第1話・どのエンディングを選ぶのか、決めましたか?
「ついに魔王だ。気合入れてくぞ、お前ら!!」
「「「「エイ、エイ、オー!」」」」
マグマに囲まれた孤城――魔王城。
いよいよ、俺らは最終舞台へと足を踏み入れようとしている。
魔王城へと落下中、俺らは心をひとつにして叫んだ。
もう覚悟はできている。
残るは魔王を討ち取る――ただそれだけだ!
「――でも、こんな高さから落ちて、俺らは無事なのか……?」
現状を目の当たりにし、急に一抹の不安がよぎった。
「さて。みなさま、そろそろ魔王城扉前へと着地です。準備をしておいてください。大丈夫です、死にはしませんから」
サノは言って、俺は焦り出す。
「え!? 無理無理無理! こんな高さ死んじゃうって!」
言っている間にどんどん地面は迫っていく。俺、ここまで来てゲームオーバかも……。
南無三!! と、心で叫んだ瞬間、リアムが先に「Ouch!!」と地面へと落ちた。
「ぐへっ!」
そのままリアム上に落ちる俺。
「あうっ!」
さらにマキが俺の上に落ちてきた。
まさに今、傍から見たら鏡餅状態である。
「……っと。大丈夫か、ユータたち」
ケンだけは、ひとり軽やかに地面に着地していた。
「さてさて。みなさま、無事に着地できたようですね」
最後にサノが舞い降りるように着地し、そう言った。
「こちらの扉を潜れば、もう引き返すことはできません」
よくあるパターンだな。最終ステージに入ったら、後戻りできないってのは。
「ですので、〈セーブ〉しておくことをオススメいたします」
〈セーブ〉、と言われ、一瞬心臓が跳ねる。
――魔女の子とはまた違うようだし……俺の〈SKILL〉のことを知っているのは当然か。
相手がどんな奴かわからない不安の中、俺は勧められたとおり〈セーブ〉をした――しかし。
「ま、ここで 〈セーブ〉 をしても、あまり意味がないんですがね」
サノは自ら勧めておきながら、そんなことを言った。
「だって、このまま魔王様の元へ進むだけですから。特に何もありませんよ」
どういうことかと思ったが、すぐにサノはそう説明してくれた。
「ですが、念のため、です。というより、形式上? ですかね。一部のゲームでは、大きなイベントに入る前に 『セーブしますか?』って聞かれるじゃないですか。わたくし、ゲームをやったことはないのですけれど、知識はあるので」
サノは言って、首を傾けた――それはおそらく、ドヤ顔をして見せてるのだろうか。ずっと変わらず無表情なので、ただ首を傾げただけにしか見えないのだが……。
「さて。外で長話もなんですし、中へどうぞ」
そして、扉は開かれる――サノは、自力で重い身体を動かしている扉を背にしながら、俺に問う。
「勇者。今まで、わたくしどもの用意したイベントを楽しんでいただきましたが、答えは決まりましたか?」
イベント――それぞれの国の出来事か。
俺たちは魔女の子と戦い、色んな人と出会ってきた。物語を歩んできた。
「答え……ね」
「はい。どのエンディングを選ぶのか、決めましたか?」
エンディング、か。
正直、心が痛むものがある。
だけど、俺は決めた。
俺は、もう一度、魔女の子――グリムリーパーと戦っていたときのことを思い出していた。
――人に言っといて、自分だけ逃げるわけにはいかないだろ。
俺は、選択肢と向かい合う。
『ひとりを犠牲にし、みなを救うか。みなを犠牲にし、ひとりを救うか。もしくは――みな、仲よく犠牲となるか』
魔王の提示した、三つの選択肢。
俺の選ぶ最後は、すでに腹に決めてある。
「――エンドロールを見る準備はできてるぜ」
「頼もしいですね。これは、勇者にしかできないことですから」
俺とサノの会話を聞いていた三人は、気難しげな顔をしていた。
「ユータ、何の話、してる?」
「わからん……だが、詮索しないほうがよさそうだ。僕らは僕らで、できることをしよう」
「……はいなのです」
後ろから、そんな三人の会話が聞こえた。
そうこうするうちに、扉は完全に俺らを迎え入れる姿勢が整ったようだ。
「わたくしはこの先で待っています。では、勇者一行、よい旅を」
サノはそう言い残すと、扉の奥へ溶けるように消えていった。
俺らは覚悟を決め、扉の奥へと足を進める。
真っ暗で何も見えない。とにかく前へと進んでいくと、ふいにひんやりとした冷たい空気が頬を掠め、闇は開けた。
「……っ!」
魔王城――城と言うからに、おぞましくも絢爛豪華な内装を思い浮かべていたが、そんなことはなかった。
真っ直ぐに伸びていく廊下。ただその床は所々凹んでいたり、廊下の中心に敷かれた絨毯は古く、汚れていた。左右の壁には、ボロボロに引き裂かれたカーテン、割れた窓ガラス。等間隔に置かれた照明には、蜘蛛の巣がかかっていた。
それはもう酷いありさまだった。
これでは、ただのボロ屋敷だ。
「……勇者様」
マキは俺の手首を掴んだ。肩は小刻みに震えていた。
「…………行こう」
俺はマキの手を引き、リアムとケンも戦闘態勢を整え、再び歩き出す。
そうしていたはずなのに。
気づけば、俺は。
「――っ!?」
いつの間にか三人とはぐれ、ひとり見知らぬ草原に立っていた。




