第4話・はあ。じゃあ、やりましょうか
「……あ! やっと何か見えてきたのです!」
意識がハッキリすると、俺は三人といっしょにあの薄気味悪い廊下にいた。
突然立ち止まった俺に、三人は二、三歩先に歩いたところで立ち止まった。
「どーした、ユータ?」
俺そこでひとつ思い至る――なぜ、魔王城扉前ではなく、廊下にいるんだ?
俺は記憶の中で、最後は魔王によって殺された。ゲームオーバーした。今までどおりなら、セーブ地点へ戻ってくるはずなのに……。
「ユータ……その感じは、戻ってきたのか?」
「えっ。でも、勇者様、わたしたちと歩いている間、〈セーブ〉なんてしていたのですか?」
どうやら俺が記憶を巡っている間、マキたちの中では、ただ四人でこの場を歩いていたことになっているらしい。
「……いや、なんでもない。で、マキ、何が見えてきたんだ?」
俺は記憶での出来事を持ち出すのは止め、マキに話を振った。
記憶の話を――三人が知らないで済んだ悲劇のことを、わざわざ教えなくてもいい。
俺に話を投げかけられたマキは、前方を指差しながら言う。
「ほら、扉が見えてきたのです! やっと先に進めそうなのです!」
前方には、ずいぶんと年季の入った木製の扉があった。俺が先頭に立ち、恐る恐るその扉を開く。
扉の先は、大広間が広がっていた。
一番奥には大きな階段があり、その先には重厚な観音扉がある。おそらく、あの先にこそ魔王がいるのだろう。
ほかに窓などもなく、天井高くに飾られたシャンデリアの光だけで、室内は照らされていた。
そして、何よりも驚いたのが――。
「ユータ……ユータ!!」
ムギちゃんとソラちゃんがそこにいたのだ。
「ムギちゃん、ソラちゃん! どうして、こんなところに……!」
「わからないの! 目が覚めたらここに……!」
俺は今度はソラちゃんを見た。ソラちゃんは無言で時折ムギちゃんを横目で見ている。
「でもよかった〜。ユータたちと会えてひと安心だよ。と、とにかくここから早く出たほうがいいよねっ!」
ムギちゃんは、ゆっくりとこちらへ近づいてくるが、途中でその歩みを止めた。
ムギちゃんは笑顔のまま首を傾ける。
「――ねぇ、どうして、さっきからこっちへ来てくれないの?」
大広間の中央にいるムギちゃんとソラちゃん。しかし、俺らは駆け寄ることなく、扉の前で二人を見ていた。
「ねぇ、どうしてみんな、武器を構えてるの?」
さらに、ムギちゃんはそう言った――そのとおりだった。
ムギちゃんは真っ黒い瞳をこちらに向けながら、再度問う。
「ねぇ、ユ――」
「――我慢ならんな」
破裂音とともに、ムギちゃんの言葉は掻き消された。
ケンの銃弾が、ムギちゃんの額に命中する――否、目の前にいるのはムギちゃんじゃない。
「化けの皮を剥がすのは、僕がやる」
相手は、撃たれた衝撃で後ろへ仰け反ったが、地面に倒れることなく、立ったままその衝撃に耐えきった。
姿勢を戻したときには、もう額の傷は消えていた。 〈プレイヤー〉からしたら即死だが、コイツらは例外で、HPが0になるまでは何があっても倒れない……のか。
俺は目を凝らし、ウノのHPを見る。
「……あれ、おかしいな。お前、いつも騙されてたのに」
ムギちゃんの姿をしたソイツはそう呟いた。
その言葉をきっかけに、ムギちゃんの姿は透けていき、やがて内側からやっとソイツの正体が見えた。
ソイツの背後にいたソラちゃんも、その仮初の姿を消して本来の姿に戻っている――セーラー服の少女、サノだった。
「だから言ったじゃないですか、ウノ。もうその手は使えないって」
ムギちゃんに化けてたソイツ――学ランを着た少年は、舌打ちした。
「名演技かと思ったのになぁ」
少年――ウノは言った。名演技だなんて、笑わせてくれる。
「……せめて、語尾にニャンくらい付けろ。それにサノ……だったな、本物のソラちゃんなら、そんな離れた位置から興味なさそうに姉ちゃんのこと見てねぇよ!」
俺が言うと、ウノは不貞腐れ、サノはどうでもよさそうに聞き流していた。
「まあ、初手は失敗に終わりましたが、ここで勇者たちを叩き潰せば問題ないですよ。勇者の退路を、断ち切ってやりましょう、ウノ」
「わかってるよ、サノ」
ウノとサノは、背中合わせに立ち、俺らを見やった。
魔王の元へ行きたきゃ、まずは俺たちから倒せ――そういうことか。
「やるぞ、みんな。いい加減、この物語を終わらせねぇとな」
「はい、なのです」
「オラ、とっくにジュンビバンタンってやつだ!」
「……ああ」
ウノの強さは、前回のセイバーとの戦いで知っている――だが、それがなんだ。いくら強かろうと、俺には仲間がついている。
「はあ。じゃあ、やりましょうか」
サノのため息とともに、戦闘は開始された。




