
「じゃから、な。選ばれし者――勇者であるユータに、魔王を滅する役目を頼みたい。それは想像もできぬ苦難の道じゃろうが、お主にしかできぬことじゃ。……嫌とは言わせぬ」
いざ、こうして王女を目の前にして言われると、正直これから起こる出来事に大して臆してしまう。
……だけど、俺しかいないんだよな。
俺だけなんだ。勇者であるのも――何度でもやり直せる〈SKILL〉を持っているのも。
「――妾はこの世界を愛しておる。魔王なんかの手に、破壊されたくはない」
テオドロス王女は真っ直ぐ俺の目を見た。その目には、俺に対する期待と、希望がこもっていた。
――あのとき、〈紫苑街〉で、みんなにもやるって言っちまったんだもんな。引き下がる理由なんて、どこにねぇ。
「わかりました。俺、魔王を倒してきます」
テオドロス王女は頷き、微笑んだ。
「勇者様……」
「んにゃ……? あれ、ユータ! いつの間にかすごいCoolなSword持ってるじゃん!」
どうやら、ちょうどリアムの意識も戻ったらしい。
俺は二人と向き合って、伝える。
「マキ、リアム。俺は、魔王を倒しに行くよ。それで現実世界に戻れる可能性は、今のところそれしかない。……この先、どんな危険なことが起こるかわからないけど……でも、だからこそ、俺は、お前らといっしょに行きたいと思っている。お前らは、俺についてきてくれるか?」
俺ひとりじゃ、きっと乗り越えられない。
でも、二人に無理についてこいとは言えない。
ここから先は、二人の意思を聞いて、尊重しなくてはならない。
俺は、「お前らの答えを聞かせてくれ!」頭を深く下げた。
「――聞くまでもないのですよ、勇者様」
意外にも、答えはすぐに返ってきた。
「何度でも言うのです。わたしは、勇者様といっしょにいます。どこまでも、何があっても」
そう言って、マキは笑った。
今度はリアムを見た。
「ナンカ、よくわかんないけど……。オラもユータについてくぞ! マオウなんて、面白そうだしな!」
「マキ、リアム……!」
うれしかった。こんなにも最高な仲間と出会えたなんて、俺は本当に幸運だ。
「ありがとう! これからもよろしくな、二人とも!」
二人は力強く頷いた。
俺たちは、改めてテオドロス王女と向かい合う。
「これはこれは。頼もしいのぉ」
テオドロス王女は腰の後ろから扇子を取り出し、優雅に顔を仰いだ。
「妾には、お主の言う『AI』なんてものはわからぬ。だが、その剣は、全てを解決に導いてくれるであろう」
テオドロス王女は最後にそう告げた。
話を終えた俺たちは、そのまま王宮をあとにした。
新たな目標を、胸に秘めて。
……しかし、なぜ魔王――ゲームの権限を奪い取ったであろうAIとやらは、俺たちをゲームの中に閉じ込めたのだろう。
閉じ込めてこの世界を破滅へ向かわせるというのなら、なぜ打開策なんて用意したんだ? ゲームを書き換えられるのは、そのAIだけのはず……。
いや、もう一人、それができるであろう人物はいる――あの正体不明の天の声だ。
ゲームに――プログラムに干渉できるのは、魔王とその天の声……?
そもそもAIの暴走……なんて映画とかじゃよくある話だが、そんなことが本当にあるのだろうか。
そんな簡単に引き起こされてしまうのだろうか。
……ダメだ。考えたことろで、答えなんて見えてこない。
今は、ただやれることをやるしかねぇ。
どんな結果が待っていようと、俺は元の世界に帰るために行動するだけだ。
俺は〈プレイヤー〉にとって、最後の希望なんだから
絶対に帰ろう、現実世界に。
――〈プレイヤー〉と、いっしょに。




