第10話・魔王の正体、それは――
魔王は目の前に巨大な魔法陣を展開させ、巨大なケルベロスを召喚させた。
「あの猫娘、一介の〈プレイヤー〉にして、よくやって見せたよなぁ。知っているか、勇者、この技――バグ技なんだよ」
ケルベロスは、俺に向かって牙をむき出し走り出す。
「魔獣の召喚を選択するときにな、〈SKILL〉選択も同時にするんだよ。するとなぜか、ケルベロス召喚をまだ覚えていなくてもできてしまうんだ」
ケルベロスはその巨大な身体をものともせず、素早い動きだ。悠長にしていたら、あっという間に食われてしまう。
「バグのデメリットとして、HPが勝手に削られていくんだがな。いやぁ、あのときの彼女が、そこまでのことを理解していたかは知らないが、その代償を持ってしても、お前のことが憎く、殺したかったのだろう。やはり彼女はゲームセンスがある。バグも見つけて、実行してしまうんだから」
俺は立ち上がり、ケルベロスの牙を剣で受けたが、即座に弾き返されてしまう。
真ん中の一匹が大きな口を開けた。俺、このまま食われ――。
「Bring it! 」
ケルベロスはギャンッと鳴き、体勢を崩す。
リアムだ。リアムが真ん中の頭を殴り、窮地を救ってくれた。
「相変わらず、こういうとき超助かるぜ! リアム!」
「Sure! オラのトクイブンヤってやつだ!」
ケルベロスは頭を振って、鼻息を荒くしながら俺らを睨みつける。完全にお怒りモードだ。早く鎮めて倒さねぇとな。
「ケルベロスに夢中なようだが、我がいるのも忘れるなよ」
魔王はその現実離れした跳躍力を見せつけ、軽々と巨大ケルベロスを飛び越える。
俺を見据え、右手の人差し指には小さな水の渦。
「ふむ。今度は我もこうしよう――〈ネーロマ〉!」
指先の小さな渦が放たれると、それは滝へと姿を変え、俺たちを飲み込んだ。
一瞬で方向感覚を失い、地面に立っているのかさえわからない。ただ水流に身を揉まれ、苦しさが増していく。
魔王は、これでもかというくらい、力の差を見せつけてくる。
……でも、だからってこのままやられっぱなしもいかない。何より、この状況で俺以外の誰かが犠牲になったら、もしかしたらもう――。
ここまで来たなら、みんな生きて魔王を倒したい。
激流の中、俺はほとんどヤケクソ気味に剣を振った。
するとどうだ、水流は晴れ、目の前には目を見開いた魔王の姿が見えた。
身体は空中を舞っていた。
水流から解き放たれたマキとリアムは地面に着地すると、
「Nice! ユータ!」
「勇者様! すごいのです!」
と、二人は歓喜の声を上げた。だけど、ひとり――。
ふと足元を見れば、ケルベロスが口を開け、俺が落下するのを今か今かと待っているところだった。
「大丈夫だ、ユータ。この程度では死なん」
銃弾が、三体の頭を突き抜けた。
倒れるケルベロス。左手を見れば、遠くから狙いを定めていたケンが立っていた。
「ケン!」
「ひと足早く脱出していた。悪かったな」
コイツはいつも、スマートな男だぜ。
俺は視線を魔王に戻し、落下の勢いのまま、魔王の頭へ向かって剣を振り下ろした。
魔王はその右手で刃を掴み、防ぐ。
「いい線いってるじゃないか、勇者。だが、まだ我もこんなところで倒れてられん!」
顔面を、魔王の左手で鷲掴みにされる。
「〈ホムミ〉」
刹那、目の前が真っ赤に染まり、熱せられた鉄の塊でも押しつけられたんじゃないかってくらいの熱さが俺を襲った。
悲鳴なんてあげる間もない。
熱さも痛みも一瞬だった。
また、俺は記憶の中をさまよっていた。
どうやらゲームオーバーする度に、魔王のデータベースの中を通っているらしい。
今度の舞台は〈ノスティモ村〉のようだ。
ギルドの前。ムギちゃんとソラちゃん姉妹と、俺らが談笑している。
『すごいニャー! みんなのために魔王を倒す冒険に出てるなんてさ! ね、ソラ!』
『そうね。突然でてきた魔王って、どんな人なのかしら』
どうやら俺らと姉妹はかなり良好な関係らしい。ソラちゃんが俺に臭いと言ったり、悪態なんてついていない。まったく、いつからそんなことを言うようになってしまったのだろうか。
……本当に、いつから、俺は魔女の匂いがするなんて言われるようになったんだ?
『魔王の正体がわからないと、探すのもひと苦労だよね〜。あ、そうニャ! ウチの占いで、言い当てるなんてことできないかニャ?』
『え!? そんなことができるのか!?』
魔王の正体、か。しっかし向こうの勇太の食いつき、すごいな。
『わかんニャいけど、ものは試しニャ!』
ムギちゃんは水晶玉を掲げ、呪文を唱える。
『魔王の正体、それは――』
そのとき、映像が乱れはじめた。
音にノイズがかかり、ハッキリと聞こえない。
チラホラと、時々その風景を映し出している。
そのとき見えたのは、ソラちゃんはムギちゃんの手を引き、勇者一行から逃げ出していくところだった。
なんだ? 何が起きている?
映像がハッキリしたとき、剣を引きずって浜辺を歩く勇太が見えた。
全身を赤く染め、焦点の合わない瞳で歩いている。
途中で足を止め、砂浜の上に座り込んだ。
何か操作しはじめている。あれは――。
勇太越しに、俺は勇太の操作画面を覗き込んだ。
彼は選択した――画面に表示された〈リセット〉を。




