第6話・逃げ道はもうない
「勇者様? 開けないのですか?」
マキに言われ、俺は我に返る。
思えば、ずっと扉の取手を掴んだまま、ボーッとしていた。
――ボーッと……? いや、違う!
俺は後ろを振り返る。
長い長い廊下。しかし、その奥は黒い闇に包まれ、先が見えない。
前回は、廊下を歩いている途中で目覚めた。
今は、扉の前で目が覚めた。
――戻る時間が、前回よりも短くなっている。
サノが言っていた、『勇者の退路を、断ち切ってやりましょう』ってのは、まさか――戻れる時間をなくしていくってことか。
――クソっ。ここに来て新ルールなんて、やってらんねぇぜ。
「ゆーうーしゃーさーまー?」
マキが顔を覗き込んできた。俺はその距離の近さに驚いて、思わず一歩あとずさる。
「どうしたのですか。あ。もしかして、入るのに怖気づいた、とかなのです?」
マキはそうからかった。それに便乗して、リアムも「ビビり勇者! ユータ!」とヤジってきた。
ケンはそんな二人を見て、「二人とも、魔王城にいるというのに呑気なものだ……」と呆れ顔だ。
この様子じゃ、三人からしたら、今までただ廊下を歩いてきただけと認識しているに違いない。ウノとサノの戦闘を覚えているのは俺だけか。
しかし……今戻ってきたのが扉前。もし、次もまた戦闘でやられたりしたら、次に戻る先は戦闘中かもしれない。
そうしたら、いよいよ勝ち目はなくなる。
どうにか、ここで戦いを終わらせないといけない。
「…………」
もし、今もウノとサノはこの様子をどこかから見ていて、俺の行動で次の戦闘の対策を練るのだとしたら。
……今までの俺が取ってこなかった戦法は、何かないか。
…………。
――ひとつ、これは賭けになるがやってみるしかない。
「……なあ、マキ。西エリアでのこと、覚えてるか」
「え? なんなのですか、急に……?」
「西エリアで、まだケンと仲間になる前だ。新しい武器をゲットして、それからケンとどうやって戦って勝つか、リアムと三人で話し合ってたよな」
「そんなこともあったのです。懐かしいのです」
「もう、覚えたんじゃないか」
俺は言って、マキの持つ杖を見た。
マキはひとつ間を空けて、それから目の色が変わった。どうやら、俺の意図を読んでくれたらしい。
「? オ、オラとケンだけ仲間ハズレってやつだ!」
「僕はなんとなく予想がついたぞ」
「What!?」
さすがケン。そのあたりは、すぐに察しがついたらしい。まあ、ケンもある意味当事者だもんな。
一方リアムは……うん、いつもどおりだ。それはそれで置いといて。
「……この先に、ウノとサノっていう魔王の前に、ひと悶着ある。必ずこの一発で倒したい。そこでだ――」
俺は三人に作戦を伝え、その扉を開けた。
扉の先では、もうムギちゃんとソラちゃん姉妹に化けたりなどしておらず、正々堂々、ご本人の姿で待っていたウノとサノがいた。
――いや、ウノだけは違う。ウノは、セイバーの姿で待ち構えていた。
「なんだその姿、気に入ったのかよ」
「これが一番しっくりくるねん。この〈プレイヤー〉、なかなかに強いしなぁ」
背後の扉は、自重で錆びついた音を立てながらゆっくりと閉まる。
逃げ道はもうない。
あとは二度目の正直ってやつで、勝つだけだ。
――そう意気込んだと同時に。
「……ッ!?」
ウノの剣先が、すでに俺の喉元近くまで接近していた。




