第7話・なんじゃお主ら。小汚い格好をしているのぉ
「さ、さすが王宮……! すっげぇ……!」
俺たちは今、〈ニードル王国〉の中心にそびえ立つ、〈ニードル王宮〉の前にいた。
――否、正確には王宮の敷地に入れてすらいない。それ以前に、巨大な鉄柵の門の前で立ち竦んでいるところだった。
門の先は、豪華な噴水が見え、隅々まで手入れのされた美しい庭園が広がっている。
「やっぱり王様というのは、わたしたち庶民とは違うのです」
「オラもあんなところ、一度でいいから住んでみたいってやつだ」
「そうだな〜。まあ、それはさておき。どうやって王宮に入るか、だが……」
俺は、門の両脇に立つ、こちらに訝しげな視線を送っている衛兵二人を見た。
「貴様ら、何をじっとそこに立っている?」
「貴様ら、何の用があってそこに立っている?」
この衛兵たちを乗り越えないと、王宮には入れそうにない。
ここはまず、正直に理由を伝えてみるとしよう。
「実は王様にお話を伺いたく――」
「オラは、テオドロス様に会いに来たんだ!」
「おい、リアム!?」
衛兵たちは、危険人物だと見なしたか、途端に槍を構えだした。
まさかのリアムの割り込みで、事態に暗雲が立ち込める。
「貴様ら、テオドロス様の許可を取っているのか」
「貴様ら、テオドロス様、または王宮内の者に話を通しているのか」
やばい。めちゃくちゃ怪しまれている。
まあ当然か。……大声をあげるムキムキ男に、王宮とは縁も無さそうな少女に……そして、俺ときたら、〈勇者〉といえども、ボロボロの初期装備に身を包んだ青年だ。不審者三人衆と言われても否定できない。
「キョカ? Appointment? オラはテオドロス様にひと目お目にかかりたい! そのためにアメリカから来たんだ!!」
そんな俺の心配を余所に、リアムは身を乗り出して、そう捲し立てた。
――リアム、さっきのバトルでは本当に助けられたが、今は黙っていてくれ!
「アメリカ? どこだそこは!?」
「不届き者の! 怪しい奴め!」
衛兵たちは、槍を俺たちに突きつけた。
「「貴様ら! 地下牢に連れていくぞ!!」」
違う! 一旦落ち着いてくれ――そう叫ぼうとしたとき、背後から、
「なんじゃお主ら。小汚い格好をしているのぉ」
と、声がした。
振り向けば、ひとりの少女が馬車から降りるところだった。
少女は、中学生くらいの子供に見えた。白と赤のコントラストが印象的な華美なドレスに身を包み、幼い顔立ちながらも芯の強さが伺われる、美しい女性だった。
この風貌、まさか――!?
「――テっ、テオドロス様!!?」
その姿を見た瞬間、リアムは感嘆の声を上げ、地面に膝をついた。
「ふむ。まさしく、妾はテオドロス・C・ニードルじゃ。で、貴様ら、一体何の用でそこに立っておる?」
扇子で口元を隠しながら語るテオドロス姫。その口調、態度はCMで見た時のような可憐でお淑やかな雰囲気は、一切感じられなかった。
実は、本性はこんな感じなのか……。
だが、リアムはそんなこと全く気にも留めず、肉眼に映る美しいお姫様に夢中だった。
衛兵たちはテオドロス姫を見るや、槍を降ろし頭を下げた。
「テオドロス様、おかえりなさいませ。この不審者共がなんの許可もなく王宮へ入りたいと申しているのです」
「テオドロス様、おかえりなさいませ。この怪しさ極まりない浮浪者共が、何の許可もなくテオドロス様に会いたいなどとほざいていたのです」
――おい、二番手に話した衛兵。誰が浮浪者だ。……いや、俺たちは今や浮浪者みたいなもんか……。
「なるほど、状況は理解した。ところで、お前さんら初めて見る顔じゃな……ん?」
テオドロス姫は、俺を見て何か思ったようだ。一体何だろう――まさか〈勇者〉の俺にひとめぼれなんて展開が……!?
「……勇者様。きっと今、おバカなことを考えているのです」
マキに小声でツッコまれた。そういうところ、女の子は何でもお見通しってか。
テオドロス姫はじっとを俺を見つめ、そしてこう言う。
「――良かろう。王宮に立ち入ることを許可する。特別に、妾直々に案内してやろうぞ」
テオドロス姫はそう言って、俺らの間を抜けて先を歩き始めた。
「テっ、テオドロス様! いいのですか、こんな輩を入れて!」
「テっ、テオドロス様! こんな輩と歩くなんて危険でございます!」
衛兵たちはその行動を止めに入るが、テオドロス姫は背を向けたまま足を止め「構わん」と、ひとことだけ言い、衛兵を下がらせた。
テオドロス姫は振り向いて、俺たちを一瞥し、
「早くついてこい。この妾を待たせる気か」
と、再び歩き出した。
「はい! 全力でついていきます!」
テオドロス姫にメロメロなリアムは、引き寄せられるように、動き出した。
――テオドロス姫の思惑がわからないが、この機会は逃せない。
俺とマキも、リアムに続いて、テオドロス姫についていった。




