第12話・少しだけ……理解した気がするわ。〈拳銃使い〉が、勇者たちといる理由が
もう眼前まで迫ってきているマキに対し、避けるなんて発想も浮かばず、パニックになり身体が固まってしまった。
「あうっ!」
「ぐへっ!」
当然というべきだろう。俺とマキは衝突し、そのまま雪の上に倒れ込んでしまった。
「Hey! ユータ! Do not!!」
「魔王との戦いだぞ! 一瞬でも気を抜くな!」
リアムとケンに怒られながら、俺は身体を起こした。
マキのおでこを擦りながら立ち上がる。
「えっと……ごめんな、マキ」
「わたしも悪かったのです。魔王さんに捕まって、ポイって投げ捨てられたのです」
そこへ、魔王の高笑いが入り込んできた。俺らは魔王に意識を向ける。
「気が利いてるだろう、なあ勇者? かわいい小娘と重なることができて」
「いっ、言い方があるだろ! あと、これはただの事故だ! 衝突だ!」
魔王はそんな言葉をまったく聞きもせず、足を踏み込み、唐突に俺との距離を詰めてきた。両手には、それぞれ炎が纏っている。
近づいたところで、魔法攻撃をするつもりだろう。
「――急な接近戦かよ!」
ほか三人も、魔王の動きを止めようと動き出す。
しかし、魔王は真っ直ぐに俺の元へ来て攻撃をするんじゃないかと睨んでいたが、違った。
俺の近くまで来ると、突如、上に高く跳躍した。
両手の炎は消えていた。代わりに、白い霧が立ち込めていた。
まさか、今の動きはただのハッタリで、本当は――。
「〈フロージャマ〉」
突き刺す冷気。だがそれは、俺が攻撃を受けたからじゃない。
「…………っ」
俺以外の三人が、魔王の手によって凍結された。
みんな、魔王に狙いを定めた表情で凍りついている。
「……み、みんな」
死んだ……のか?
いや、まだ氷状態になっただけ……だ。ゲームオーバーになんかなっているはずない。
みんなの状態異常が解けるまで、なんとかここは俺が繋がないと――!
「思考時間が長いんだよ」
額に、魔王の指先が触れる。
「これであと、一回かな?」
破裂音。反転する意識。
俺は、また――。
『やめてよ! 勇者ぁ!!』
この声は……そうだ、ツリィだ。
〈ピエリス市〉 の中央広場。勇者一行と魔女の子が率いるパーティーは、対峙していた。
対峙していた――とは少し違う。正確には、倒れるグリムリーパーを守るようにツリィ、ヨイ、ホースが勇者一行の前に立ちはだかっていた。
『もうこんなことしないで! 倒さないで!』
『どうしてだよ!? ソイツはお前らを利用したんだぞ!? なのに、どうして――』
勇太は、剣を構えながらそう叫んだ。
『ぼっ、僕たちは確かに利用されてた……。でも、それでも彼女のおかげで生き返ることもできたし、強くなれたし、何より、仲間とゲームを楽しめたのは、初めてだったから!』
息も絶え絶えのグリムリーパーは、視線だけツリィたちに向けていた。
『お前らがそれでもグリムを倒すというのなら、わたしたちも全力で抵抗する! 魔女の子を倒したいなら、わたしたち諸共倒せ!』
グリムリーパーはそんな三人の姿を見つめて、ひと筋の涙を流した。
『……ごめん、なさい。わたし……こんな素敵な、あなたたちを、駒として扱ってたのね……』
グリムリーパーは途切れ途切れにそう言って、自身の鎌を引き寄せる。刃の部分を手に持ち、その切先を上に向ける。
『少しだけ……理解した気がするわ。〈拳銃使い〉が、勇者たちといる理由が』
グリムリーパーは微笑んで、自身の喉元に刃を刺した。
それが最期だった。
グリムリーパーの身体は消え、魔王城への道が開けた。
『鍵』なんて物はなかった。
ただ勇者一行とツリィたちの間に、大きな穴ができたのだ。
残されたツリィたちはグリムリーパーの周りで涙を流していた。
『もう行け……勇者。さっさと、魔王を倒して来い』
ツリィは勇太に背を向けたまま、そう吐き捨てた。
ケン、リアムと穴の先へと落ちていく。最後まで動こうとしない勇太の手をマキが引いて、穴の中へと落ちていった。
「――っ!?」
その記憶とリンクするように、俺自身にも落下の感覚が襲う。
徐々に暗い空間へと落とされていく。俺は、このままどこへ……!?
「……がっ!」
突然、地面に叩きつけられ、ジワジワと背中に痛みが広がる。
動けないほどじゃない……俺は身体を起こし、目を開くと、そこは魔王城だった。
魔王と対峙した、あの部屋。
――戦闘の舞台は、振り出しに戻った……って感じか。
数メートルほど離れた先に、玉座に座った魔王がこちらを見据えていた。
「戻ってきたか勇者。さて、我がここでお前を倒せば、いよいよこの世界は終焉を迎える。たった一人の暴走が故に、何千人との〈プレイヤー〉が犠牲となるのは心苦しいが……。まあ、それは我には関係のない話だ」
俺は剣を構え、視線を動かし周囲を見渡した。
――いない……どこにも見当たらない。マキも、リアムも、ケンの姿も。まさか、みんなは……。
「〈リセット〉をし自決するなら今のうちだぞ? このあと、我はお前に容赦する気は毛頭ないからな」
魔王は立ち上がる。
「ああ。そうだ勇者よ、ひとつ聞きたい」
魔王は黒いドレスの裾を持ちながら言う。
「我のこの姿、どう思う? 最期に相応しい姿だと思わんか?」
「……そ、そりゃ、どういう意味だよ」
魔王は笑い、履いていたヒールを脱ぎ捨てた。
「そこはウソでも、似合っていると言っておけ」
瞬間、顔を上げると、氷柱状の氷が頭上に張り巡らされていた。
俺の脳天目がけて落下する氷柱。俺は避け切るも、その次は火の玉が迫っていた。
剣で防ぐが――熱い! ダメージは抑えられたものの、何度も攻撃を受けるわけにはいかない。
早いところ魔王を倒さねぇと。それから、早く仲間の安否も知りたい。
魔王を倒した先にはきっと……いるんだよな。
――今は仲間を信じて、戦い抜くしかない。
俺は、たったひとつしかない〈SKILL〉を発動し、手に力を込める。
「――〈風切剣〉!」
魔王の身体にその攻撃は命中……と言っても、傷ができることはなかった。
魔王のHPは未知数。
攻撃は当たるが、ダメージを受けているかわからない。
倒し方が決まっているのか、それとも、実は着実にダメージは受けていて、いつかそのHPが尽きるまで粘るのか……。
戦況が曇りゆく中、急に魔王は膝をついた。
魔王の身体は不定期に、調子の悪くなったテレビ画面に出るようなカラーバーがまとう――いや、より厳密に言うならば、表示されはじめたのだ。
「はっ……我も所詮、この程度……か」
魔王は立ち上がり、俺を睨みつけた。
「……だが、この程度で構ってられん。我が望むのはバットエンド、ただひとつだ」
直後、俺の足元には、大きな魔法陣が展開された。




