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【完結済】神風勇太はたった一人の勇者となる  作者: みおゆ
第一章・アンノウンダイチ
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第6話・ユータたちは、Super強い!

「? どうしたのです、勇者様?」


 遠くから聞こえる、馴染みのある声。


「ゆーうーしゃーさーまー」


 俺は、ゆっくりと目を開けた。

 目の前には、俺の顔を覗いているマキがいた。

 間違いない。本物のマキだ。ちゃんと生きている。


 俺は、思わずマキを抱きしめた。


「わわっ! ゆ、勇者様!?」


 あのまま死んだ状態だったら、どうしようかと思った。よかった、ちゃんと生きている。


 おそらく、この先にいるリアムも無事だろう。

 きっと今も、モンスターと戦っているはずだ。


 やっと、俺の中で確信が持てた。


 俺がセーブポイントに戻る度に、時間も状態も、全てその地点まで時間が巻き戻される――セーブ後に起きた出来事は、全てリセットされる。


 マキが、この先の事態を全く知らないのも当然だ。


 記憶を保持してやり直しができるのは、この〈SKILL〉を持っている俺だけだ。


「……だからこその、たった一人の勇者ってわけか……」

「……勇者様?」

「いや、なんでもない。それよりもマキ、聞いてくれ」


 マキと向かい合い、俺は早口で状況を説明する。


「この先にとんでもなく強いモンスターとタコ足の女が出てくる。マキにはリアムといっしょに、モンスターの相手をして、モンスターの気を俺から逸らしてほしい。できれば、派手に動いて、タコ足の女の気も逸らしてくれれば、上出来だ」

「リアムさんがこの先にいるのです? それにモンスター? タコ足の女……?」

「悪いが、説明している時間はない。落ち着いたらゆっくり訳を話す。……今だけ、俺を信じてくれ」


 マキは力強く頷いた。


「わかったのです。勇者様のことなら、信用するのです」


 何度目となるだろうか――マキという存在に感謝しながら、話を次へ進める。


「んで、さらに悪いが、今回はマキひとりでリアムのところへ行ってくれ。俺は迂回して、こっそりとタコ足の女の背後にまわって、不意をつくことにする」

「分かれて行動なのですか?」

「ああ。でも、俺がひとりで逃げ出すなんてことは絶対しない。あの女には、ギリギリまで俺がここにいることを知られたくないんだ。そうすれば、的はマキとリアムの二人に絞って、より不意をつきやすくなるから」


 ――だがあのタコ足の女のことだ。俺の気配に完全に気づかない、なんてことはないはずだ。だからこそ、さらに手を打っておかなくてはならない。


「……できる限り、モンスターとタコ足の女の気を逸らしてくれ。今回は絶対に奴に勝つ――二人を死なせたりなんかしない」

「ゆう……しゃさま?」

「急なお願いで悪いが、よろしく頼むぜ、マキ。それと、もうひとつお願いがあるんだ」


 マキは俺に対して不審がることなく、素直に協力してくれた。




◇




 準備を整えた俺たちは、二手に分かれた。


 俺は少し遠回りし、遠くの木の影からマキたちの様子を伺う。


「リアムさん!」

「おー! マキじゃん! あれ、ユータは? ……あ、よわよわだから、フッたってやつか〜?」

「ふ、フラないのですよ! そもそも、付き合ってるとかそんな関係じゃないのです!」


 アイツ、前回とあんまり変わらない会話してるな……。

 マキ……そんなバッサリと否定しないでくれ。俺の心にヒビが入っちまうぜ。


 ま、そんなこと言っている場合じゃない。

 リアムは今、ちょうど魔獣らを倒したところだ……そろそろ、あの女が現れるはず。


 俺が睨んだとおり、あのタコ足の女は現れた。

 毎度おなじみの所作を見せると、地面からモンスターお出ましだ。


 ――よし、俺も動き出そう。


 リアムとマキは懸命にツチノコと戦ってくれている。タコ足の女はそれを見て楽しそうに、モンスターを操り二人を蹂躙している。


 本当は、こんなやり方、好きじゃない。

 不意打ちをくらわすような、卑怯なやり方は。


 ゆっくりと忍び寄り、俺は剣を振り上げ木陰から飛び出した。


「――だけど、お前に対してはそんなこと言ってる場合じゃねぇよなぁ!?」


 タコ足の女は気づいていたとばかりに、こちらに振り向きもせず、俺の腹に向かって触手を飛ばしてきた――けっ、前回と同じ動きかよ。


「……こっちとしちゃ、助かるけどなっ!」


 その動きは想定の範囲内だ。俺はクルリと剣を回転させ、触手からの打撃を弾いた。

 異変に気づいたか、タコ足の女はこちらを向いた。


「そういう一瞬の油断が仇となるんだぜ!」


 振り向くだけのその瞬間を狙い、俺は剣を横に斬った。

 タコ足の女は軽々と身を引いて剣を避ける。


「大口叩いているようだけれど、その程度ね……ん?」


 タコ足の女は何かに気づき、ある一点に視線を動かした。

 ある一点――タコ足の女の髪に、小さな赤い火の粉が付着していた。


 ――お前は確かに避けられた。だが、事前に剣にまとわていた炎の火の粉は舞い、そのときに、髪についちまったみてぇだな。


 俺はわかっていた。どうせただ剣を振っても当たらない。だったら、せめて何か威力か、もしくは射程距離を増やせないか――そう考えて、ギリギリで思いついたのがこれだ。


 事前にマキの〈ホムミ〉で、剣に火をつけてもらっていたのだ。炎をまとわせた剣、カッコイイ上に、威力も上がりそうだろ? まさかここでこんなボロい木の剣が生きてくるとは思わなかったぜ。


 ま、さっき横に凪いだせいで、もう火は消えちまったみたいだけど……。魔法の炎も、いつまでも続かないってことか。


 タコ足の女は付いた火の粉を憎らしく触手で消し、俺を睨みつけた。


「……あーあ。できれば全身に燃え上がってくれるのを期待してたんだけどな」

「アンタ、勇者ね……? まさか、勇者が背後をつく卑怯な手を使い、その上、女の子の髪を傷めつけるなんて……。最低野郎ね」

「女の子って歳でもないだろ? おばさん」

「――アンタ、今なんて言った!?」


 激昂したタコ足の女は両腕をこちらに向けた。同時に、モンスターが俺に向かって突進し始めた。


 何となくそう感じてはいたけど、タコ足の女の腕の動き――手の動きに合わせてモンスターは動いてるんだ。


 操り糸は、奴の指先にある。


 って、そんな悠長に観察してられねぇ! 俺も早く逃げないと……!


「逃がさないわよ」


 踏み出そうとしたその足首を触手で捕まれ、俺は地面に倒れた。


「勇者に出会ったら、苦しまずに優しく殺してあげようと思っていたけど……ごめんなさいね、気が変わったわ」


 ――ホラ吹きが。前回死んだ時だって、それこそ死ぬほど苦しかったんだぞ。


 頬に生温いものが落ちる。このまま喰われて、もう一回やり直しか……。


「ユータ!」


 もうダメだと思ったそのとき、リアムがモンスターに一撃をくらわした。

 モンスターはふらつき、一瞬動きを止める。


「勇者様を離すのです!」


 マキも加勢し、杖をタコ足の女へ向けた。


「――〈ホムミ〉!」


 杖の先に発生した火球が、タコ足の女に向かって真っ直ぐと放たれる。しかし、それはタコ足の女を掠め、その先の木に命中してしまう。


「あわわ……こんなときに外してしまったのです……」


 タコ足の女は鼻で笑い、腕を振り下ろした。

 モンスターは一度直立してから方向転換し、俺ではなくマキに向かって走り出した。


「効率の悪い戦い方をするところだったわ。勇者(コイツ)はわたしが殺して、この子に二人を殺(や)らせればいいのよ」


 次の瞬間、俺の足首に激痛が走る。


「アンタは四肢からちょっとずつ痛めつけて、最後の最後に殺してやるわ」


 クソっ……またゲームオーバーかよ。

 また、マキとリアムはあのモンスターに殺されるのか。

 また……!


「……何? なんか焦げ臭いわね」


 タコ足の女は言った。

 確かに焦げ臭い……何か、燃えている?


 俺は気づいた。さっきマキが外したあの炎が、木に燃え移って、火が森全体へと広がっているんだ。


「キィーキィー!」


 周りがどんどん炎で囲まれていく。すると、モンスターが突然悲鳴を上げて苦しみ出した。


「キィー!」


 モンスターはジタバタと暴れだした。もしかして、山火事が起きてパニックになっているのか?


「クソっ! 落ち着きなさい!」


 タコ足の女も暴れだしたモンスター相手に制御しにくくなっているようだ。

 モンスターは弱っている。それにタコ足の女もモンスターを制御で手一杯の状態だ……今なら、コイツらを倒せるかもしれない。


「よし! 二人とも今のうち、に……」


 と言ったところで、急に目眩が襲ってきた。

 息が苦しい……そうか。木が燃えるなら、それ相応の煙だって発生する……もんな。

 外とは言え、周りは木々に囲まれていて、空気の流れも悪い。

 なんだってんだ、こんちくしょう。

 煙を吸い込んだらダメなんて、そんな設定いら……な……。

 マキとリアムも同様のようで、二人とも地面に膝をつけてしまっていた。


 タコ足の女も、この火事場の中で少々体力を持っていかれてる様子だ――脂汗を浮かべながら、右腕を振り切る。モンスターは悲鳴を上げながら、土の中へ潜っていった。どうやら、操りを解除したらしい。


「こんなところに長くいれないわ。あの二人はほっとけばダメになる。アンタだけ確実に殺してから行くわ」


 タコ足の女は俺の首に触手を巻きつけた――またこれか。


 ――そもそも、なんでコイツは俺の命を狙うってんだよ……!


「さようなら、坊や」


 触手に力が入った――また、コイツに殺され……。


「――《ネーロダン》」


 そのときだった。何者かの声が聞こえ、地面に何か撃ち込まれたように見えた。次の瞬間、そこから水が噴き出したのだ。


 噴水は高くあがり、それは雨のように降り注いだ。炎は鎮火し、煙は風に流れていく。

 呆気に取られて、ただその光景を見ていた。


「ソイツを離せ、ハンドレディ」


 声の主を見ようと顔を上げると、そこに立っていたのはマントを羽織り、カウボーイハットを深く被った、二足歩行の狼だった――狼だった!?


「……お、狼が喋っ……それに立って……?!」


 ……あ、そうだ。ここはゲームの世界だった。こんなキャラクターが登場しても不思議じゃない。

 タコ足の女は上半身こそ女性の姿だったので、あんまり驚かず順応していたが、いざ本格的な獣人が現れると、驚かずにはいられなかった。


 というか今、この女のことを『ハンドレディ』って呼んでいたよな。……タコ足の女と呼んでいたが、そういう名前だったのか。


 いやいや、それより! 名前を呼ぶってことは、もしかして、コイツら仲間か!?


「はぁ? これはわたしが先に見つけたの。アンタの言うこと聞く義理なんてないわ」


 ――焦ったが、どうやら仲はそんなによろしくないようだ。


 タコ足の女――ハンドレディは、触手で俺をも持ち上げて、その狼男に見せつける。


「ここは僕のエリアのはずだ。他人のエリアを横取りするもんじゃない。大人しくソイツを離せ」


 本当に離してほしい。首を絞められたまま持ち上げられているので、苦しくて息ができない。


「うるさいわね! 関係ないでしょ、見つけたもん勝ちって……!」

「――いいから、離せ」


 狼男は銃をハンドレディに向かって構えた。


「今は手持ちのモンスターがいないんだろう?」


 ハンドレディは悔しそうに唇を噛んだ。


「……チッ、わかったわよ」


 首周りの圧が消えた。ハンドレディの触手からやっと解放された俺は、そのまま地面に落ちた。


 俺は咳き込みつつも、二人のやり取りから目を離さないよう意識を向ける。


「あーあ。最悪。コイツが現れなきゃ、手柄はわたしのもんだったのに」


 ハンドレディはそう言って、触手から黒い煙のようなものを出し姿を隠した。


 煙が消え去ると、もうそこにハンドレディの姿はなかった。


 とりあえず助かった……のか? ……否、まだだ。

 どうやらこの狼男も俺を狙う一人のようだし、まだ油断はできない。


 俺はふらつきながらも、立ち上がろうとした――しかし、さっき掴まれた足首が痛み、よろけて地面に膝をつけてしまう。


「……安心しろ。僕は負傷しているのをいいことに、手をかけるような恥ずかしい真似は決してしない」


 狼男は俺の横に立ち、見下ろした。


「またあとで会おう、勇者。貴様らのコンディションが整った時に、あいまみえることとしよう」


 狼男はそう言い残し、去っていった。


「………な、なんだったんだ、アイツ……」


 でも、とりあえず助かった。

 ハンドレディとのバトルを、なんとか切り抜けることができたんだ。


「勇者様!」

「ユータ!」


 二人が駆け寄ってきた。俺は大丈夫だと二人にピースサインを見せた。


「やったな、お前ら! とりあえずはクリアだぜ! ……痛っ」


 くっ…! カッコよく決めゼリフを言いたいところだが、足首の痛みに耐えきれず身体を丸めた。

 足首を見れば、すっかり赤く腫れ上がっていた。


「全く、ゲームだってのに変なとこリアルに作りやがって……!」


 マキは「じっとしてくださいなのです」と言うと、そっと俺の患部に両手をかざした。


「〈ヒール〉!」


 マキの治癒魔法をかけてもらい、足首の痛みと腫れは一気に引いていく。魔法の力ってのは、科学よりも刺激的だ。


「ありがとう。マキ」


 俺が礼を言うと、マキは半泣き状態だった。


「うぅ〜……。そっ、そんなことよりなのです! 勇者様が無事で何よりなのです〜!」


 マキは俺に抱きついてきた。


 そんな大袈裟な……。でも、これは思いもよらないご褒美だ!

 俺もマキの背中に手を回そうとしたが、アッサリとマキは離れてしまった。ふむ、上手くいかないものである。


 俺は立ち上がって、今度はリアムを見た。


「リアムもありがとうな。お前がいなかったら、俺はあの気持ち悪いモンスターに丸呑みされてたところだよ」

「こっちこそThanksだ。ユータが居なかったら、クリアできなかった」


 俺は、リアムもこうして生きて今立っていることが嬉しくて笑いがこぼれた。

 リアムも、いっしょになって笑った。


 ……ひと段落ついたことだし、そろそろ先に進まねぇとな。


「……さて、王宮へと向かうとしますか」

「はいなのです!」


 俺たちは再び歩き出す――と、その前に。


「どうだ、リアム。せっかくだし、俺たちといっしょに王宮まで行くか? 別に仲間になれって言うわけじゃないからさ」


 俺の誘いに、リアムは「ソレだけど……」と口を開いた。


「――ユータ、マキ! やっぱり、オラもパーティに入れてくれ!」

「えぇ!?」


 リアムは言う。


「オラ、今回のでわかった。戦いは、ひとりじゃ無理だ。Friendsが必要なんだ」


 リアムは右手を差し出した。


「よわよわ言ってごめんなさい。オラも、パーティに入れてほしい。――ユータたちは、Super強い!」


 俺とマキの答えは同じだった。俺らは、しっかりとその手をとった。


「これからよろしくなのです。リアムさん」

「頼りにしまくるからな、リアム!」


 リアムは目を輝かせ、子供みたいな満面の笑みを浮かべた――かと思えば、両手を大きく広げそのまま俺たちを引き寄せた。


「アリガトだぜ〜!! ユータ! マキ!」

「こちらこそだけどよ! 苦しいって、リアム〜!」

「押しつぶされちゃうのです〜!」


 そんなわけで、〈格闘家〉リアムがパーティーに加わった。


 三人となった俺たちは、ついに〈ニードル王国〉へ足を踏み入れたのだった。

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