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第7話・少しずつ、難易度上げてきやがって

「……ッ!?」

「勇者様!!」


 マキの機転により、俺は身体を押し倒され、剣を回避することに成功した――しかし。


「……キャッ!」


 代わりに、マキがその剣の犠牲になることになった。マキは俺を押し倒した勢いのまま、床に倒れ込む。

 幸いゲームオーバーには至らず、頬を掠めた程度だったが、それでもマキの顔に傷をつけた事実は変わりない。


「テメェ! ウノ! いきなりとか卑怯だろ!」

「お前、二周目やろ。つまり戦闘は続いてるんやで。いきなりとかちゃう」


 言って、ウノはマキを見下ろした。


「……腹立つわぁ。偽善者ぶるなよ、女」


 そう吐き捨てるウノに、腹を立てずにはいられない。


「ウノ。そんなことより、もう一回勇者を殺しましょう。ここで殺せば――もう、わたしたちの勝利は、ほぼ確実です」


 サノは巨大な魔法陣を足元に広げたかと思うと、次の瞬間、黒煙を巻き上げながらモンスターを召喚した――あれは。


「――〈エキドナ〉、なのですか」


 どうやら本気で、ゆっくり時間をかけて戦う気はないらしい。


 サノはエキドナの背から俺らを見下ろし、空中に四つの魔法陣を展開させた。

 その魔法陣からは容赦なく砲弾の雨が降り注ぐ。

 次々と破片が巻い、煙が立つ。視界は阻まれ、俺ら四人は散り散りになる羽目になった。

 だが、視界が悪いのは向こうも同じ。


「お前ら! こっからは作戦どおりにいくぞ!」


 三方から「ラジャー!」という声が聞こえた。よかった、みんなまだ砲弾の被害には遭ってない。


 まだここで、ゲームオーバーするわけにはいかない。


 砲弾は全体を狙って攻撃しているが、明らかに俺に向かってきている数が多かった。俺を殺し、さっさとこのゲームを終わらせたいという企みが見て取れる。


 一方、ウノだってそれを黙って見ているはずがない。


 俺は背後に感じた気配を察知し、剣を払う。

 剣先越しに、攻撃を防がれて不服そうな顔を浮かべるウノが見えた。


「……さっさと斬られてれば、苦しい思いをせずに逝けたんに」

「残念ながら、俺にはまだまだ残基が残っててな。ここで死んでも、また次の地点で殺されつづける――そうだろ!?」


 剣を押し切り、ここぞとばかりに連撃をする。


「無駄やで、勇者。そんな一生懸命戦ったところでなぁ。圧倒的にお前らが不利なんやから」

「うるさい! やってみなくちゃわからねぇだろ!」

「んじゃあ、ひとつ言い当てたるわ」


 俺としては一ミリも力を緩めたつもりはないが、ウノはさっきから涼し気な表情だ。


「勇者は俺の相手。ほか三人はサノを倒し切るって分担にして、ある賭けに出ている」

「……!」

「このどさくさに紛れて、あの魔法使いが〈ミラネジャ〉を使い、サノに変身するんや。そして俺を惑わし――不意打ちをしようとする」

「……過去の俺はそうしたのか」

「ああ。それで、俺(・)は(・)サ(・)ノ(・)ご(・)と(・)倒(・)し(・)た(・)」


 ウノは鬱陶しそうに剣を捌きながら、ふと左手に拳を作ったのが見えた。


「お前のやろうとしていることは、過去と同じや。お前は毎回ここで倒され、逃げていく。でも、今はもう逃げられんやん?」

「そんなことない! 俺は一度、魔王の元へ辿りついたことは知っている! 今回も、倒す道があるはずだ!」

「……! それは、でもサノが知っている!」


 俺はその返答に違和感を覚えたが、しかし推測していたことでもあった。


 サノと出会ったとき、なぜかハッキリと発言しない部分があった。

 ウノとサノは魔王のように過去をすべては知らないんだ。というより、ウノとサノ、それぞれ保有している過去(きおく)が違うようだ。


「……ッ!」


 瞬間、俺の視界はぐらりと揺れた。ウノは隙を見て、俺の顔面を殴りつけてたのだ――左手の拳には気づいていたが、剣ばかりに集中していて、まったく避けきれなかった。

 殴られた頬が痺れ、頭がガンガンする。とてもバランスを保っていられなくなり、俺は膝をついた。


「戦闘力じゃ、俺のほうが上や!」


 俺は顔を上げた。ウノは、今か今かと剣を振り上げていた。


「――いや、それでも勝つのは俺たちだ!!」


 俺は叫んだ。ウノは自身の背後の気配に気づいたが、もう遅い。


「ユダンタイテキってやつだ!」


 背後に回っていたリアムはウノの剣を奪い取り、その背中を斬りつけた。

 その不意打ちはかなりのダメージになったようで、ウノはみるみるうちにHPを減少させ、倒れ込む。


 ――しかし。


「バカですか、ウノ。必ずしも、勇者以外の三人は、わたくしを相手しているとは限らないんですよ。いつもそうだったじゃないですか」


 サノはエキドナの上からそう呼びかけた。


「……んなの、俺は知らんかったんや」


 ウノは重傷を負ったとは思えないほどに軽々と立ち上がる。

 そりゃあそうだ。この数秒の間で、ウノの背中の傷はあっという間に塞がり、体力は全快してしまったから。


 ――やっぱり、そういうことか。


 俺はひとり、奥歯を噛み締める。


 前回、ウノがケンにより頭を撃ち抜かれたとき、急所をやられたウノは一度HPが0になっていた。だが、その直後、傷は完治し、HPが全快していたのだ。


 おそらく、サノが生きている限りウノは倒れることはない。逆もまた然り、だ。


 今回の戦闘の勝利条件、それは――同時討ち。


「少しずつ、難易度上げてきやがって」


 だけど、クリアするしかない。

 ここまで来たら、あとには引けないのだから。

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