第14話・ありがとう、ケン。お前は、最高の仲間だった
「……はっ。氷漬けにしたはずだよなぁ……。なんだ、そのまま死んでくれなかったのか」
「死なないのです! わたしだって、魔法使いなのです! 氷くらい、内側から溶かしてやるのですよ!」
マキは杖を魔王に向けた。
「〈ジホエンジャ〉!」
魔王はマキの魔法で燃え上がった。魔王は忌々しく腕を振り払うと、炎はすぐに鎮火した。
「……ああ、やってられないな。結局、我は……。……でも! 勇者さえ!」
魔王は再び棍棒を掴む。
「勇者さえ倒せば、この世界は崩壊する! 何もかもが、なかったことになるんだ!」
魔王は叫びながら棍棒を振り下ろそうとした――だが、
「やめろ魔王!」
と、ケンの銃弾がそれを許さなかった。
「魔王の考えは理解できない。どうして、そこまで崩壊を望むんだ」
魔王はゆらりと立ち上がり、ケンを睨みつけた。
「お前こそわかっているのか? 元の世界に戻そうと我を殺したってなぁ……我がいなくなれば、我の子である、お前も消えてしまうんだぞ。まあ、我を生かせばそれを回避できるが――我が生きつづける限り、この世界を元に戻す気など、ない」
魔王はケタケタと笑い声を上げ笑う。
「勇者もわかっているのか……。我を殺すということは、そこの〈拳銃使い〉も殺すことになるんだぞ? ああ、それともアレか、勇者は別にコイツはいなくなってもよいと――ッガ!」
リアムは、魔王の顔をぶん殴っていた。
その目は、温厚なリアムが見せることのない怒りの色を浮かべていた。
「Do not say anything more」
――気持ちを代弁してくれて、ありがとう、リアム。
俺は再び剣を握り、魔王に向かって構えた。
四方から俺らに取り囲まれた魔王。その身体には、さっきよりもカラーバーが表示されたり、黒い線が入ったりと、その度に身体の形を崩していた。
突然のこれは……メアナさんの働きか? とにかく、魔王自身もかなり弱っている。仲間が再び集結した今、ここで決着をつけなくちゃならない。
「――覚悟しろ、魔王」
「……やってみるがいい」
魔王は〈ホムラマ〉を唱え、自身の周囲に炎の壁を作った。
刹那、壁の内側から炎の矢が飛んできた。
近寄らせずに、内側から攻撃する作戦か。
炎に阻まれ、魔王がどこを狙っているかもわからない。魔王がこんな手を使っているくらいだ。余程追い込まれているに違いない。
不意に、俺に向かって一本の矢が飛んできた。
当たる――そう思ったが、矢は突然推進力を失い、床に落ちた。
「ユータ! このあたりの攻撃はすべて僕が受ける! ユータは魔王を倒せ!」
ケンは二丁の銃を構えながら叫んだ――さっきの矢は、どうやらケンが銃弾で守ってくれたらしい。
「でも……ケン!」
「僕は十分楽しんだ。今更何を語り合う」
次々と放たれる炎の矢を、ケンは銃で撃ち落としていく。
「ユータ。あとは君が、ここで魔王を倒すだけだ」
ケンに背中を押され、俺は再び前を向く。
「勇者様! リアムさん!」
マキは俺らの元へ近づき、〈ヒール〉を唱えた。
「なけなしのMPなのです。 もう対して魔法は使えませんが……わたしもできる限り、この矢から勇者様たちを守るのです。勇者様たち……あとはどうか!」
俺は頷いて、魔王のほうを見た。魔王は炎の壁の中に引きこもったまま、出てくる気配はない。
「I got it……ユータ、オラが〈全・力・投・球〉であの壁コワス! その間、ユータ魔王タオス!」
「っ! そんなの……リアムがダメージを負うことになるだろ!?」
リアムの体当たり的な作戦に俺は首を振って否定した。だが、リアムは、「No problem! さっき、マキにHPカイフクしてもらったしな!」と、笑い飛ばされ、聞き入れてもらえない。
ほかにいい案も出ない……それに、今こうしている間も、マキとケンは俺らを守ろうと必死に動いてくれている。
リアムの目は本気だ。
……そうだよな。せっかくここまでみんなで戦ってきたんだ。
「……わかった。頼むぜ、リアム」
「I got this!!」
リアムは深く息を吸い、それから拳に力を込める。そして、燃えたぎる炎に向かって駆け出した。
「 〈全・力・投・球〉!!」
リアムの渾身の一撃が、その炎の壁に穴を開けた。
俺は全力で駆け抜け、炎の渦中へと踏み入れる。
魔王はその動きにすぐ気づき、炎の矢をこちらへ向けていた。
「我が先か――」
「――俺が先だ!」
魔王の指先から炎の矢は放たれる。同時に、俺は魔王の心臓に向かって剣を突き刺した。
矢は、俺の頬を掠めた。
剣は――確かにこの手に、仕留めた感覚を残した。
「……一発で弱点をつくとは、見事だな、勇者よ」
「……『心によって生まれた』って言ってたからよ。心臓を狙えばいいかと思っただけさ」
「……はっ、運のいい奴よ」
魔王の身体は、蜃気楼のように揺らめき、その実体は透過していく。
「……だが、これで終わりじゃない。お前にはまだ、エンディングを選び……実行しなくては、ならない」
魔王は俺を見て目を細める。
「――片割れに、よろしく頼んだぞ」
魔王は微笑うと、その姿を消した。
同時に、俺らを取り囲んでいた炎の壁が消え去る。
倒した。
俺は、魔王を倒したんだ。
「――っ!」
そんなことより、ケンは!?
俺はすぐに視線を動かしたが、ケンの姿は見当たらない。
マキとリアムしか、そこにはいなかった。
何も残らなかった。……何も。
初めから、俺たち三人しかいなかったみたいだ。
「……ちゃんと礼も言えなかった」
――今言ったところで、きっとケンには言葉が届かないかもしれないけれど。
「ありがとう、ケン。お前は、最高の仲間だった」
――忘れない。絶対に忘れてなるもんか。
マキとリアムは、そっと俺に寄り添ってくれた。
そのとき、天井から光が差し込みはじめた。ひと筋の光から、徐々に何本もの光が差し込んでくる。
あまりの眩しさに堪らず目を塞ぐ。そして、次第に賑やかな声が聞こえてきた。
周囲を見渡せば――ここは、〈紫苑街〉だった。
何人かの〈プレイヤー〉がこちらを見て、目をぱちくりとさせている。
「あれ……? ねぇねぇ君たち、今そこにいた?」
ひとりの女性プレイヤーがそう声をかけた。
――戻って……きた。
俺は女性の質問にに答えることも忘れ、〈メニュー画面〉を立ち上げた。
魔王がいなくなった今、もう世界は元に戻って、ここにゲームから抜け出すための、〈ログアウト〉なる項目があるはずだ。
「……ない」
いくら探しても、〈ログアウト〉なんてものはなかった。
俺は、さっき質問していた女性に聞く。
「あの、ゲームからは、どうやって抜けるんですか」
女性は、目を丸くし、答える。
「あら、まだ知らなかったの?! バグだか知らないけれど、今、ゲームの世界に閉じ込められる事態が起きててね……。〈勇者〉って人が、何かと頑張ってくれているらしいけれど……って、アンタ、もしかして……」
女性の言葉尻から、面倒な事態になりそうなことを予感した俺たちは、さっさとこの街をあとにした。
「ユータ……どうする?」
「もう、試すことは尽くしたのですよ……」
西エリアの森へはいる手前で、俺らは肩を落としていた。
「……そう、だな。……しゃーねぇ! こうなっちまったら、また何かねぇか探すしかねぇな!」
俺はこの場の重い空気を取り払うように、あえて明るい調子で言う。
「だけど、俺らは魔王討伐っていうひと仕事終えたばかりだ! 一旦休憩しよう! マキもリアムも、それぞれ何か食べたり、宿で休んだりしてくるといい」
「ユータ……」
リアムは心配そうに眉を下げたが、俺はそんなリアムの肩を叩き、
「そんな顔するなって! ほら、せっかく西エリアに戻ってきたんだぜ? 魔王を倒しましたって、テオドロス王女やらに報告したらどうだ?」
と、俺は言うと、リアムは「!! それはメイアンってやつだ!」と言って、〈ニードル王国〉へ向かった。
「……マキも一旦休んで来いよ。あとでまた、ここへ戻るからさ」
「……わかったのです。待っているのです」
マキは、また〈紫苑街〉ほうへ歩いて行った。
――さて、と。
二人と別れた俺は、メアナさんのいる東エリアを目指した。




