第8話・さあ、この世界に終止符を打とう
ウノを倒しきることはできなかったが、リアムのおかげで俺は態勢を立て直すことができた。
「ユータ! 逃げろ!」
振り向けば、サノが砲撃の照準をのこちらに向けていた。
砲撃を受ける直前でなんとか躱し、それはウノの元に命中した。
ウノの姿が見えなくなるが、やがて煙が晴れると、ウノは怒りの表情でサノを睨みつけていた。
「サノ! 俺がおるのに撃ってくんなや!」
「別に死なないんだから、いいじゃないですか。わたくしたちの目的は勇者を殺しつづけること、ただひとつなんですから」
ウノはそんなサノに苛立ちを見せながらも、再び標的を俺に定めた。
「あー腹立つ! こうなったらトコトンやったるわ!」
ウノは右足を踏み込むと、俺に向かって一気に跳躍した。
再び混じり合う剣と剣。
攻防が続く中、背後ではサノと戦うマキとケンの音が聞こえる。
「リアム! とにかく今はサノをやれ! 俺はなんとかコイツを食い止める!」
「勇者らしいこと言ってくれるなぁ! 大して強くもないくせに!」
リアムは俺の言葉を受け、サノのほうへと走り出した。
「さっきの不意打ちはようやったわ。まさか今度は、あの男がやってくれるとはなぁ。でも、もう手も尽くしたやろ」
「さあ、どうだろうかね。どうやら俺たちは何度もここへは来ているようだし」
「強がり言ったって無駄や。何度来てようが、結局、何度も負けてるねんから」
剣さばきは圧倒的にウノが上だった。少しずつ圧されているのを感じながら、ただ倒れないことに集中する。
そのとき、爆発音が響いた。
音の根源を見れば、サノの召喚したはずのエキドナとは別に、もう一体のエキドナが出現していた。
俺はすぐに理解する――あれは、〈ミラネジャ〉で変身したマキの姿だ。
作戦会議の時に伝えた、とにかくなんでもいいから変身しろという、俺の指示を遂行してくれたようだ。
まさか神獣レベルのモンスターを真似できてしまうなんて驚きだが、よくやってくれた。
「エ、エキドナに変身しよったか!」
ウノは、少しばかり焦りを見せた。
――俺は、初めこそ、マキにサノに変身してもらう手を考えていた。だが、作戦を話しているうちに思い直したのだ。きっと、その手は確実に過去の俺がやっていると思ったから。
ウノはマキを見て舌打ちし、すぐに視線を俺へと戻し、睨みつける。
「まあええ。このままゼロ距離で勇者を殺――」
「ああ、存分にやってくれ」
――だから、俺はある賭けに出ることにした。一発勝負の、やり直しの利かない賭けに。
俺の余裕の笑みに何か勘づいたのだろう。ウノは手を止め、その奥に立つエキドナを見た。
「マキ! 頼むぜ!」
声を合図に、背中が徐々に熱くなるのを感じた。ウノは白く照らされ、その呆然とする表情を見て、そろそろ来ると理解した。
「……アホちゃうか。俺ごと砲撃を当てようなんて。だって、そんなことしたらアンタも――」
その先のウノの言葉は掻き消された。掻き消されたとも言えるし、俺の意識がなくなったとも言える。
◇
意識が戻ると、手を伸ばした先にセイバーがいた。
エキドナは見当たらない。代わりにちょうどモンスターを失ったところのサノがいた。
あのときの――戦意を剥き出しにして戦っていたときと違って、ウノの顔は青ざめている。
今、この隙しかない。
俺は一歩踏み込み、ウノの首に向かって、剣を振り払った!
突如の出来事に、ウノは俺にされるがまま、その剣を受け入れることになった。
ウノの首は胴体を離れ、空に舞う。
あとは――。
「……サノっ! 犬や!!」
首だけになったウノは、サノに向かってそう叫んだ。
どうやら、ウノはこの過去を知っていたらしい……同時に、過去、俺が同じことをしていたのだと、俺自身が知ることになった。
――『俺がウノの首を撥ねたら、すぐにサノの頭を撃ってくれ』……そう、俺はケンに作戦会議の時に伝えていた。
賭けというのは、この一点だ――ケンはその会話を記憶しているのだろうかということ。
戻る時間の前の記憶。それをほかのみんながどこまで引き継いでいるのか明確じゃない。だから、俺はこれに賭けたのだ。
果たして、賭けの結果は。
「――ッ」
銃弾は、ウノの叫びよりも早く、サノの頭を撃ち抜いていた。
俺は、この大博打に勝ったのだ。
瞬間、ウノとサノの身体はホログラムと化して、その実体は跡形もなく消えいく。
舞台は静寂に包まれる。
次のステージへの幕引きかといわんばかりに、大階段の頂上の扉が、キィキィと音を立てながら、ひとりでに開いた。
「……勝った、な」
俺は呟いた。
「Finally……魔王ってやつに会うのか」
「……いよいよか」
リアムとケンは、神妙な面持ちで扉の先を見つめた。
「……やっと、もう少しで目標は果たされるのですよ」
マキの瞳には希望の光が映っているように見えた。
「あ! そうなのです。魔王さん前ですから、回復しとかないとなのです」
マキは言って、杖を掲げると「〈オーバーヒール〉!」と唱えた。
俺ら全員のHPは全快し、身体の奥から力が漲るのを感じた。
「あとは、MPもしっかり回復しとかないとなのですよ」
言いながら、マキは何やら手元を操作し瓶を出現させた。以前、〈ユウカクガイ〉でも使用したMP回復アイテムだ。
「ありがとう、用意周到だな」
「こんなこともあろうかと用意していたのです!」
「Thank you! マキ!」
三人は、またいつもの調子で談笑しはじめた。
なんだかそんないつもの風景が、いつにも増して愛おしく感じる。
――このままこんな平和な風景を見ていたい。……だけど。
俺は、一番先に階段を登りはじめた。それに気づいたか、三人は俺の一歩後ろをついてくる。
緊張感に包まれながら、階段を一段一段上がっていく。
開かれた扉の前で、俺らは一度立ち止まった。
「ユータ」
「……ユータ」
「――勇者様。もう、あと少しなのですよ」
俺は扉の向こうへと、足を踏み入れた。
「ああ、さっさとケリつけてやろうじゃねぇか」
暗く薄暗い道を進んでいく。魔王のいるフロアに向かっているはずなのだが、進むにつれて、城内は石壁と壁掛けランプだけの質素な作りに変わっていった。
やがて広い部屋に出て、そこにはひとりの少女――セミロングの黒髪の、柔らかな丸い目を赤く光らせた少女が、身体のサイズにまったく合っていない巨大な玉座に座って、俺らを待ち構えていた。
「待ちくたびれたぞ、勇者」
少女は――否、目の前の魔王は言う。
「さあ、この世界に終止符を打とう」




