第15話・残る問題は現実世界に戻る方法だけ、なんですね
東エリアの外れにある小さな教会。
俺はその扉の前に立っていた。
そんなに日付は経ってはいないけど、なんだかここへ来るのは久々に感じる。
そりゃあ、今まで何度もゲームオーバーしたからだろうな、と心の中で呟きながら、俺は扉を開けた。
窓辺側の長椅子に座り、ひとり祈りを捧げていたであろう白い髪の女性は、扉の開いた音に気づき、すぐにこちらを向いた。
彼女は、俺を見て顔を明るくして見せた。
「勇者!!」
彼女は――メアナさんは、すぐにこちらへ駆け寄ってた。
「ああ。どうなさいましたか、そんなにボロボロな姿で……! と、とにかく一度回復しましょう!」
メアナさんは言って、俺を長椅子に座らせた。
メアナさんは俺の手を取り、目を瞑る。俺の身体は優しい緑色の光に包まれ、ああ、きっと今〈ヒール〉をかけられているような感じなんだろうな、と感覚的に理解した。
全快したあと、メアナさんはゆっくりと手を離し、目を開ける。
「勇者。そういえば、お仲間さんはいらっしゃらないようですが……」
「――俺、メアナさんにひとつ確認したくてここへ来たんだ」
メアナさんの質問を遮り、俺はそう問う。メアナさんはやや驚いた様子だったが、すぐに話を聞く姿勢をとった。
「メアナさん。実は俺……魔王を倒してきたんだ」
「えぇ!? 本当ですか! すごいです、本当にありがとうございます。……あれ、でも……」
「やっぱり、まだプログラムに干渉できないんですね」
メアナさんは眉尻を下げ、俯く。
「……プログラムは常に覗くようにしていましたが、未だ何者かが権限を握ったままです。わたしが入る隙もなく……」
「そうか。わかった」
俺は腰を上げた。
「それだけ、確認したかったんだ」
「ゆ、勇者?」
そのとき、パランと、電子音が響いた。
見れば、祭壇にはひとりの男性が。
「あれは……」
「……あの方、敵にやられてゲームオーバーしてしまったみたいですね。回復してあげないと……!」
祭壇のほうへ向かおうとするメアナさんを、俺は引き止めた。
「待ってください。ゲームオーバーしたら、復活なんてしないはずじゃあ……」
「はい、つい最近まではそうでした。……って、そうですよね。勇者は魔王城へ行っていたから、知りませんよね」
メアナさんはここ最近、この世界で変化のあったことを説明してくれた。
ゲームオーバーしても、本来のゲームのように復活できるシステムに戻ったこと。
システムが戻る前にゲームオーバーしていた〈プレイヤー〉も、一斉に目覚めたこと。
システムが正常に戻り、本来のゲームの世界に戻りつつある今、〈ログアウト〉 だけはできないこと。
「時折、勇者の動向を見守っていましたが……この復活システムが復旧したのは、勇者が魔王城へ行ってしまってしばらくしてからですね」
「メアナさんは、教会からでも俺らの様子が見れるんですか?」
「あれ、言ってませんでしたっけ? もちろん見れますよ。……と言っても、わたしの力は弱いので、本当に時々見守る程度しかできませんが……。ほら、はじまりの日、〈紫苑街〉でも声をかけたでしょう?」
――ま、あの声かけが精いっぱいですけれどね。わたしが直接何かできたら、勇者のお手伝いができたんでしょうけれど。と、メアナさんは話した。
「あの、メアナさんは、魔王城の様子は見てたんですか?」
「……いえ。魔王城は守りが堅く、わたしのような者は立ち入ることすら……というか、覗くことすら叶いません。わたしはただ、勇者の無事を祈ることしかできませんでした」
メアナさんは申し訳なさそうにそう語った。
俺は顔を上げてくださいと言って、念を押すようにこう聞く。
「……じゃあ、残る問題は現実世界に戻る方法だけ、なんですね」
「はい、そうなります」
――そうか。やっぱりそうだよな。
俺は扉に手をかけ、もう一度メアナさんを見る。
「メアナさん。もう少し、プログラムを見ていてください。俺、必ず権限者の手を離してみせるので」
「……勇者、あなた心当たりが……?」
「……はい。そしたら、すぐに元の世界に戻して……俺らのこと、現実世界へ戻してください。頼みます」
メアナさんは力強く頷き、「わかりました。待っています、勇者」と言って、祭壇にいる〈プレイヤー〉の元へと急いだ。
歩きながら、俺はあるものを確認する。
――これを使うときがきたな。
俺は、あの日メアナさんから受け取ったメモを見つめていた。




